電車でデート

電車デート。


いつだったのかなぁ、私が電車に乗ってたのは。

高校の時は、何時も、やっさんが送り迎えしてくれてたから多分中学くらいかな…

えっ、何で中学だとやっさんが送迎してないのかって?

だって、やっさん、その頃、刑務所の中だもん。

やっさんの商売柄、警察のお世話になることが多いの。

どんな仕事かって?

うふふ、怖ーいおじ様たちがたくさん集まって、怖ーいものを扱うお仕事。

つまり、暴〇〇。

だから、道路交通法違反は、気にしなくていいのよ。

わかるでしょう?


それはさておいて、溝川先生は、私の姿を見ると勇んで傍に近付いてきて・・・


「メイさん、今日は宜しくお願いします。」


だって。

何を宜しくお願いされたらいいのか分からないけど、あからさまに私が年上て感じがするからちょっと腹が立ったわ。

でも、私服の彼は、やっぱりイケメンに相応しい服装で、周囲の目を引いていて。

近くに女子高生のグループがいたんだけど、こちらを見ながら、羨ましそうにしてたの。

私のどや顔、しっかり見られたかも…


溝川先生は、迷った顔で。

「この電車でいいんですか?どこまで行きますか?何時頃帰りましょうか?」

だって。

質問攻めで、しかも自己判断無し。

俺について来いってタイプも引いちゃうけど、何にも自分でしない人も困っちゃうな。

でもイケメンだから許せちゃうけど…


ホームに電車が入ってきても溝川先生は、まだオロオロしてる。

「この電車でいいんですか?これ何処まで行くんですか?」

ちょっと、苺瑠と一緒に電車に乗る気分だったわ。

そんな子供みたいなところも可愛いから好き。


電車は空いていて、座席に二人並んで座れたの。

私が座る位置から離れて座ろうとする溝川先生。

私の事嫌いなの?

でも、発車時間が近付くにつれて、乗客が多くなって、溝川先生と私との距離はどんどん近くなって、結局、おしりとおしりがくっつくくらいぴったりと寄り添う形になったの。溝川先生の顔をふと見ると、真っ赤になってて、熱いのかなって思って。


「先生大丈夫?」


って聞こうとしたら、先生が突然立ち上がって。


「メイさん、狭苦しいでしょ、僕立ちますね。」


って・・・


そんな純情な青年の溝川先生は、1時間半、ずっと駅到着までそのまま立ってたの。


着いたところは、私が行きたかったアニフェス会場のある駅。

好きなキャラクターがあってそのグッズがどうしても欲しくて。

駅に着いたら、私は速足で、改札口に向かったんだけど、振り返ったら先生が重い足取りでどたどたとおじさんのように歩いてて。


「先生、若いんだから、体力位ないとね…」


改札を出た私の目に飛び込んできたのは、人、人、人の大群。

甘いものに群がる蟻のようにゾロゾロとどこからともなく人が湧いてくる。

ひとえにオタクの集団なんだけどね。


「メイさん酷いですよー!僕を置いとけぼりなんてぇー・・・」


改札口を遅れて出て来た溝川先生はその言葉を残して何故か改札に戻って行ったの。

先生はね、非常に出来た人見知りで、電車で一杯一杯の状態に加えて、このアニフェスへ向かう人の多さに尻尾を巻いて逃げ出してしまったの。

私はあっけにとられたけど、しっかりパンタロンマンのキャラクターグッズを手に入れてアニフェスをたっぷり楽しんだわ。

帰りは、警察から出たばかりのやっさんに電話して、溝川先生が乗った帰りの電車時間よりも早くお家に帰ってきたの。

やっぱり年の功ってあるみたいね。


その後、溝川先生とは会ってないの。

ママ友に聞いたところによると、学校に来なくなったって。

家に引きこもっているみたい。

私心配になっちゃって…

彼の住まいは実家だから、様子を見に行くには敷居が高くて。

イケメンだったけど、私たちの恋は終わっちゃったかな?

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