第39話 結婚式
翌日私たちは部屋から出されると、リリーの支度を手伝わされた。
銀色の聖女用のドレスにはさらにふんだんにレースがあしらわれ、色とりどりの宝石がちりばめられている。
その豪奢なドレスさえもリリーは着こなしている。
私たちは無言で髪飾りやお化粧をリリーに施した。
ホワイトブロンドの輝く髪をゆったりと巻き、頭上に宝石がいっぱい付いた銀色のティアラを載せる。
(リリーってば……またこんな贅沢をして……)
ドレスの着替えも手伝ったが、呪具らしきものをリリーは持っていない。
焦る私を見透かしたようにリリーがくすりと口を開いた。
「あとはこれを付けて頂戴」
ドレッサーの上に置いてあった化粧箱を指し示す。
言われるままそれを開くと、そこには大きなルビーが付いたネックレスが納められていた。
「これ……」
固まる私の横から覗き込み、アネッタが眉を寄せた。
「そう。昨日アンが私にプレゼントしてきたのよ? 結婚式で身に付けて欲しいんですって」
くすくす笑いながらリリーがこちらに視線を向ける。
「さあ、付けて?」
鋭い眼差しで私を捕らえる。
私は震える手でネックレスを取り出し、リリーの首にかけた。
「ふふ、まさかアンから独占欲丸出しなこんな物をもらえるなんてね。貴女が売り払った物よりも大きなルビーでしょう?」
リリーはネックレスに手を差し入れ、見せつけるように持ち上げた。
アンディ様が新しい物を買ってやろうか? と言っていたのを思い出す。
それは丁重にお断りしたが、わざわざ結婚式のために準備してくれたのだ。
「知ってた? 男が女にアクセサリーを贈るのは独占欲の現れなのよ? アンってば、印だけじゃ足りないみたい」
自身の手の甲に刻まれた星の紋様を見せつける。
「……っ、それは本当はっ」
アネッタが悔しそうに何か言おうとして、リリーに頬を叩きつけられる。
『アネッタ!!』
その勢いで床に倒れ込んだアネッタに慌てて駆け寄った。
「それは? 何?」
庇うようにアネッタを背中に隠した。
「……貴女は私が持っていた物をそうやって簡単に奪っていくのね」
『!? アネッタは物なんかじゃない!』
ぎりっと唇を噛みしめるリリーの瞳には殺意が見えた。
「全部全部私の物だったのに……貴女なんかが簡単に手にしていいものじゃないのよ。アンもね」
『!!』
「リリー様、大聖堂の準備ができましたぞ」
副神官長の身体を乗っ取った神官長が部屋にやって来た。
「今回は神殿と聖騎士団の関係者しか列席できませんでしたな」
私を睨んでいたリリーは神官長の方へ顔を向け、笑みを浮かべた。
「仕方ないわ。式を急いだんですもの。でも改めて王族やハークロウ、グランジュ侯爵家を揃えて盛大なお披露目式をするからいいわ。また新しいドレスを買えるし。今日は貴方の承認と聖堂で誓うことに意味があるんだから」
「ハークロウを手中に収めれば、聖騎士団の情報も簡単に手に入ります。これでまた教会の思うままですな」
醜悪に歪む二人の顔が恐ろしい。
(この二人は本当に国家簒奪を企んで……)
パチン、とリリーが指を鳴らす。
「きゃあ!」
『アネッタ!?』
後ろに隠していたアネッタがいつの間にか昨日の騎士に捕らわれていた。
「さあ、リリアン、貴女もそこのドレスに着替えるのよ? 今日は私のベール持ちなんだから。アネッタはその騎士と一緒に参列するようよ?」
アネッタまで人質に取られてしまった。おかしな行動をすればアネッタの命はないということだろう。
(とにかく、呪具を見つけないと……)
リリアンに目をやると、隣に並ぶ副神官長も目に入る。
彼に似つかわしくない、金のクロスが付いたネックレス――
(あれが呪具です!)
二人に悟られないよう、目線を落とす。あの禍々しさは二人に見えないのだろうか。平然と話している。
(リリーじゃなくて神官長が持っていました)
早まる鼓動を落ち着かせるように考える。
(彼が承認するということは、今日の進行は神官長です。近付く機会はきっとあります)
ちらりとアネッタに目をやる。
(あとはアネッタの安全とシスターの身柄の確保です)
シスターはまだクローゼットに監禁されているのだろうか。
(全員聖堂にいるなら、アネッタさえ逃がせれば……)
聖騎士のスパイは二人だと、昨日リリーが言っていた。ルートは牢屋だし、もう一人はアネッタを見張っている。
「アネッタ、手伝ってあげなさい」
「は、はい」
リリーは神官長、騎士とともに部屋の外に出た。
私は用意されていたシンプルな銀色のドレスをアネッタに手伝ってもらいながら着替える。
声が出せない私はアネッタの手を取った。
「リリー様?」
掌に「逃げて」と指でなぞる。
こくんと頷いたアネッタの手を握ると、私たちはリリーたちと一緒に聖堂へと移動した。
聖堂に辿り着くとすぐにアネッタと離された。チャーチベンチへと騎士がアネッタを連れて行く。
最初に
アンディ様はいつものスカイブルーの制服ではなく、銀色に輝く聖騎士団の制服に身を包んでいる。
その美しさに思わず見惚れてしまう。
「ふん、貴女には不相応な男よ。あれは私の物なんだから」
私の表情を見たリリーが嘲るように言った。その言葉に傷付く自分が嫌になった。
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