竜と私の異世界生活
@akasatana_0093
第1話 目覚めと小さなドラゴン
どこかの森の中。
木々の隙間から差す陽の光に照らされた少女リコは眩しそうに目をうっすらと開けた。
夢見心地でボーっと空を少しの間見上げていると、徐々に頭がさえてきたのか、赤い瞳を大きくした。
「……ここは?」
陽に照らされて輝く金色の髪を揺らしあたりを見る。
一面森の中、ふと木の上に彼女にとって見たことない小動物がいた気がするが、サッと姿を消した。
彼女は動揺しつつ体のあちこちを動かし始めた。
その時だった。
リコが動かした手に何かが触れた。
彼女はギョッとしつつその正体を見た。
黒い鱗に覆われた小さな存在。
細長い尻尾と小さな体と同じくらい小さく、だが鋭さも感じる立派な翼。
彼女は本能的にこの小さな存在が何かが分かった。
「ドラゴン……?」
彼女がそう言ったとき、ドラゴンはちょこんと耳先を立てた。
そして大きなあくびをしながら目を開け、赤い瞳で彼女を見た。
リコは小さなドラゴンと少し見つめあった。
ドラゴンは何もしてこない。
彼女に興味があるのか分からないが、ただジッと彼女を見つめている。
「ねえ、ここがどこか分かる?」
彼女の問いかけにドラゴンは首をかしげた。
リコは「そりゃそうか」と自虐的な口調でぼやくと、辺りを見渡しながら歩きだした。
本当にここはどこなのだろうか?
そんな疑問を持ってキョロキョロしているとき、ふとドラゴンが彼女の後ろをトコトコとついてきていることに気がついた。
リコは立ち止まると少し考え、こう訊ねた。
「わたしと一緒に来る? その……仲間は多いほうがいいしね。それに私自身、ここがどこかも分からないし」
ドラゴンはリコを見上げたままじっとしている。
しかしリコが手招きすると、意味を理解したのか翼を広げて飛び、彼女の肩に乗った。
リコは一瞬おどろいたが、リラックスしているドラゴンを見てすぐに気にしなくなった。
「そうだ。せっかくだから名前をつけよっか」
リコはドラゴンの小さな頭をなでながら考えはじめた。
そして「じゃあ『クロ』でどうかな?」と言った。
ドラゴンは分かってない様子で口を開けた。
一方のリコはというと、名前が安直すぎるかなとぼやき、ほかにいい名前が無いか考え始める。
が、とくに思い浮かばず自分のセンスに少しげんなりしてしまうだけだった。
♢
リコ達は行く当ても無く歩き続けた。
まず森を抜けること、ただそれだけを目的にだ。
幸い日はまだ高く、辺りも明るい。
しかしいつまでも明るいままではない。
夜になれば当然危険だ。
リコは武器と呼べるものは何も持っていない。
それにクロはドラゴンだがまだ子供。
オオカミのような危険な動物と戦えるわけがない。
彼女は自分たちが置かれている状況がかなり危険である事を重々承知していた。
しかしその事ばかりを考えていると余計に不安になる。
リコは紛らわせるように時々クロに話しかけた。
「大丈夫。きっとどうにかなるから!」
一方のクロは彼女の考えなど知らないかのように目を丸くして辺りを興味深そうにキョロキョロしたり、眠ったりしていた。
そんな調子で歩いている内に辺りは暗くなり、夕暮れとなった。
リコは頭を抱えながら集めた木の枝を前に座った。
「やばい……夜になる。結局森の中だし食べ物も無いよ~……」
火を起こそうと四苦八苦しながらリコはそんなことを言った。
火はなかなか付かず、徐々に焦りばかりが積もっていく。
クロは相変わらず眠っていた。
少しくらい手伝ってくれたらいいのに……。
そんなことを思いながらクロの方を見た時だった。
「ッ?!」
彼女の視界に仄暗い森の中からこちらをのぞく黄色くどう猛な目が入りこんだ。
それがオオカミのものだと彼女はすぐに悟る。
武器は何も持っていない。
リコはとっさに近くに落ちていた大きめの石を握って立ち上がった。
突然のことにクロはびっくりして目を覚ます。
そしてクロはじわじわと近づいてくるオオカミに気がついた。
「……クロ」
リコは切羽詰まりながらクロに呼びかけた。
「クロなら逃げきれるよね?」
その時、オオカミがリコ達めがけて走りだした。
そしてとびかかった時、リコは横に飛びのき、クロはバサッと空に飛びあがった。
リコは転がり態勢を立てなおす、が――
「ッはや――?!」
オオカミがそれよりも早くリコに飛びかかり、リコは押し倒されしまう。
彼女と同じくらいかそれよりも大きな体躯。
リコはなんとか踏ん張るが、かまれないようにもがくことで精いっぱいだ。
ここで終わる? 知らない世界で? 夢ならよかったのに体が痛い、これは夢ではなさそうだ。
リコの脳裏にはいまこの状況に対する絶望の言葉が滝のようによぎりだす。
だが絶望の言葉の洪水を吹き飛ばすかのように、リコは熱い熱波を感じた。
それは炎、まさしく炎であった。
オオカミの脇腹にどこからかメラメラと緋色の炎がまるで押しのけるようにぶつかっていたのだ。
オオカミがたまらずリコから離れると、炎は消えた。
リコは「あつい!!」と叫びながら服に少し引火した火を消すために地面を転がった。
「にしてもいまのはいったい……」
その答えをリコはすぐに理解した。
彼女から少し離れたところで飛んでいたクロ。
クロの口端に赤い炎が燃え盛っていたのだ。
あの炎がクロによるものだと知ったリコは安心したのか「なんだ、戦えるじゃん……」と弱弱しく笑った。
クロはリコの方を一瞬見たが、すぐにギョロりとオオカミの方に視線を移した。
オオカミは怒りのこもった目をクロに向ける。
獲物をクロに変えたようだ。
オオカミは牙をギラリと光らせてクロめがけて走り出した。
対するクロは大きく息を吸い、オオカミめがけて辺りが昼かと間違えるほどの炎をオオカミめがけて吐いた。
だがオオカミは炎に当たるすんでのところで回避し、クロめがけて走り続けた。
オオカミはクロに肉薄し飛びかかった。
クロはギリギリのところで飛び上がる。
オオカミは空を噛むと、空に飛びあがったクロを逃さないように見上げた。
その時、オオカミの体に石がぶつかった。
オオカミは石が飛んできた方――石を投げたリコの方へ向き直した。
「グルルッ……」
オオカミはリコへと駆け出す。
だが直後、オオカミをまるで焼ききるように空から炎が降り注いだ。
オオカミは短い悲鳴をあげ、転がりながら森の中へと消えていった。
リコはオオカミがいなくなったのを確認すると、降りてきたクロを「ありがとう、クロ。クロがいなかったら死んでたよ」と言って労うように頭をなでた。
クロは目を閉じ短くうなると、リコの肩の上に乗った。
「そうだ、ねえクロ。炎を吐けるのならさ、たき火の火をつけてくれない?」
そう言ってリコはクロを肩に乗せたまま散らかった木の枝を集めて言った。
クロは初め理解していなかったが、何度もリコがお願いするうちに火が欲しいことを理解した。
クロは任せろと言わんばかりに大きく息を吸った。
しかしそれだと火力が強すぎるとリコに止められた。
ようやく火がついたのは、それからしばらく経ってのことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます