カノアの秘密調査

花道優曇華

第1話「探偵事務所リブラ」

様々なゴシップがある。中にはでっち上げの嘘も真実であるかのように

流されている。嘘によって被害を受けた人間は数知れず。救われた者の

数は非常に少ない。自分たちより金も権力もある相手は揉み消すだろう。

諦めるしかないのか?どうにか味方を探していた。腕利きの探偵は?

警察を動かすことが出来る証拠は無いの!?


「何…これ…」


見つけたサイト。探偵事務所リブラと書かれていた。リブラ、天秤。

公平さが売りなのだろうか。


『真実、暴きます。秘密、守ります。必要事項を記入し、メール・依頼書を

送ってください』

「もう、藁にも縋るしかない…!私の人生を滅茶苦茶にされて、黙って

いるだなんて…!」


全て記入した。震える指でエンターキーを押した。送信された。

返信が来たのは翌週だった。事務所に来てくれと言う連絡だった。

どんな探偵だろうか。人物像を思い浮かべながら事務所にやって来ると

予想外の人間がいた。天井が低く見えてしまうほどの高身長。

獰猛さを秘めた双眸に一瞬で震え上がった。こんな人が…探偵?

美形ではあるが…。


「探偵は俺じゃないが」

「ち、違うんです、か?」


小柄な女性は男を見上げる。自分よりも若い青年。彼の視線は背後の扉に

向けられていた。


「呼んで来る」


話の通じる相手だ。通じなければ不審者か?いやいやそれよりも…探偵は

どんな人だろうか。女性?男性?若い?老いている?慌てて飛び出して来たのは

二十歳に満たない少女だった。パンツルックからなのかモデルのような

長い脚、彼女は女性としては高身長。尤も彼女の隣にいる青年のせいで

本来の身長より小柄に見える。


「改めて、初めまして。私、ここの所長をしているカノアです。内容は

人の秘密調査…ですよね」

「えぇ…私に濡れ衣を着せ、のうのうと生きている女の秘密を暴きたい。

天罰を与えたい」


相手の名前はコノハという女性。依頼者マミの同級生で、高飛車な娘。

コノハに目を付けられ執拗に虐められていた。挙句の果てには己の

罪をマミに着せて平穏を手にしている。

一度だけ彼女に歯向かったらしい。勇気がある素敵な人だとカノアは思った。

だがコノハは恐ろしい事を口にした。


「良いけど、アンタの家族がどうなっても知らないわよ~?」


末恐ろしくなった。ばらせば家族も身の回りの人間にも危害が及ぶと…。

よくある脅しだ。それだけでは無かった。


「アタシ、殺し屋がいるんだよねぇ。そいつらに命令すればアンタを

人殺しにしてあげるよ。してあげよっか?惨めな人生ね、フフッ」


殺し屋を手中に収め、それを武器にしてマミを陥れ続けた。彼女は宣言通り

マミを犯罪者に仕立て上げ、捕まってしまったのだ。コノハと言う女性は

魔性の女だった。


「殺し屋、ね…」


小さな声で青年は呟く。どうにも笑うのを我慢できないらしい。


「ちょっと…!」

「一体…何が可笑しいんですか!私がどれだけ怖い思いをしたのか、理解しようと

してくれないなんて!!挙句には笑っているなんて…信じられない!」


怒鳴った。怒り狂う彼女をカノアが制止した。


「彼はシリウス。貴方と同じように暴力団や殺し屋などの存在を

チラつかせて脅す者が多いんです。実際に動かす奴がいます。私は武術も

何も分からないから、前述通りに動かれると諦めるしかない。貴方と

同じように」

「そうは言っても…」

「分かってます。ごめんなさい。でも、信じてほしい。私よりもシリウスの方が

頼りになるから。信用は行動で手に入れる、コノハさんと連絡はとれますか。

早速動きましょう!」


カノアは言葉で依頼者に訴え、寄り添う。マミはカノアの事は深く信頼

しているが、笑っていた青年―シリウスには不信感が膨れていた。コノハという

女性は今も学生時代の性格が抜けきっておらず、職場の人間にも金やら

雇っている裏社会の人間などの存在をちらつかせて思うように操っている。

最高に気分が良い。仕事も悠々自適に出来て、何人たりとも支配出来ない。

学校から職場へ己の城を移していた。


「もう、何なのよ…。ハァ?何コイツ」


複数の写真、動画と共に警察に通報すると宣言してくるマミ。昔の玩具が今更

動いたらしいが意味はない。気分が高揚する。


「ふーん、ま、いいわ。もしもし~コイツ、苦しめてから殺してよね」


軽い気持ちで殺しを依頼するとは彼女は頭が可笑しいのかもしれない。


「一度、見てみたいんだよねぇ…アイツが苦しむ顔!」


楽しみで楽しみで仕方ない。そんな感情を抱きながら眠る。苦しむのはコノハだ。

彼女は自分より格下のマミが強力な助っ人を味方にしているとは思っても

いなかった。

探偵事務所に世話になるマミ。彼女は依頼完了まで世話になる。マミは俯き、

身体を震わせる。怖い…今度は本当に殺されるかもしれない。


「ひぃ!?」


肩を掴まれて腰が抜け、ソファから転げ落ちそうになった。抱きとめたのは

シリウスだった。自分が恐ろしい目に遭っているというのに笑っていた男。


「悪かった。アンタを笑った訳じゃない」

「何を、今更…言い訳にしか聞こえない!」


ソファにあったクッションを投げるも分かっていたかのようにシリウスは

キャッチした。重い空気の中、場違いな爽やかな声が聞こえた。


「只今戻りました」


シリウスとは違い小柄な青年だった。マミと同じ程度か、少し低い。


「…レグルス」

「ごめんなさい。聞いてますよ、マミさんですよね。僕、レグルスと

言います」


シリウスはその場を離れた。レグルスと呼ばれる青年は近くで見るとより

一層小柄に見えた。


「すみません。シリウスは僕の兄なんです」

「兄…?」

「少し複雑な事情がありまして、シリウスは時折笑ってしまうんです。悪気は

無いので、どうか僕に免じて許してください」


複雑な事情、笑ってしまう。その通りに言葉にすると余計に誤解を生むので

このように言うのが精一杯。上辺だけ頷いたが、まだまだ信じられない。



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