至極髪姉は帰国と百合を楽しむらしい。上
次の日。糖とバターの油分で絶賛胃もたれ中の状態の胃を労わりながら、リビングのソファーに横になって休んでいる。
「おにい、そこどいて」
家序列最下位の俺は大人しく羽実ちゃんに場所を譲り、ソファーの下の床に寝転がる。
「おにい、その年でもうだめなの?」
「逆にカラオケで追いデザートしたのに、なんでそんな普通なのか知りたい」
「若いからでしょ。薬は飲んだ?」
「よく考えない爆買い両親が買った漢方飲んだ。もう少しで良くなる気がする」
「私だったら相当なことがないと飲みたくない。お母さんだって数回で飲まなくなったし。おにいはよく飲めるよね」
「まずいけど効くから、薬だと割り切れば意外と飲める。ただ量が多いから飲んでも飲んでも全く減らない。マジで二人に送ってやろうか」
「二人って今はアメリカだったよね? あれ? でも送られて来たのはフランス語のお菓子だったような……」
「七十回目の新婚旅行という名の普通の旅行中。マジで何回新婚旅行、行くんだよ。俺らがこっちに引っ越してから数回しか帰って来てないから、もはや日本に帰ってくるのが旅行になってる。もうネグレクトだろ。紫乃「しの」ねえに弁護してもらうつもりかよ」
「でも帰って来てって言うと次の日には帰って来てくれるし、私はしょっちゅう電話してるから別にいいかな〜て思ってるけど。おにいも連絡してみればいいのに。深夜でもすぐ電話出てくれるよ」
「彼女ができたかとか、できてないのはこういうところがダメだからとか。彼女の作り方講座が始まるからやだ。思い出したら違う意味で胃が」
「大丈夫? ひどいなら病院とか付き添うけど」
「今のは比喩的なのだから大丈夫。薬も聞いてだいぶ治ってるから」
「なら良かった」
羽実ちゃんはそう言って微笑んでくれる。なんだかんだいっても最後はしっかり心配して、俺の治りを喜んでくれる。いい妹だ。
「なら早くご飯作って」
「俺の関心を返して」
「いいじゃん。治ったんでしょ」
「治ったけど。今日は羽実ちゃんの」
俺が言いかけると、家のインターホンが鳴り、羽実ちゃんは画面を確認しないで玄関に向かう。
「え、嘘! なんで!」
羽実ちゃんの声がリビングまで聞こえ、何かあったのかと思って玄関まで走る。
「羽実ちゃんどうした! 大丈夫か!」
玄関に着くと、羽実ちゃんがすごく胸の大きな女の胸に顔を埋め、よくわからない言葉を発している。
「羽実ちゃん!」
「虎夜久しぶりー」
その聞き覚えのある声に、俺はその女の顔を見る。
「紫乃ねえ」
羽実ちゃんが顔を埋めている相手は、俺の姉の紫乃。
白いズボンに黒いブラウス、その上から白に近いグレーのジャケットを羽織り、左手の小指に安っぽい指輪を付けた、本人は至極色にこだわっているらしいが、黒い紫色の髪を肩下くらいまで伸ばした、背も胸もデカい人。
今はアメリカで国際弁護士をしていて、ずっと女子校で委員長、生徒会長をこなしながら、部活も勉強も優秀な成績収めた容姿端麗、成績優秀、文武両道とかいう、アニメキャラみたいなスペックをした人。
「あ、羽実ちゃんそこはダメだよ〜」
「えへへ、おねえ〜」
紫乃ねえが胸に埋まっている羽実ちゃんを掘り出し、ほっぺをむにゅむにゅすると、羽実ちゃんは「えへ〜」とだらけた顔で紫乃ねえを抱きしめる。
「おねえ好き〜」
「私も羽実ちゃん好きだよ〜」
確実に俺がやってもこんな反応はしてくれない、だらけきった羽実ちゃんと、さりげなく羽実ちゃんのお尻を触りながら髪の毛の匂いを嗅いでいる紫乃ねえによる、甘々百合フィールドが展開されている。
なんで紫乃ねえがこんなに羽実ちゃんに好かれているんだ。学校だけじゃなく、家でまでハブにされんのか。
「あの! 久しぶりの再会はわかるけど、一回中に入ってからにしてくれませんかね」
「そうだよね。じゃあ一旦シャワー浴びてくるから、終わったらゆっくり話そうか」
「うん!」
「じゃあ虎夜。スーツケースお願いね。あ、お土産も入ってるから」
「了解。ちゃんと靴は脱いで入ってくれよ」
「も〜それくらいわかってるよ!」
紫乃ねえはきちんと靴を脱いで風呂場に向かい、残された羽実ちゃんは百合フィールドを邪魔されたのがムカついたのか、俺のことを若干睨んでからリビングに戻って行く。
「はぁー羽実ちゃんがわからん」
そう独り言を呟いてから、スーツケースをリビングのある程度広い場所に置き、鍵
を解除して中身を出す。
中にはお土産と書かれた袋に、何枚かの服と下着。充電器や衛生用品が雑に詰め込まれている。
「羽実ちゃん、これがお土産だって」
羽実ちゃんにお土産と書かれた袋を渡すと、羽実ちゃんは嬉しそうにお土産をテーブルに並べ始める。
「不健康そうなお菓子と飲み物と、何枚かTシャツも入ってる。これは……おにい用のお土産じゃない?」
羽実ちゃんに渡されたTシャツを広げると、白いTシャツの前面に、ILOVEニューヨークと書かれており、後ろ面にはILOVE NYと書かれている、どう考えても日本でも売っているTシャツ。
「これは……絶対に着ない」
「私おねえのこと大好きだけど、お土産のセンスだけは好きになれない……」
絶妙な顔でテーブルに並べたTシャツを見つめる羽実ちゃん。
テーブルには世界的に有名な絵画。セロトニンやドーパミンの構造式。幾何学模様に謎のインクの飛沫がかけられた、科学なのかアートなのか分からないTシャツなど、日常生活では絶対着ないような、言葉を選ばなければダサいTシャツが並べられている。
「これがお土産……相変わらずだな」
「むしろ前よりすごくなってる。前までダサTはおにいだけだったのに、今回は……」
羽実ちゃんが服のダグを指差す。
「Sサイズ。こっちはMサイズ。羽実ちゃんと自分用?」
「もーおにいだけで良かったのに! これじゃおねえからもらったのに着れないじゃん」
「部屋着として着れば」
「今時の女子中学生はこんなの着ないの。ジェラポケみたいな、可愛くてセクシーなのが流行りなの」
「羽実ちゃんにジェラポケは早いと思うけど」
「憧れてるってこと! 実際着るかは別。自分でもネグリジェが似合わないのはわかってるし。あくまで憧れ。だからこそ憧れとは程遠いダサTは着たくない」
「気持ちは分からんでもないけど」
「だからおにいにTシャツ全部あげる。お菓子はもらうから」
羽実ちゃんはSサイズのTシャツをまとめて俺の方に投げ渡すと、お菓子のお土産の選別始め、早速チップスを開けて食べ始める。
着れないTシャツをもらっても仕方ないんだけどな……着れる方も着ないと思うけど、一応畳んで置いておこう。
「これメジャーで食べてたやつだ。おにいも食べる?」
羽実ちゃんはチップスの破片を床にこぼしまくりながら、スマホの翻訳機能を使って他のお菓子の詳細を調べていると、シャワーから上がった全裸の紫乃ねえが、髪の毛をタオルで乾かしながら、なんの躊躇いもなくリビングにやってくる。
「あ、お土産選んでるの〜お菓子のおすすめはね、そこのプレッツェルのチョコのお菓子が美味しいよ」
「これ?」
「そう〜それー美味しいからついつい食べ過ぎて太っちゃう。羽実ちゃんも気をつけて食べてね」
紫乃ねえは全裸で平然と話を進め、ソファ前の床に座っている俺の真後ろに胸がくる位置でソファに横になる。
「あー疲れたーやっと一息ついたって感じ」
「ちょいちょい紫乃さん、下着着たらどうですか?」
「今はいいーそれより肩揉んで〜」
「はいよ」
紫乃ねえがうつ伏せになると、俺は紫乃ねえの肩を揉み始める。
「ん、あーいい〜虎夜ってテクニシャン」
「はいはい。表現が古い」
胸がデカく見た目もよく、しかも全裸の女の肩を揉んでいるが、それが姉となると別に特段興奮もしないわけで、胸でかいなーえっろとかは思っても、実際その程度で終わってしまい、その様子を思い出しながら一人でとか、そんなこともないし、そういう行為をしようと思えばできるけど、するかといわれれば倫理的にとか世間体とか考えてしないわけだし、じゃあ興奮しないのかといわれれば別にするけど、他人の裸を見る方が興奮するわけで、何が言いたいかといわれれば、いつも会っていればそんなに興奮しないけど、久しぶりに会うとそれなりに興奮するってこと。
つまり、今の俺は平然を装っているけど、それなりに興奮している。
「んあぁ、いい感じ。そこぉ。ん」
わざとなんだろうが声もエロいし、羽実ちゃんはチラチラ睨んでくるし、ちょっと色々あれだ。
「胸の横の付け根の下のとこ、ん、そこ」
俺の手はソファで潰され、むにゅっと横に広がった下乳あたりを優しく持ち上げるように揉んでいく。
触ったことがないわけじゃないが、改めて触るとめちゃくちゃ柔らかく、表面を押しただけで指が奥に吸い込まれ、一定の場所に到着するたびに押し返してくる。
「あ、いい、そこ、そこ。気持ちいい、あ、あ、いっあ!」
「声やめろ声! 絶対わざとだろ! マッサージでそんな喘ぎ声出す人が居てたまるか!」
「ビデオではこのくらいの人いるよ〜」
「それは……まあ、フィクションだし。とにかく! ご近所に聞かれたら色々まずい」
「大丈夫でしょー防音しっかりしてるし」
「そういう問題じゃない。それとそろそろ下着を着ろ」
「えーめんどくさい〜今日の虎夜なんか変じゃない」
昔から謎の鋭さがあるんだよな、興奮しているとかバレたら普通にまずい。
「久しぶりだからそう感じるだけだろ。早く下着着て寝てきたら? シャワー浴びたら寝るとか言ってたろ」
「んー確かに、意識したら急に眠くなってきたかも」
「じゃあ寝てくれ」
「ん〜わかった」
紫乃ねえはスーツケースの中から、紐のついた面積の小さい青色のパンツと、同じ色とデザインのフロントホック式の大きい下着を持ってリビングを出ていく。
紫乃ねえがリビングを出ると、羽実ちゃんも自分用のお菓子を持って立ち上がる。
「私やることがあるから、おにいスーツケースと夕飯の用意よろしく。あ、豪華なのにしてね」
「わかったけど、やることって?」
「…………色々。じゃあよろしく」
羽実ちゃんは俺でも気持ちの悪いと感じる笑顔を浮かべながらリビングを出ていく。
残された俺は二人が戻ってくるまでにスーツケースの整理と夕飯の用意を済ませる。
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