タタリのヒキガネ

柩屋清

1話完結

喪主の訴え状ーーという都市伝説が話題になっていた。私の息子は自殺ではない。殺されたのだ・・という手紙が届くという噂が巷で囁かれている。重本美幸は今回、中学校内の弁論大会のテーマに、これを選出していた。


「ダメだ。映画部の活動に、これを当てろ」


ホーム・ルームの授業中、担任は彼女を呼び出し、そう指導した。


「でも、アタシがクラスの代表になる可能性は低いと思いますけど・・」


彼女は他に書きたい議題が無いと付け加えた。


「A工業高校のバイク事故、知ってるだろ?あの黛啓太ーーって、教え子だったんだよ」


担任は当時、その高校で体育の教鞭を執っていたーーとも説明を添えていた。


*****


”まれに、本当にタタられる事もあるから・・”


担任は彼女に忠告していた。黛がそうイタヅラな趣を含みながら死の前日、同じセリフを担任に向かい告げた事も彼は同時に回想している。


「ともかく、やめておけ!」


担任に、そう念を押され、授業は修了。

彼女は独り黙々と映画部の部室に向かった。


「えっ!?」


部室の鍵を空けると一名の男子生徒が居る。


「あっ、ゴメンよ。鍵、掛かってなかったから・・」


男子生徒は山川と名乗り謝罪をしていた。確か、鍵は掛かっていた筈だがーー


「そう云えばシゲミ、何で、そんなに喪主の訴え状に拘るの?」


彼女の弁論大会のテーマは校内に知れ渡っているのか、他のクラスに転入したであろう山川にまで筒抜けになっていた。


*****


「実は、担任の沢田先生は亡くなりました」


副担任にあたる教員が、週明けの朝一、開口一番、教室にて、そう切り出した。

生徒の為の就職活動先の工場にて、バックで半転したフォーク・リフトに衝突され、頭などを強く打ち、即死したーーと云う。


(何故、先生が・・タタリが来るなら私だ)


重本美幸は率直に、そう心に呟いていた。

聞けば、普段、その様な事故は工場内で起こらないという。


「キミは今の考え方を変えた方がいい・・」


彼女は葬儀場で見掛けなかった山川と帰路で一緒になり助言をされていた。


「アタシは・・成績もトップじゃないし、美人でもない。アダナもシゲミでカワイクないから都市伝説くらいしか個性が無いのよ!」


「そうじゃない。人間は昨日の自分に勝るだけで、人生、勝ったと云えるんじゃないかな」


制服が独り違う山川に何が判るんだーー彼女は足早に彼の隣から、立ち去ってしまった。


*****


「もしかして、あの台詞が原因じゃない?」


後日、部室にて美幸は山川にこう尋ねてみた。まれに本当にタタられる・・と続けるとーー


「ストップ!」


山川は細く、色白く、小柄な身体を精一杯、振り絞りながら、彼女を素早く、制御した。


「それを云ったら死んじゃうよ」


山川は静まる彼女に、そう促していた。

そして弁論大会には二種類の原稿を用意するよう指示して、いつの間にか退室していた。


「来た」


両親が知人の法事により留守になった最初の夕刻、ネット仲間より届いたA工業高の黛の生前の集合写真を美雪は手に入れていた。


「山川・・」


封を空け、写真を見ると黛は間違い無く、山川であった。急いで階段を駆け上がり風呂にも入らず布団にくるまり何時しか就寝してゆく。うっ・・

翌朝、目が覚め登校すべく玄関に立つと喪主の訴え状が終に届いてしまった。


(了)

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