第六節 一歩前へ
第133話 調査開始
視聴者から新たな視点を得て、ジョニー達は探索から帰還した。
商人組合でこれからやる事を打合せ、整理する。
第一に、まずは現在の発症者への対応だ。
既に体調を崩している者に症状を抑える薬を作る、これは湿地で直接素材を採取したリーシャにしか出来ない事である。新しい素材の成分確認を行い、薬として利用できる物を選別する。その中から熱や頭痛に効く薬効の物を使って調合を行うのだ。一度作れればレシピを町の薬士に渡して量産する事が出来るだろう。
第二に、ここ数日のミケーネとジョゼの行動とその差異の確認。
一緒に行動していた同じ獣人でありながら片方は倒れ、もう一方は今の所ではあるが何の問題も起きていない。となればそこに何か違いがあるはずである。アウスが倒れてから彼女が体調を崩すまでの期間の行動を細かく確認するのだ。これは当然、当事者であるジョゼがやるしかない。
第三に、拡大が進んでいる病の状況調査である。
今まで漠然と『拡がっている』としか見ていなかった病の進行、これを明確にするのだ。街中の各所での確認は勿論としてアーベンの周囲には村が幾つかと、それよりも小規模な共同体が存在している。現地へ足を運んで、どこでどの程度の病人が居るのかを精査するのである。
「——といった所でしょうか」
「よし、ありがとな」
やるべき事が簡潔に、一切の乱れも癖もない字でまとめられたメモを手にジョニーは礼を言う。事実を事実として、感情に左右されずに判断を下すのは中々に難しい事だ。しかし今、組合にはそれを得意とする
「一日に一度、組合に集まって進捗を確認しましょう。といっても、私は調合で手を離せないかもしれないですが……」
「そこはあーしにお任せ!
「遊びに行くな、ちゃんと役目を果たせ」
「もー、
自分の頭をコンコンと叩く仕草をしてミリカはジョニーを挑発……もとい、彼に親しみのコミュニケーションを図る。しかしどうやら彼女の思惑は成功せず、彼は非常に面倒臭そうな顔で一つ溜息を吐いた。
「俺は北西と南西の村、あと北の海岸の漁師小屋に集まってる連中に状況確認に行く。ロイは東の村と周りの集落を当たれ、お前の実家もそっち方面だろ」
「了解ッス!」
実家周辺ならば当然冒険者になる前からよく知っている。農家は協同で作業をする事も多いため、顔見知りも多い。現状調査に快く協力してくれる事だろう。
「あーしは町で色々聞いてきてあーげるっ」
「ちゃんと仕事しろよ?」
「りょ!」
「りょ?」
「了解ってイミ!」
「普通に言え、普通に」
おじさんに若者言葉は難しい。ミリカ語に関しては同年齢のリーシャとロイでも理解は困難だ。修道女風の騎士見習いギャルな彼女は、フィーリングで会話している。
「じゃあ、明日から行動開始ッスね」
「皆で一緒にガンバろー!」
「帰ったら採ってきた素材の仕分けと不足分の汎用素材の確認と……」
「明日から、って言ってんじゃーん!」
「きゃあっ!?」
どーん、とミリカは椅子に掛けるリーシャの背後から覆い被さる。仕事熱心で責任感が強いのは薬士として良い事だ。しかし常時仕事モードでは、いざという時に踏ん張れない。今回ばかりはミリカの方が正しい事を言っているのである。
しばらくの攻防戦の結果、今日の所は一緒に夕飯を食べに行く事に決まった。これにて病との戦いの最大戦力が倒れる事態は回避された。やはりリーシャとミリカは良いコンビなのかもしれない。
作戦開始は明日から。
ジョニー達は打ち合わせを終えて解散した。
――翌日。
ジョニーはアーベン北西の村へとやって来ていた。ここは人間の生存圏を拡げるために作られた場所、西に生い茂る森を切り開く開拓村である。アーベンのように冒険者の拠点になるほどの物資や施設は無いが、冒険の際の中継地点にもなっている村だ。
また、ここでは伐採した木を加工して木材にしている。アーベンを中心としたサフィン王国北部の木材供給拠点としての役割も担っていた。
体力に優れる木こり達が住む、静かながらも活気のある村、であるはずだったのだが――
「こりゃ、酷ぇな……」
一歩踏み入れてジョニーはすぐさま異変に気付く。所狭しとばかりに村中に置かれた丸太に木こり達は腰を下ろしている。それだけなら作業中の休憩であるとも思えるのだが、そうではない。誰もが項垂れて、疲れとは違う辛さに耐えていたのだ。
「おい、大丈夫か?」
「ん、ああ、冒険者さんか……」
ジョニーが声を掛けた木こりが顔を上げた。座っている状態だというのにふらつき、上体を起こしているだけでもキツそうにしている。以前のアウスの様子を思い出すような姿だ。
「そんなんじゃ仕事にならねぇだろ、家で休めって」
「だが納期が……」
「俺がアーベンの
「……すまん、頼めるか」
普段ならば木こりの意地でこんな提案を呑む事は無い。しかし今は、自分だけではなく村中の者が熱病に倒れようとしている。仕事に猶予が出来るというなら歓迎したいというのが現在の本心なのだ。
「あっ、お父さん!まーた無理して仕事して!」
近くの家から十代半ばと思われる娘が顔を出し、熱に浮かされながらも仕事をしている父に駆け寄る。彼女はジョニーにペコリと挨拶をして、父親に肩を貸して家へと送り届ける。少ししてから少女は再び外へと出てきた、父をベッドに寝かせて軽く看病してきたようだ。
「父から話は聞きました、ありがとうございます」
仕事はどうにかなる、父親や村の人を休ませる事が出来る。感謝の意を込めて、彼女は深く頭を下げた。
「そう大した事じゃあない。っと、そうだ。代わりと言っちゃなんだが、この村の状況について聞きたい」
「状況……?」
首を傾げる少女にジョニーは簡単に事情を説明する。
村人たちの状態を危機感を持って見ていた彼女は快く彼の調査に協力してくれた。村人の発症時期、感染した順番などを聞き取り、それをメモする。大まかに聞き取りを終えたジョニーは少女に礼を言って、少し村の中を見て回ってから帰路につく。
「おおよそはアーベンと同じか……獣人が一番初めに倒れたのも含めて」
聞き取りメモを見て、彼は思案する。
何が、何処から、どうやって。
いまだ、病の全容は見えていない。
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