第132話 ギャルと優等生
水の気が満ち漂う湿地の中で比較的乾いた所。巨大な蔦のアーチによって周囲の水と湿気が吸われ、野営をするのに適した場所でジョニー達は焚火を囲む。そして今日も。
「やっぴーっ!」
≪やっぴーッ!≫
≪やっぴーでござるー!≫
実に賑やかに配信が始まった。
「まあ分かってはいたがミケーネと同類だよな」
未知の存在である視聴者と彼らと繋がる窓という名の何か。ミリカは先にリーシャから説明は受けていたものの当然ながら詳細に理解していたわけではない。それでありながら彼女はありのままに事象を受け入れて、開幕一番に自分らしい元気な挨拶の言葉を窓の向こうへ投げかけたのである。
≪ところで、あなたはだぁれ?ですぅ≫
「あーしはミリカ、ミリカ・モガシ!聖殿騎士見習いのジューロク歳!」
≪リーシャ達と同い年ってコトか≫
彼女達と同年齢という事は視聴者の一人、ジョニーをジョニキと呼ぶ荒い言葉遣いの少女とも同い年である。配信参加者の若手組に一人追加だ。
≪おや、今回はミケーネさんとラオさんはいらっしゃらないんですね。≫
「ミケーネさん、病気になってしまって……」
「ラオさんが看病してるんですよ」
≪えっ、あのミケーネさんがですわ!?≫
≪
ナントカは風邪引かない、そのコメントを打とうとした異世界の住人もいたが彼らはどうにか寸での所で踏みとどまった。元気全開なアウスとはまた違う意味で、ミケーネは病気にならないと思われていたのである。
≪ふっ、伝染病は如何に対策をしていても拡がるものだが……≫
「身近で二人も病気になると何だか自分も罹ってないか心配になるッス……」
良く知る相手が病に倒れるとなると、次は自分ではないか、と不安を覚えるのも当然だ。
≪アウスにミケーネに、獣人が罹りやすい病気って事かよ?≫
「それなら僕も罹ってそうですし、違うのでは……?」
≪たしかにでござる≫
アウスはともかくジョゼは、久しぶりに会ったのだからとミケーネに誘われてここしばらくは行動を共にする事が多かった。だというのに自分は問題なく彼女は倒れた、獣人である事は直接的に関係しないのではないか。そう彼らが考えていた所で、逆の思考をしていた視聴者から意見が出される。
≪同じ獣人で同様の行動をしていたミケーネさんとジョゼさん。お二人の行動の差異を見付ければ何か分かるのではありませんか?≫
「あっ」
視聴者最年長の元教師の着眼点は完全に盲点だった、リーシャは気付きの声を上げる。二つの近しい事例を比較して違いがあれば、そこに今回の病のヒントが隠されているかもしれない。
≪ふっ、それだけでも良いがもっと多くのサンプルが有った方がより精度が上がるだろう≫
「うーん?もっと色んな人の事を調べろってコト?」
≪ふっ、その通りだ≫
「よっしゃ、当たった!あーし天才~」
そこまで喜ぶほどの内容ではないがミリカは両腕を振り上げて歓喜する。
多くの例を集めて比較することで情報の精度は上がる。右から見るか左から見るか、前に立つか後ろに回るかで物事の見方は変化するのだ。今まで考えていた事が覆る可能性もゼロではない。現状に行き詰まりを覚えていた所でもある、地道な情報収集を実行する価値はあるだろう。
効率的な対処に繋がる新しい策を得て、リーシャはやる気の顔だ。
「リシャっち顔がこわーい」
「わぷ」
不意打ちでミリカに両頬を両手で挟まれて、リーシャは珍しく変な声を上げた。そのままムニムニとされて先程までの凛々しい表情は何処へやら。襲撃者の手を振りほどくと彼女は笑いながらミリカに怒ってみせた。
≪今まで見たこと無いリーシャたんの一面でござる≫
≪二人は十六歳、こっちで言えば女子高生ッ≫
≪ふっ、そう考えるとこのやり取りこそが年相応、普通なのだろうな≫
≪学生時代を思い出しますわ~……≫
しっかり者なリーシャはその容姿も相まって年齢よりも大人に感じる。今までの配信でも言葉遣いは終始丁寧で、大きくはしゃいだり、騒いだりといった事は無かった。同年齢の女子の友人であればこその、気の置けないやり取りなのだろう。
≪リーシャとミリカは、なんつーか、こう……≫
≪言いたい事は分かるですぅ≫
≪全然性格も趣味も違う優等生とギャルが何故か仲良し、って奴ですね≫
創作物の中ではよく描かれる関係性であるが、実際の学生生活ではほぼ見掛けない。両者の行動はまるで違うのだから、それも当然だ。異世界の日本という国に住む視聴者たちにとって、彼女たちのやり取りは稀なものなのである。
「なになに、あーし達がなんなん~?」
≪ギャルだ、ギャルがいるでござる……≫
「ぎゃる?なんか知んないけど響きがおもしろ~」
異世界の言葉を聞いてミリカはケラケラと笑う。何がそんなに楽しいのか、両手をパンパン打ち鳴らして大笑いだ。
≪この反応と仕草ッ、これは間違いなくギャルッ!≫
「おはっ、ちょ、その、ぎゃる、っての止め、ぅひひひっ」
≪笑いのツボに入ったようですわ~≫
「壺?ツボに入るってナニソレ、あーしが壺にスポッて……あははははっっっ!」
笑いのスイッチが入ってしまったようで、ミリカは何を聞いても笑い転げる。どうにか落ち着かせようとしても、不埒な異世界の住人が無駄に笑いのネタをコメントするせいでどうにもならない。
配信が終わるその時まで、彼女の笑い声は静かな湿地に響き続けた。
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