最強の行き着く先

鳳亭風流

最強の行き着く先

それは、ほんの出来心だった。

子供の頃に拾ったビンに悪魔が封印されていて、三つの願いを叶えよう、と言った。

そこで俺は『最強になりたい』と願った。

じつに男の子らしいその願いは、相手よりもちょっとだけ強くなれるチカラを手に入れた。

そのうち、体力だけでは勝てない相手が現れ始めた。

そこで俺は悪魔に『アタマも良くなければ最強とは言えないだろ?』と主張した。

すると、相手よりもちょっとだけアタマの回転が早くなった。

そのうち、体力と知力だけでは勝てない相手が現れ始めた。

そこで俺は『容姿も良くなければ、最強とは言えないだろ?』と主張した。

すると、相手よりもちょっとだけイケてるセンスを手に入れた。

そして現在。

年齢の『最強』を超え、サンジェルマン伯爵とか彷徨えるオランダ人、リップ・ヴァン・ウィンクル、東洋では徐福などと呼ばれるが、ついに最期の時を迎えようとしていた。

神の御前みまえに立つ時、地獄行きを告げられると思うが、後悔は無い。

俺は悪魔に聞いた。

願い事、一つしか叶えてもらえなかったけど良かったのか?と。

『アンタの欲望は際限が無かった。だから一つの願いでも十分地獄に落とせたのさ。何と言うか、素質があったんだな』

一つでも、要件を満たすだけの堕落をさせられた、らしい。

『まぁ、契約だからな。あと二つの願い事は、気長に待つ事にするよ』

それは良い事を聞いた。

なら、さっそくだが二つ目の願いだ。

地獄の地理は不案内だからな。水先案内人として共に旅してほしいものだ。

『オイオイ、そんな簡単に二つ目の願いを決めて良いのか?』

この願いは、短くない人生の中で考え出した、おそらく最良の答えだ。

悪魔と契約している時点で地獄落ちはまぬがれないだろう。

暗い土の下で、審判の時まで眠り続けるなんてまっぴらだ。

今まで通り、気ままに旅していたい。

そう思ったら見知らぬ亡者どもよりは、見知ったオマエの方がマシだと思えたんだ。

いや、今まで容姿の話は触れないで来たが、なかなか見慣れる顔立ちじゃないからな。

『チッ、今さらおべんちゃらなんていらねえよ。…あーあ、オレも焼きが回ったのかねぇ。最強のアンタに相応しい姿で、案内させていただきますよ。ほら、さっそく見えてきた。アレならアンタも知ってるだろ?』

この門をくぐる者、全ての望みを捨てよ。

地獄門だ。

だが、今の俺にはオマエという『最後の望み』がある。

『言ってくれるぜ。…っと、せっかくこの姿になったんだから、ソレっぽくしゃべらなきゃな。あら、お上手ですこと。とかか?』

地獄門の目の前だってのに、俺を笑い死にさせるつもりか。

『どうやら道案内はここまでで良いらしいな』

ジョークだよ、ハニー。

『うぇぇ。カンベンしてくれよ、ダーリン』


一筋の光明も無い地獄に、二つの笑い声が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強の行き着く先 鳳亭風流 @fool108

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ