銘なし配達人《ネームレス・ポストマン》の配達スローライフ

猫町大五

第1話

「ヴィルさん、電報が来てますよ」

「え?」

 

 眠い目をこすりながら応えた。


「……今日は一応、休暇なんだけどなあ」


 それも久々の。あちらこちらを飛び回り、社に溜め込んだ仕事も消化して、今日明日は羽を伸ばそうと、そういうつもりだったのだが。


「……急ぎの仕事じゃなかったら、大丈夫ですよ」

「祈るか」


 我が愛しのパートナーが居なければ、今頃精神的死を迎えているだろう。にこやかに笑うハーフエルフの彼女に安堵しながら、電報の封を切った。






「ま、そう都合良くはいかないよなあ」


 首都アーカムに向かう列車の中で、思わず呟いてしまった。この大陸国家の辺境都市ランダス。そこに居を構えるハルトマン配達社のオーナーである俺だ。当然依頼が来ればこなさねばならない。指名依頼となればなおさらだ。


「でも――ミアを連れてきて良かったかな」

「あら、心配してくれてるんですか?」

「するさ。愛しいパートナーを鉄火場に出すなんて、約束とは言え心配さ」

「うふふ」


 ――私より先に死んだら、あらゆる手を使って復活させますからね?

 ……パートナーを組んだ時のミアの言葉だ。仕事の時は制限でもない限り必ず同行するのも同じく、当時からの約束だ。あの時はお互いどうかしていて――今もかもしれないが――特に彼女の目など狂気そのものだったが、俺はその狂気から来る誠実さに当てられたのだろう。こうして今でも続いている。


 首都に着いた。もう夜半に近い。駅前の飲み屋通りも看板の店が多かったが、その突き当たりの店だけは、うっすらと灯が点いている。あまりに奥にあるので殆ど誰も入ろうとしないのだが、内密の話をするには丁度良かった。名を『黒蛇の足亭』と言う。


「やっぱり変わった名前ですね」


 ミアがお決まりの文句を言った。俺もそう思う。


「らっしゃ……何だ、お前らか。ウチは予約制だぜ」

「知ってるさ、何年通ってると思ってる。……お呼ばれだよ」

「……一番奥だ」


 店主はリザードマンだ。相変わらず繁盛していないらしい。馴染みの軽口を飛ばしながら二階へ上がる。まだ気安い一階とは違って、二階は完全な個室だ。言われた通りの部屋に前に立つと、随分小振りのゴーレムに頭を下げられた。


「こんばんは。こちらはご予約席となっております」

「ハルトマン配達社のヴィルヘルム・ハルトマンと、ミア・ハルトマンだ」

「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」

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