第10話

無職の身分で何をしてるのだろうか。

少し時間が経つと自分の判断が恥ずかしくなってきた。ただ故郷の子供たちと交流すると考えればそこまで悪い事でもない。

「それにしてもお山かぁ」

自分の子供の頃、粟坂山をお山と呼んでいたか記憶を探ってみるが思い出せない。多分呼んでいない。それ以上に興味がなかったように思える。


しかしゴミ山に対してポジティブにとらえてお宝があるという考え方は素直に感心した。子供たちにしかできない物の見方だ。

実際のところどうなんだろうか? 村では買えない、手に入らないものは沢山あることには違いないだろう。しかしそのほとんどは例え投棄時点では壊れてなくても長らくあそこに放置されていれば既に使い物にはならないだろう。


「こうやってすぐ実用性を考えるのが大人の悪い所かもな」

かっちゃんと呼ばれていた子は目を輝かせてこの話をしていた。彼にとってはお山へ探検しに行くこと自体が既に楽しくて仕方ないのだ。どうせ俺も就職が決まれば嫌でもまた大人の社会に出て疲れ、草臥れ、すり減らす毎日を送ると思えば彼らに同行するのは文字通りに夏休みだ。

粟坂山の崖下へ行く道は昔から変わっていなければ寺の脇道から向かえるはずだ。


純一はボストンバッグの中を漁りひっくり返した。

山道を歩くに適当な服装が無いか探してみるが動きやすそうなのは短パンくらいしか見つからなかった。

諦めてタンスのの一番下から高校時代のジャージを引っ張り出す。

「ダサいから出来れば着たくなかったんだけどな」

履いてみると少しサイズがきつい。ただ激しい運動をするわけでは無いのでわざわざ新調するのは金も時間も勿体ない。


純一は明日の格好を確認した後、自室から居間へと降りる。

「親父、粟坂山のゴミあるじゃんか?」

父はテレビから目線を動かさないでいる。

「ん? ありゃダメだ」

「え、ダメって……何が?」

「いくら片づけてもそれ以上の量がすぐに溜まりやがる。この村だけじゃもう解決できねえよ」

「ああ、そういうことね」

あそこに行ってはいけないという意味だと早とちりするところだった。


「そうはいってもさ、今日あった子供たちが少しでも掃除したいって言うんだよ。でも子供だけじゃ危ないからさ、同行しようと思って」

「子供なんざ、そんなことしないで遊んでればいいのによ。ああ、この時期じゃ友達が少ないのか」

適当に嘘を交えて説明したがずっとこの村で暮らしているだけあって子供たちの現状には詳しい。

「しかし、お前も感心だな。子供のお目付け役とは」

「それなんだけどさ、どうやら『子供は入るな』って言われてるみたいだけど俺が居れば大丈夫だよね?」

「別に大丈夫だろ。別に立ち入り禁止にはしてないしな、どうせ立て看板出したってには字が読めやしないしな」


「あの山っていつからゴミだめになったんだ? 俺が子供の頃どうだっけか」

「お前が小学校に上がったくらいにな、あの山の崖のところ……ちょうど禿げあがってるところだ。あそこを住宅にする計画があったんだよ。でもよ、地盤が緩すぎただか天候不順だかで頓挫しちまったんだ」

「それであのまま放置されていつの間にかゴミが?」

「一応開発計画は中止ではなく、無期限延期だからな。だから数年前までは俺たちも懸命に回収してたんだがな、無駄な足搔きだったよ」


「しかし誰が最初に捨てんだろうな」

「なんだ? どうしてそう思うんだ?」

「だって山間の車道からあの崖って見えないよな? やっぱ工事関係者が捨てて口伝に広まっていったのかね」

「……そうかもな。考えたこともなかったな」

父はその話題はもう終わりと言わんばかりに折りたたんでおいた新聞を広げた。

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