ゾウの木
@peacetohanage
第1話
茂みを掻き分けて進むのは、群れを離れた一頭のゾウです。
このゾウは広い世界を知る為に、一人旅に出ました。
ある日、コーヒー農園のそばを歩いていると、コーヒーの実が背中に落ちて来て、その実が数日後には芽を出します。
そうしてそのまた数日後にはゾウの背中に、立派なコーヒーの木が育ちました。
ゾウはそのまま旅を続けます。
すると小鳥がどこからともなく飛んで来て、背中の木に停まります。
それから小鳥がコーヒーの実を啄んだので、ゾウは実が食べられる事を知りました。
しばらくすると小鳥はまたどこかへ飛び去ってしまい、ゾウは背中を揺する事にします。
そうして溢れたコーヒーの実を、鼻で器用に摘んで口へ運びました。
甘さは少なく苦味ばかりが強いのですが、旅の途中で小腹が空いたら食べようと決めます。
ゾウはどんどん歩いて進みます。
群れを離れてもう、幾つもの森や村を越えました。
するとふいに道端で座り込む少年を見つけます。
彼は痩せ細っていて、ぐったりと俯いていました。
心配になったゾウは少年に声を掛けます。
「どうしたの?君、名前は?」
すると少年はアリと答えます。
「元気が出るかどうかは分からないけど、僕の実を食べるかい?ほら」
そう言ってゾウはまた背中を揺すります。
幾つかの木の実が落ちて来て、少年はそれを拾って口にしました。
「ありがとう。ちょっと苦いけど、元気が出るよ」
そう言って少年は徐に立ち上がると、ゾウを抱き寄せました。
「どうだい?僕と一緒に来ないかい?僕はこの広い世界を旅してるんだ」
「ありがとう、そうするよ。僕も連れてって」
こうして二人は旅の道連れになりました。
小腹が空いても、すぐにコーヒーの実を沢山食べる事が出来ます。
二人の口にはまあまあ合いませんでしたが、旅を続ける程の元気は出ます。
陽が暮れて夜が近付く頃、一軒の家を見つけました。
そこには仲睦まじいおじいさんとおばあさんが暮らしていて、ゾウと少年が歩いて来るとちょうど庭から家へ入る所でした。
おじいさんはゾウを見て驚きます。
「こりゃ、信じられん!ゾウの背中にコーヒーの木が茂っておる。珍しいったらありゃ無い」
「まぁ、本当だ!私も初めて見ましたよ」
そこでゾウと少年は歓迎されて、夕食と寝床を用意して貰える事になりました。
次の日になると、おじいさんがゾウの背中のコーヒーの実を収穫します。
おじいさんは珍しいゾウのコーヒーの実を精製、焙煎をしてコーヒーを皆に振る舞おうと思っているのです。
それからおじいさん家の隣には、小さなコーヒー農園が見えました。
持ち主はおじいさんとおばあさんの二人です。
コーヒーが出来るまでの数日間、ゾウと少年二人は庭で楽しく遊んで暮らしました。
美味しい食事も三度三度提供されて、少年は来た日よりも、もうずっとずっと元気になりました。
そうして珍しいゾウの木から穫れたコーヒーが無事にはいると、おじいさんはコップに注いで皆に提供します。
ゾウと少年にとってはまあまあの味でしたが、おじいさんとおばあさんにとっては今まで飲んだ事の無い一級品のコーヒーで、大満足でした。
香りが普通のコーヒーとは幾つも違うのです。
おじいさんがゾウのコーヒーを淹れる事が出来たので、彼は再び目的である旅の続きに戻る事にします。
少年はおじいさんとおばあさんが引き取りたいと申し出るので、農園に残る事になりました。
「ありがとう、さよなら!特別なゾウ」
「さよなら、またいつか遊びに来るよ!それじゃ」
ゾウがどんどん歩き始めると、三人はいつまでもその背中を…いや珍しいコーヒーの木を、見送るのでした。
おわり
ゾウの木 @peacetohanage
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