【外伝17話】夫人邸襲撃

「お辞儀は深ければいいってもんじゃありません!身体が柔らかいのはいいですが、90°超えてます!そこまでやると失礼です!」


 初老の女性秘書の指導を受けているのは若い銀髪の青年。


「くそっ!さっきはもっと頭下げろって言ってたじゃねえか!最初から角度教えやがれ!」


「言葉が汚いっ!これではラメンダ商会の商会員は務まりません!」


「俺は商会員じゃねえっつってんだ。伯爵様の命令じゃなきゃ、こんなババアぶん殴ってやるのに…」


「こら!ヒュンケ!ババアではありません!お姉様と呼びなさいっ!」


「ちっ、はいはい、おババさま」


 ラメンダ夫人邸の臨時警護に来ている青年騎士ヒュンケ。


 先日、王都の宰相府から『ラメンダ商会へ妨害工作の兆しあり』との伝令があった。その結果、若く腕の立つヒュンケに夫人邸の覆面警護の命令が下されたのだった。


「ラメンダ夫人は伯爵様のところに行ってるんだろ?俺は休憩してていいよな?」


 隙あらばサボろうとするヒュンケ。剣の修行は好きだが、商会員の真似事は性に合わなすぎる。


「ダメです!だいたい、夫人の外出スケジュールは伏せられています!表向きには、今日も夫人は在宅ということになっています。夫人がいるときと同じように100パーセントの営業をせねばなりません!」


 そういえば、早朝、夫人は輸送用の荷馬車に偽装した馬車に乗って出かけた。御者も護衛も腕利きの騎士が配置された鉄壁の護衛体制だった。


「ババア…、いや、おババさま、真面目だな。…まあ、真面目は嫌いじゃない」


「分かったら、玄関を掃いてきてください!塵ひとつ残さない覚悟でやってきてくださいね!」


 やる気なさげに玄関に向かうヒュンケ。護衛ターゲットの夫人がいないし、今日は楽だな…。


 帰って剣の稽古してえなぁ。


 のんびり歩いていると、入り口がざわついている。場に似つかわしくない殺気。


 気配を消して接近していくと、5人、冒険者風の屈強な男たちが門番に詰め寄っている。武器を持っているか。


 一人、門番が倒れている。


「通せ!ラメンダ夫人に会わせろ!お前も殴られたいか!」


「お通しできません!」


「このっ!」


 殴り飛ばされる門番。


 その背後の影から現れた銀髪の騎士。


「なんだ、おま…!」


 瞬く間に3人を殴打と蹴りで打ち倒す。


「こいつ強いぞ!剣を抜…」


「遅いんだよ!」


 武器を構える先手を取って2人の腕を切り飛ばす。


「ぐわあああっ!」


「た、助けてくれえっ」


 命乞いをする者たちの両手両足の腱を切る。


「悪いな!こっちは単騎なんでな!口先の命乞いじゃ足りねえんだ!」


 痛みと出血で失神する侵入者たち。


 単騎で多数を相手する場合、即座に敵を無力化していく必要がある。下手な温情が窮地を招くことをヒュンケは学んでいる。


「ヒュンケさん!助かりました!」


 起き上がりながら門番が礼を言う。


「まだだ!すぐ警備兵を呼んでくれ!領主様へも早馬を!俺は裏手に回る!」


 セオリー通りなら正面と裏手同時にきているはずだ。


 廊下を走っていると、女の悲鳴が聞こえてきた。


 視線の先には秘書の女性が後ろ手に捻りあげられている。裏手からの侵入者は3人か。


「い、痛いっ!!!やめてっ!!」


「ラメンダ夫人の居所をおしえろっ!折るぞ!」


 急加速するヒュンケ。あっという侵入者の腕を斬りつけ、秘書を解放する。高速の切り返しで残り2人を瞬殺。


「うぐわっ!」


 秘書を捕まえていた男の両脚も斬りつけ、転倒させる。


「ぎゃああああっ!」


 のたうち回る男を無視し、秘書の無事を確認するヒュンケ。


「ババア!骨、折れてねえか!?」


「い、痛いけど……、だっ…、大丈夫…。あ、ありがとう…」


 倒れた侵入者の足の甲に剣を突き刺す。男の悲鳴が大きくなる。


「うがあああっ!」


「…で、お前はどこのモンだ?」


「は…、話すかっ!」


「そうか。お前はババア拷問してたよな?それ以上の目に遭わせてやる!」


 続いて、股間に剣を突き刺そうとするヒュンケ。剣先がズボンに刺さる。


「ひっ…!」


「このまま行くぜ!」


 冷たい剣先が皮膚に触れた途端、


「お、王国工房だっ!王国工房ゲダンの依頼だっ!」


「そうか!じゃあ、寝てな!」


 頭を殴り飛ばし、昏倒させる。


「俺の守る領内で好き勝手しやがって!王国工房だと?ぶっ潰してやる!」

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