【外伝13話】毒親から解放された子どもたちの行く末
「うおおおおおっ!」
銀髪の騎士の鋭い踏み込み。上段から木剣が振り下ろされる。
相手の剣を弾き、喉元に突きつける。
「勝者!ヒュンケ!」
互いに礼をして稽古場から下りる。
「さっきの踏み込み、速えなあ。ますます強くなったんじゃないか」
「……いや。まだまだだ」
「すでに領内最強ってのに、どこまで強くなる気なんだ」
「やめてくれ。領内最強とか恥ずい。そんなんじゃねえんだ、俺は」
「……お前、変わったな。前は、『最強の俺様に任せとけ!』って感じだったけど」
「やめろって。…てか、それは忘れろ。俺はもう少し訓練してく」
「おう…。あんま思い詰めんなよ」
心配を隠さない同僚。
「…ああ」
孤児上がりの青年騎士ヒュンケ。その度胸と運動神経の良さを評価され、騎士見習いになったのは10年も前のこと。
優れた才能に加え並ならぬ努力が実り、幼少から天才剣士の名を欲しいままにしてきた。
17歳にして領主最側近の護衛に。そして、先日、英才と名高い領主長女クレアの護衛に転任したばかりだった。
領主ランド伯爵への恩は計り知れない。実力主義の領主は努力を惜しまないヒュンケを重用してきた。その信頼に応えるべく、クレアの護衛にも手を抜くつもりはなかった。
先日のスラムの大捕物。事実上、非合法組織が支配していた一帯をクレア、ヒュンケたちが解放した事件。
スラムへの突入を決めたのはクレアだったが、ヒュンケも強くは反対しなかった。自分の力なら守れると自信があったからだ。
大陸最強クラスの剣士シリューや猛将ホウゲンは100人の正規兵すら単騎で打ち破るという。自分もいずれ、その領域に達するつもりでいた。
それがヤクザ崩れ数十人相手に苦戦し、背後をとられる痛恨のミス。クレアの雷撃魔法の助けがなければ自分は刺されていた。魔力切れを起こしたクレアは3日間の間、起き上がれなかったという。
(くそっ…。情けねえ…!もう失敗しねえ!)
青年剣士ヒュンケは更なる強さを求め、鍛錬用の木剣を振るう。
「ヒュンケさん!依頼の鉄剣、お持ちしました!」
小姓の少年がかけ寄る。先日、スラムから救出された少年だ。判断の良さを買われ騎士見習いに配置された。名をジャックという。
大抵の子どもは虐待親にコントロールされてしまうもの。毒親の隙をついて助けを求めたジャックには騎士の才能があると認められたのだった。
ゆくゆくはヒュンケと同じ、従騎士から騎士への昇進コースが目標になる。その少年、ジャックが両手で抱えた重剣をヒュンケに差し出す。
先日の功労により褒美が与えられることになったヒュンケが望んだのは装備品。その一つが重鉄剣だった。
「あんがとな。仕事は慣れたか?」
剣を受け取ると、ズシリとたしかな手応えがある。
「はい!…親父の理不尽に比べたら。いえ、比べるまでもなく、ここは天国です!」
屈託のない笑顔を見せる少年。
暴力や性的虐待、ネグレクト、児童労働。調査で明らかになった毒親たちは棒打ちの後に強制労働に処されている。その労役の収益は子どもたちに還元される。
仕事のできる子どもはジャックのように見習いになり、技術や学のない子どもたちは孤児院で療育されることになる。
この子たちを解放できたのだから、俺の仕事も悪くなかったか。
「木剣の補充、急いでくれ!」
稽古場の騎士から声がかかる。
「はい!今すぐ!」
ジャックが駆け出していく。
少年の後ろ姿を見送り、ヒュンケは重い鉄剣での素振りを始めたのであった。
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