【外伝9話】お嬢様ご一行の買い食い
ランド伯爵領。マーケット通りの昼下がり。
「クレアお嬢様!買ってきました!」
熊のような風体のベテラン騎士が串焼きを持って駆けてきた。
塩胡椒で味付けされた豚肉に、野菜が交互に刺された名物串焼き。
「ガンツ、ありがとう!」
笑顔で立ち上がる金色の髪の少女。休日の領主長女クレア。
「ガンツ先輩、俺のは?」
若い銀髪の騎士がくだけた態度で串焼きを要求する。
「馬鹿っ!ヒュンケ、拙者たちは護衛だ。我らは常に剣を抜けるよう手を空けておかねばならん!お嬢様の食事中は周りに目を光らせろ!」
「へー、へー、真面目なこって」
「でも、ガンツとヒュンケにも食べて欲しいです。この串焼き、すごく美味しいですよ」
肉を頬張りながら、二人に声をかけるクレア。
「そうでございましょう!拙者も非番の日には家族で食べにくるんです」
「え?ガンツ先輩、食ったことあるのか。ずるいじゃねえか」
「うおほん!お嬢様が食事を終えたら、お前も買ってきていい。それまで待て」
「やった!よし、お嬢、早く食べろ!」
「むぐっ…。待って、これで全速力…」
「こ、こら!お嬢様を急かすな!」
「あ、ガンツ先輩。そこ」
ヒュンケの指差す先に、草を握った男児が近づいてきた。10歳前後か。道端で寝泊まりしているかのような薄汚れた格好だ。
「む…。お主、何用か?」
「あ…、騎士様。この薬草買ってくれない?」
物売りのようだ。どこかで摘んできたような薬草だが、本物ではあることを確認したガンツ。
「ふむ、いくらだ?」
「銅貨1枚」
「よかろう。…金に困っているなら、役所へ来るようにな。教育や補助金を斡旋してやれるはずだ」
「…うん、わかった」
ガンツが銅貨を渡して薬草を受け取ると、少年はこちらを2、3回ほど返りつつ立ち去っていった。
クレアが小声で口にする。
「ガンツ…、あの子…」
「ええ。顔や腕に殴られている跡が見えましたね。一箇所どころじゃない」
低い声でヒュンケが止める。
「お嬢、今日は休みだぜ。深入りは賛成できねえ」
「うん…、でも、あの子、怖いはずのガンツに薬草を売りにきたのは…」
「お嬢様、拙者が怖いって、そんな」
「まー、そうだな、ガンツ先輩を騎士と見たからだろうな。あわよくば助けてもらえたらと考えてたかもしんねえ」
ヒュンケの予測に、クレアが頷く。
「ガンツ、ヒュンケ、いい?あの子の行き先、確認しよう。権力のある人間が見て見ぬふりしちゃいけない」
「お嬢様、今は貴女が主君です。お供いたします」
「はあっ…。面倒ごとの予感しかしねえけど、行くよ。お嬢、俺とガンツ先輩から離れるなよ」
クレアがうなずくと、三人は遠く見える少年を追って移動を始めたのだった。
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