【外伝7話】転生の自覚から瞑想
この世界に来て二日目の朝。
夢はまだ覚めていない。…というより、これは夢というより、『転生を自覚した』ようだ。
日本時代の朧げな記憶と、この金髪イケメンナイスミドルことフィリップ・ランド伯爵としての記憶。
記憶の混同と、それによる混乱を鎮めるべく、朝の静かな執務室で瞑想をしよう。
この瞑想の技術は吾輩が日本で得たものらしい。邪魔が入らないよう、執事に申しつける。
「しばらく瞑想するから、人を通さないで欲しい」
「承知しました。しかし、旦那様、『メイソウ』とは?」
「ああ、この世界でいう、お祈りみたいなものだ。昨日からアイディアや気づきが溢れ出ているのはいいのだが情報量が多すぎてね。1時間ほど、落ち着く時間が欲しいんだ」
「承知いたしました。それでは、一時間後にお呼びいたします」
…。
……。
………。
「旦那様、お時間です。クレアお嬢様がおいでです」
…!
もう一時間か。
吾輩にしては集中してたな。
「ありがとう。通してやってくれ」
執務室に通された長女クレア。心なしか昨日よりは元気そうだ。
「あ…あの、お父様。昨日は書類を手伝ってくださってありがとうございました。あっ、あと、守衛をつけてくださったことと…。ケーキも美味しかったです」
言い切ってペコリと頭を下げる。
言いたいことをまとめてきたのだろう。律儀な子だ。
「いいよー。クレア、こちらこそありがとう。守衛の騎士たち、ちゃんとやってくれてる?」
「はっ、はいっ。ほんとに、わたくしなんかにもったいないくらい、すごくよくしてくれてます」
「おお、よかった!…まあ、『わたくしなんか』とかは思わないでくれていいんだけど」
「えっ?……なんだか急に手厚くしていただいて、落ち着かないというか…」
「あー、いいよ、いいよ。そう君が思っちゃうのも、全部、今まで吾輩が至らなかったせいだから。これから適切に手厚くしていくから。クレアは、ただ受け取ってくれればいい」
「は…はい。……でも、どうして…?」
不思議そうな顔で吾輩を見つめる美少女。
「ん?急に優しくなったのはなぜかってこと?」
「い、いえっ!お父様はもともとお優しいです!」
「あれ?吾輩は君に結構、嫌なこと言ってきたと記憶してるけど…。優しくはなかったでしょう?」
「ち、違います!お父様が厳しいことを言うのは、わたくしがお母様やリディアを怒らせてしまったときだけで…。いつもは優しいです!」
そうなんか?
けど、それはそれでダメな気がするけど。
「あ…、あー、ごめん。三人がかりで君に厳しくしちゃってたってことだよね。ごめんね、もうしないから」
「あっ…、は…はい。あ、あのっ、……うれしいです…」
戸惑いながらも微笑む長女。
めちゃ、ええ子やん。よく、ひねくれずに育ったな…。
「うん。でさ、なにか吾輩にして欲しいこと、あるいは自分でしてみたいこと。あったら教えて」
「え…。うーん、今は思いつかないです」
「そっか。じゃあ、何か一つ考えておいてね。あと、最後に一つ。
今日から出かけるの自由にしていいよ。お小遣いも渡すけど守衛騎士は連れていってね。彼らは君の護衛だから」
「あっ…、うれしい……!ただ、お出かけはしてみたいですけど…。お仕事が残ってて…」
「うん、やれるときは引き続き、やってくれたら助かるが、出かけるときは吾輩の方に回してくれればそれでいい。吾輩、今までやってこなかった分を取り返したいし」
「あっ、ありがとうございます。では…、お言葉に甘えようかと…」
「うん、いいよ、いいよ。遠慮なくいっておいで」
深くお辞儀をして出ていくクレアを、吾輩はヒラヒラ手を振って見送ったのだった。
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