第13話 天下無双の立会人
「な、な、なんでアンタがここにいるのさ!」
慌てふためき、大男を指さすマターノ王妃。
その男、ホウゲン大将軍が王を護るように前へ出る。
「あー、俺は最初からいたぜぇ。ウチの自慢の軍師が『今夜は陛下が危ない』ってんでなあ。気配は消させてもらってたがなあ」
彼のような大柄な男が完全に気配を消せるなど、只事ではない。マターノ率いる親衛隊は警戒を強める。
「ア、アンタは遠征軍で半年は戻らないって…、宰相が…!」
「あー、おめぇら、俺を王都から引き離すのが目的だったんだろ?それもウチの可愛い軍師が見抜いてたんだわ。
遠征軍は部下に任せてきたぜ。俺の1番の仕事は陛下の護衛なんでなあ。がはははっ!」
相変わらず無駄に大きいホウゲンの笑い声。苛立ちを隠せない王妃だが、今回は一泡吹かせるチャンスだ。
圧倒的な数的有利。
王妃の親衛隊は18名。高給で召し抱えられた名うての精鋭ぞろい。これまで、彼女の機嫌を損ねた者を一人残らず消してきた。
「ふんっ!いくらアンタが強かろうが、わらわの敵じゃあない。甘く見たね!一人で出てきちゃってさあ!」
ホウゲンは親衛隊に目をくれる。18人の剣先が一斉にホウゲンを向く。
「ま、陛下の寝所に武装して押し入るたぁ、即、死罪だわなあ」
剣を抜くや否や、瞬く間に血煙が上がる。
18人全てが一瞬にして死体に変わった。
飛び散った血がマターノの豪華なドレスに染みを作る。
「ふぇ!?…あ……ひっ…ひぃ……」
腰を抜かすマターノ。自慢の数的優位があっけなく無に帰る。
ホウゲンは王に振り向き、確認をとる。
「…で、陛下。どうするよ?この元妻。さすがに引っ叩いていいか?さっきの陛下への不敬、ボケジジイ呼ばわりとかよぉ。俺ぁ我慢できねぇぜ」
王が寂しく笑う。
「お前のやりたいようにせよ。…いや、殴るのは構わんが、死なんようにしてやってくれ」
物騒な発言に震え上がる女。
「……な、…な!わらわは王妃じゃ!『元妻』などではない!王妃に暴力など大将軍といえども許されぬ!」
大男に目線を送る老齢の王。
頷いたホウゲンが説明を始める。
「元妻さんよぉ。陛下は離縁を宣言したろうが。立会人は俺。
王国法『王族離縁の際は公爵一人以上の立会人を要する』知らんか?」
青ざめるマターノ。
「ま、まさか…!」
大将軍は咳払いして声を整える。
「じゃあ、改めて宣言するぜ。
我、王国公爵ホウゲン・ツリョウド・ショカルナ。国王ケヌテ8世と王妃マターノの離縁に立ち会い、正式に認める!王太子ミセラサの廃嫡、国王の退位も承認する!以上!」
マターノは反論を言葉にできず口をパクパクさせている。
「これで正式におめえは王妃じゃなく、ただの女だ…ってことで殴らせてもらう。言ってわかんねえ悪いやつはゲンコツだ」
「い、いや!いやだっ!アンタなんかに殴られたら!死ぬ!た、たす…」
ホウゲンがマターノの胸ぐらを掴む。
「おめえ!さんざん好き勝手しておいて、自分だけは叱られたくないだぁ!?甘ったれんじゃねえ!!」
至近距離からの大喝。
直後、漂う芳しい匂い。
失神したマターノは…。
漏らしてしまったのだった。
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