第11話 親の顔を見てみたい

「いやぁ、ミセラサ王子は太子にすべきじゃねえなあ。見栄っ張りで乱暴で女好きで。王どころか、まともな大人になるかも怪しいぜ」


 発言の主は甲冑姿の大男。


 その忌憚のない発言に謁見の間の空気が凍りつく。


 壇上の国王、王妃ともに固まっている。


 大男は空気も読まず大声で喋り続ける。


「王子に為政者として光るものは何も感じねえよ。将としても役人としてもダメ。顔はいいが人格に問題ありで広告塔としても使えねえ。ぜってえ王太子にしちゃダメだぜ。国が滅ぶ。がははは」


 発言の主は右隣の騎士からヒソヒソ声で諌められる。


「お館様、それ言い過ぎですぞ…」


 左隣の戦士も続く。


「王妃様ブチ切れそうですぜ…」


 壇上に座る切れ長つり目の王妃、マターノ妃。


 国王が先妻を亡くした後、後妻におさまった彼女。自らが産んだ第二王子ミセラサを溺愛している。


 その我が子への堂々たる苦言。数秒は我慢したものの、こらえきれず金切り声を上げる。


「ぶ、無礼者!王子への侮辱はホウゲン大将軍といえども許せぬ!撤回なさい!謝罪なさい!!」


 怒りを買った大将軍は豪快に笑い飛ばす。


「がはははっ!いや、すまねえ、王妃様。陛下に『ミセラサ王子は王太子にどうか?』なんて聞かれるもんだからよぉ。ダメなもんはダメとしか言う他ないよなぁ。がははっ!」


 ホウゲン大将軍の配下、右隣に控えるカーン将軍は頭を抱えた。


「お館様…。煽りにしかなってませぬ…」


 王妃がたまらず立ち上がる。


「ホウゲン大将軍!その失言は見逃せん!!誰か!この無礼者を処罰せよ!」


 王は慌てて立ち上がる。


「ま、待て!王妃!ワシが王子の評価を聞いたのが悪いんじゃ!ホウゲンに非はない」


「ア、アナタがそんな弱腰だから、臣下がつけあがるのです!国王なら罰すべき者は罰しなさい!陛下っ!」


 夫を怒鳴りつけたものの、固まったのは王妃の方だった。


 彼女の眼前に身長2メートルほどの大男が立っていたからだ。


 つい先ほどまで陽気に笑っていた、あの男。ホウゲン大将軍。


 瞬時に壇上に移動し、二人の間に立ち塞がったのだった。


 鬼の形相に睨めつけられ、腰を抜かすマターノ王妃。


「あ…ひ…ひい…」


 鬼が口を開く。


「おいよぉ!おめえは王のつもりかぁ!なに陛下に命令してんだあ!ああん!」


「ひっ…ひいいっ」


 震え上がる王妃。


「だーかーら!おめえは王でもなんでもねえだろうが!陛下に命令するんじゃねえ!」


「あ…わ…わかりま…した」


「なら、いい!邪魔したな!」


部下を引き連れ、大股で退出していくホウゲン大将軍。


 冷や汗が止まらなかった王だが、


「あ…ああ、ご苦労だった…」


力なく大男を見送った。


 侍女たちに助け起され、座らせる王妃。


 膝がまだ震えている。


「あ…あの乱暴者をいつまでのさばらせておくのです?陛下!これではどちらが上かわかりません!」


 気弱な王はしどろもどろになりながら返答する。


「い、いや、ホウゲンは国一番の功臣じゃ。ワシの命の恩人でもある。あの者がおらんかったら、異民族や魔物から国を守ることもできん。悪く言うものではない」


 将軍に対する王の信頼は厚い。


「ぐっ…、しかし、王子のことを悪く言うのは許せません!アナタは平気なんですか!」


 王は伏し目がちになりながらも反論する。


「い、いや、ワシも王子の様子は不安に思っておる。お前には悪いが、ホウゲンの意見は信に足る」


 王妃は信じられないという顔をする。


「陛下っ!王妃のわらわより、あの男を信用するのですか!我慢できません!」


 ヒステリックに叫んだ王妃は立ち上がり、急ぎ足で退出する。


「くっ…わらわに力があれば…。ミセラサ、アナタを王太子にできるのに…」

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