第30話 超成長痛 


 俺は兎の洞穴で仰向けに寝ている。


 様々なことが立て続けに起こった。


 ラビがメイド喫茶の仕事を取ってきた。


 メイド長のレーゼフェルンさんと出会い『多くの追放者』がいることを知った。


 ソウルワールドに法が無く、王都は中世以下の治安となっていることもレーゼさんから聞いた。


 こんな無法の世界でレーゼさんは〈法〉を造りたいという。


「すごい人もいるもんだよなあ」


 また追放者がコミュニティを造っていることも知った。


 俺は自分だけがと思っていたが、見えないところに仲間はいたようである。


 だが仲間がいるということは懸念でもあった。


 安心し、復讐心が薄れる危険がある。


 復讐の妨げになるなら、過剰な仲間はむしろ障害といえるが、組織と繋がれるのは願ってもないことだった。



「ラビとタキナがいればいい。あとは仕事の付き合いだけ留めておこう」 



 俺は朝食を食べようと身体を起こそうとする。


 だが全身も頭も何もかもが痛くて、起きられない。



「どういう状況なんだ? ステータスは……」



神裂アルト レベル56 ブレスマスター


HP 1350

MP 938

TP 738

攻撃 1053(最大3159)

防御 800

魔攻 555

魔防 554

素早さ 1053

運命力 0

体格 50

移動 50


【バイタル】グリーン

【スキル】呼吸

【アビリティ】不運、強肺、成分解析、毒耐性、呼吸経験値変換、呼気感知、身体強化、イノベーション進化、アビス適性、

【ギフト】カナリア、ブレスマスター、ゴクシンカ

【アーツ】ブレスフィジカル、ブレスバレッド、ウィンドブレス、ドラゴンブレス

【称号】竜殺し、深層踏破



 ステータスに異常は見られない。


【HP1350/1350】


 HPも満タンだ。


 あるとしたら俺の肉体だった。


「急に、筋肉痛が? うむぅ!……」


「お兄ちゃん?! お兄ちゃん!」


 びくんびくんする俺にラビが抱きついてくる。


「どこか、痛いの? 病気なの? ヒールをかけるよ。えーい!」


 ラビのヒールが賭けられる!


 聖魔法の魔方陣が俺を包みこむも……。


「がっはぁっ」


 またも何故かHPが減ってしまった。



【HP950/1350】


 すさまじいダメージだ。


「うわああぁあああ。ごめん、お兄ちゃん! ヒール!」



【HP1320/1350】



 二度目のヒールでほぼ全開したが、ラビのヒールはまだまだ未熟だった。


 シーフクラスで無理やり回復魔法を覚えたせいか、不安定なのだろう。


 とはいえ俺の激痛は止まない。


「貸してみな」


 タキナがよそよそと出てきた。


 ドワーフギャルが俺の関節や筋肉へと触診する。


「わ、わかるのか、タキナ」


「医者じゃ無いからなんとも。ただ、あんた……。めちゃくちゃ【成長】しているね! 出会ったときもあんたは自分の成長に気づかなかったが、さらにバキバキになっている」


「【成長】に何か問題でもあるのか?」


「筋肉だけバキバキになって、骨の成長が追いついてないんじゃ無いのかな」


「【成長痛】ってこと?」


「だね」


「【圧倒的成長痛】か。俺らしい」


「ポジティブなのは結構だけど、身体が歪になってるってことでもある。あんまいい傾向じゃないよ」


「あ、そぉ……」


 だんだん痛みにも慣れてきた。


 自分のことなので、まあなんとかなるだろうと思うが……。


 手が付けられないのはラビだった。


「お兄ちゃん、死んじゃやだ……」


「あーん? 俺は死なねえよ」


「やだ。やだやだやだ。死んじゃ……。私、お医者さん探してくる! 10人さがしてくる!」


「金はどうするんだよ」


「なんとかする!」


 ラビは俺の制止も聞かずに出て行った。


 タキナが『一人でいいよ!一番いいヤツを頼む!』と言ってくれたおかげで、ラビの暴走は抑えられそうだ。


 兎の洞穴の部屋で、俺とタキナが残される。


「ありがとうタキナ」

「あんたら、どっちも子供だからね」


 ドワーフギャルはため息をついていた。


「悪いね、姉さん」


「誰が姉さんだ」


「姉御ぉ」


「ったく。弱ってるやつを怒れるかい。もう、好きに呼びな」


 タキナのお姉ちゃん力はすさまじい。


 金髪に小麦色のギャルなのに、めっちゃ優しいのでうっかり好きになりそうだった。


「しっかし。【スキル:呼吸】が【ゴクシンカの力】だってのは聞いていたけど。あんたは無茶が祟ったんだよ」


「めんぼくない」


「メイド喫茶でやっと仲間ができて安心したんだろうね。安心すると溜め込んでいたものがどっとでてくるもんさ。それにあんた、前世は入院してたんだろ?」


「入院はしていたが。これでも高二までは運動部でバキバキにいわせててな」


「バキバキだろうだろうがボキボキだろうが、あんな人外の動きをしてたら、普通は身体の方が先に砕け散るもんだよ。今までガタが来なかったのが不思議だったんだ」


「『能力に身体が付いていかなかった』ってことか。ソウルワールドなんだから身体のケアくらいナシでもいいじゃんよな」


 だが『能力に体がついて行かない』とは中二病心をくすぐる。


 ベッドに寝ながら俺は何故かテンションがあがっていた。


 タキナが湿布を張り替えつつ、真面目に応える。


「この〈ソウルワールド〉は現実と変わんないよ。強い能力には反動がある。システムには理性が搭載されてるからね」


「理性ねえ」


「あんたは諸刃の剣みたいなもんだ。しばらく安静にしているんだね。ふむ……。熱はないみたいだけど」


 タキナが俺のおでこに手を当てる。


 タンクトップの間から、ふくよかな肌がみえていたので俺は思わず目を背ける。


「タキナ。もしかして俺のことが好……」


「ばっ! あたしだってわきまえてるよ! ラビは、もうあたしにとっても妹なんだ。妹の気持ちを折るような野暮はしないさ!」


「ぁん? どうして、ラビがでてくるんだ?」


 タキナは何故か蒼白になった。


「あんたマジで言ってるのか? 気づいてないのか?」


「ラビは俺にとっても妹だよ」


「はぁー? 本当、馬鹿。もう知らないわ」


「うっざ! そっちが意味分かんねえよ」


 病人にひどい言い草だ。


 一時間くらいしてからラビが医者をつれて戻ってきた。


「お兄ちゃん! 生きてる? 死んだら殺すからね!」


「君のためなら死ねるぜ!」


 うっかり反射的に答える。


「もう、お兄ちゃんたら……。冗談だよ。本当に死んだら、地獄まで追いかけるもんね!」


 ラビは最近元気になってきたはいいものの、メイド喫茶で育てられているせいか、元気になりすぎのようだ。


 だが妹の愛は伝わってくるので、元気すぎるくらいでちょうどいい。


「ヤニクラさん。こっちです」


「うむ。やるだけやってみよう」


 ヤニクラと呼ばれたのは狐獣人の女医だった。


「私はヤニクラ。闇医者だ。君のすさまじい肉体を見せてもらおう」


 獣人アバターを選んだのだろう。

 耳がふよふよと動く。美しい人だった。


 闇医者による俺の治療が始まった。


――――――――――――――――――――――――

現在の状況

アルト:超成長痛中

ラビ:イバラの洗脳に若干気づいているふしがある。

レーゼフェルン:たぶん重要人物。王都へのツテを持ってる。

タキナ:武器作成中


イバラ:王都でヒャッハーしている。

毒島:王都でヒャッハーしている。

魔山:イバラに催眠された。


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