第22話 刻まれた〈称号〉
兎の洞穴で目覚め、皆でスープを作って食べた。
ソウルワールドは資源が潤沢だ。
野を蔓延るマカタプと呼ばれるビーバーめいたモンスターを撃破する。
マカタプは食用として豊富なモンスターでそこら中にいるので、ソウルワールドに来てからも捕獲し食していた。
街の外で暮らす人々にとっての、基本食料だった。
「ドラゴンブレス」
薪にくべる火はドラゴンブレスで一瞬でついた。
鍋にマカタプの肉と道ばたの葉っぱや根菜を入れるといい味になった。
「「「頂きます」」」
三人で鍋を囲む。
「そういえば。もぐ……。お前ら昨日は、どうして、もぐもぐ。洞窟に来たんだ?」
「リタンリングの反応を追ってきたんだ。あんたはどうせ無茶するって思ってね」
タキナがスープを食べながら、ラビと眼を合わせる。
「素材も手に入ったから助かったけどよぉ。最初から三人で行けば良かったんじゃ無いのか?」
「この子を危険にさらせないだろ。それにあんたに付き合ってると命がいくつあっても足りやしない」
タキナの言い分はもっともだった。
ラビが俺をつんと小突く、
「でも良かったでしょ。ちょうどいいタイミングで私が間に合って」
「だな。来てくれなかったら、火傷と凍傷と感電ダメージで死んでいた」
「えへへ」
ラビは俺と再会してからよく笑うようになった。
病院にいたときも、少しはにかむことはあったが暗い表情をしていた。
(虐待された記憶は今もつらいだろうが)
ソウルワールドで自由な身体を得たためだろうか。ラビは見たことのない笑顔をみせるようになっていた。
「お皿、洗うね。アワダチ草を取ってきたから、綺麗に洗えるよ」
ラビはアワダチ草という洗える成分のある草を抱えていた。女の子だからなのか、生活や快適さの追求についてはとても頼りになる。
「俺もやるよ」
俺とラビはふたりで食器を洗う。
樹木の下にある〈兎の洞穴〉は、ラビの年少者特権によって得た住居なので、最低限の生活スペースが確保されている。
「ラビには世話になりっぱなしだな。住まいまで貸して貰って……」
「私の方こそだよ。お兄ちゃんがいないと、闘えないから」
「疑問だが。最初に会ったとき、口調が変だったよな」
「あ、あれは。あれはぁ……。誤魔化すのに必死だった。距離感がわかんなかったんだよ」
10歳の子供だと思ったが、今は15歳ほどまで成長している。
俺との年の差は、あんまりないくらいだ。
『僕』だったものも『私』になっている。
少し残念だが一人称はケースバイケースだ。
たまに僕っこに戻ることもあるだろう。
お皿を洗いながら、ラビは〈住居〉について教えてくれる。
「お兄ちゃんと会う前に街で調べたんだけどね。〈住居〉を持つ物は称号を得ると〈拡張〉ができるらしいの」
「この〈兎の洞穴〉は年少者特権の住まいなんだよな」
「うん。私は力がないから、ワンルームの洞穴まで。だけど〈称号〉があれば、拡張できるみたいなんだ」
「っても俺は追放された身だ。嘘つき呼ばわりされて、街でも石を投げられた」
「役所で聞いたんだけどね。ソウルワールドのステータスは、人の風聞とは別のところで〈称号〉が刻まれているらしいんだ」
俺はステータスを開く。
神裂アルト レベル56 ブレスマスター
HP 1350
MP 938
TP 738
攻撃 1053(最大3159)
防御 800
魔攻 555
魔防 554
素早さ 1053
運命力 0
体格 50
移動 50
【バイタル】グリーン
【スキル】呼吸
【アビリティ】不運、強肺、成分解析、毒耐性、呼吸経験値変換、呼気感知、身体強化、イノベーション進化、アビス適性、
【ギフト】カナリア、ブレスマスター、ゴクシンカ
【アーツ】ブレスフィジカル、ブレスバレッド、ウィンドブレス、ドラゴンブレス
【称号】竜殺し、深層踏破 ←new
「〈称号〉が、ある!」
「街の人にどう思われようと、ソウルワールドは真実を刻み込むみたい。街の人も囃し立てている人がいるだけで。皆が皆、お兄ちゃんが嘘つきだなんて思ってないよ。そもそも知らない人もほとんどなんじゃないかな」
ラビの言うことはもっとだ。
「でも俺は、嘘つきになってしまった。毒島が風聞を流したからだ。ギルドにも雇って貰えない。バイトだってできやしなかった。イバラの側から俺を完全に消したかったんだろう」
「イバラさんは、お姉ちゃんは……。悪い人に攫われたの?」
ラビは遠目で俺に着いてきていたが、イバラの事情のことはまだ知らないらしい。
俺は迷ったが、話すことにした。
「イバラは望んで毒島についていった。俺が皆を守ろうと毒沼竜と闘っている間、あいつらは毒島と……うぷ……」
臀部が擦り合う影を思い出す。
俺は吐きそうになる。
その後、毒島は救護隊に嘘を付き……。
街には俺の悪い噂が蔓延した。
ラビが背中をさすってくれる。
「私は病院でね。お兄ちゃんとお姉ちゃんが仲良しなのを知ってるよ」
「ラビ……」
「お姉ちゃんが野心がある人だったのも知ってる」
「ああ。あいつは外に出たいって言ってた。現実では叶わなかったけど俺達はソウルワールドで一緒に冒険するはずで……」
「私ね。現世でね。お兄ちゃんが助からなくて。お姉ちゃんも助からなくて。残されて絶望してた」
「……辛かったよな。死んじまってごめんな」
「ううん。そういう病棟だったからね。お兄ちゃんとお姉ちゃんがいなくなって私も悪化して死んじゃったけど。さっくり逝けて良かったよ」
ラビはのぞき込むように俺をみつめる。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんと同期になったんだから」
「ラビ……。そんなに俺達のことを……」
成長してなお、まだ俺より子供だ。
彼女だって虐待の記憶に苦しんでいるだろうに……。
精神面で支えようとしてくれるなんて。
俺は自分が恥ずかしくなる。
「ありがとう、ラビ。目的は決まったよ」
「お兄ちゃん……」
「俺は毒島達に復讐して、イバラを取り戻す。また三人で仲良く暮らすんだ」
「まだ、イバラさんのこと……。ううん。なんでもない。いまはそれでいいよ」
ラビはそれ以上は言わなかった。
俺も追求はしない。
イバラへの恋心はまだ俺の中で燻っている。
大人の男に犯されたからといって、消える程度の間柄ではなかったはずだ。
現世の病院での三人での時間。
闘病と入院生活でつらい時間だったけど、俺達は三人で支え合っていたんだ。
ラビと話して、整理ができた。
「さっき言ってた〈住居の拡張〉って奴やってみようぜ」
「うん。洞穴の奥に宝珠があるから」
皿洗いを終えて、俺とラビは洞穴の奥に入る。ワンルームほどの広さなので〈奥の宝珠〉はすぐに見つかった。
「これか」
俺は手をかざす。
脳裏にアラートがなった。
【〈称号〉を確認しました。住居拡張を開始します】
街から離れた大樹。ひっそりと佇む兎の洞穴は、ソウルワールドの世界そのものの魔力を受けて拡張を始めた。
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