第4話 毒沼竜と【レベルアップ】


 俺は帰ることを提案したが、誰も話を聞かなかった。


「命が保証できない。やめたほうがいい」

「るせえんだよ! 俺達は何も感じねーっつうの!」


 爪田が蹴りを入れてきた。

 蹴りを受けながら、俺は穏川さんが咳き込んでいるのをみやる。


「すでにステータスデバフがあります。穏川さんも咳き込んでいるでしょう!」


 穏川さんは、咳き込みつつ眼を細めた。


 彼を味方につけれれば引き返せるかもしれない。


 何より姫宮を危険にさらしたくない。


 俺はパーティに引き返すようさらに説得する。


「なあ穏川さん。あんた肺が弱いんじゃないのか?」

「いや。いいんだよ。パーティ皆の意見が大事だ」


「あんただけでも帰った方がいい。開始一週間の俺達で太刀打ちできるダンジョンじゃない」

「ひとりの意見が皆に通じるとは思わないことだ。ごほ、げほっ」


 毒島が穏川さんと肩を組む。


「いーじゃん。根性あるよ。穏川さん~。肺活量君はチキン野郎だけどなぁ」


 俺はなおも引かない。

 この先に行けば待ち受けるのはパーティの全滅だ。

 俺は荷物を置き、帰ろうとする。


「悪いが俺は帰る。この先にいる敵は太刀打ちできる奴じゃない。姫宮、行こう。死ぬことはない」


「なーに正論こいちゃってんのぉ? お前だけ帰るとかナシだろ」


 毒島の腹パンがめり込んだ。


「がっはぁ!」


 腹を押さえ、うずくまる。


「肺活量君さぁ。お前クラスさえねーだろ?」


「クラス?」


「ステータスの名前の脇にでるんだよ。参考に俺のクラスをみせてやるよ」



毒島アキラ レベル20【剛戦士】←コレ


HP 400

MP 30

TP 12

攻撃 380

防御 380

魔攻 30

魔防 30

素早さ 30

運命力 500

体格 300

移動 20


【バイタル】イエロー →オレンジ(毒で危険!)

【スキル】超筋力

【アビリティ】強健、剛運、経験値二倍

【ギフト】略奪適性



神裂アルト レベル5 ←ここにクラスがない


HP 91

MP 50

TP 36

攻撃 40

防御 30

魔攻 30

魔防 30

素早さ 40

運命力 0

体格 18

移動 15


【バイタル】グリーン

【スキル】呼吸

【アビリティ】不運、強肺、成分解析、毒耐性、呼吸経験値変換、呼気感知

【ギフト】カナリア


「クラスがあるってことは、戦闘ができるんだよ。だがてめーにクラスはねえ。雑魚無職のお荷物なんだよ。闘えねー雑魚が粋がってんじゃねえよ!」


 周囲の男も毒島に追従する。


『マジチキンだわ』

『空気読めよなカス』

『お前の意見なんか聞いてねーんだよ!』


 といいつつ毒島の部下共のバイタルもまた、イエローからオレンジになっていた。

 気づかないのか?


(俺に毒感知をさせてるのに、毒を感知したことを受け入れない。こいつら論理的に破綻してるだろ。馬鹿なのか?)


 結局こうなるんだ。

 人間社会は多数派の馬鹿の意見が優先される。

 姫宮だけは「ごめんねー」と言っていた。


『引き続き毒味しろよな』


 意味不明だ。


 毒島に背中を蹴られ、俺は先行する。


 姫宮のためには、もう付き合うしかない。


 この先が毒に塗れた死地だとしても、俺には強肺と毒耐性がある。

 俺だけは瘴気を吸えているせいか、バイタルはグリーンのままだからな。


 姫宮だけでも救うことはできるだろう。




 一同は毒沼竜の洞窟、深層に到着した。


 毒沼竜は眠っているようだ。

 全長10メートルほどの体躯がすぅすぅと寝息を立てている。


 黄色い毒々しい龍鱗が暗闇で光る。

 毒島が竜をみて歓声をあげた。


「おいおいおい。こいつは金の塊だぜぇ! しかも寝てやがる!」


 毒島は斧を担ぎ、戦闘態勢となった。


 爪田や男共も各々武器を出す。

 姫宮もまた杖を出し戦闘態勢になる。


 俺は〈呼吸使い〉なので武器は持っていない。


 パーティ6人のステータスデバフは深刻だったが、全員が俺の忠告を無視しているので気づいていなかった。


「げほ、ごほぉっ」


 穏川さんは両手剣を構えながら、相変わらず咳き込んでいた。


「大丈夫ですか? このハーブを」

「君には悪いことをしたと思っている」


「気にしないでください」

「肺活量君なんて呼んで、ごめん。神裂アルト君……」


「今はハーブで肺を休めてください」


 俺は穏川さんを気にかける。

 だが他のメンバーには毒沼竜の討伐を優先していた。


「金、金、金ぇ。ゲットだぜぇ!」


 毒島が両手斧を振り、毒沼竜に斬りかかる。筋骨隆々とした大男がドスドスと突貫する。


「眠っている今がチャーンス!」


 爪田もまた両手剣を振り毒沼竜の背中へと斬りかかる。チャラ男風なので、単純にでかい剣を選んだらしい。


 穏川さんは咳き込み吐血しながら弓を放つ。


「だめだ、毒が強い!」

「関係ねえ。眠ってる間に殺せえ!」


 他のパーティの男らも毒で吐血しながら、各々槍やハンマーを振るっていた。


「私は回復をやるよ!」


 姫宮が杖で前衛役の回復を行っていた。


 俺は戦闘をしないから、姫宮の回復魔術はもちろんこない。

 闘えない代わりに、俺は瘴気を吸い込んでいる。


「俺が瘴気を吸い込んでいます! 戦闘は任せます」


 俺は呼吸にまつわる状況を把握できる力を持っている。

 俺が洞窟の瘴気を吸わなければ、パーティはすでに全滅していただろう。


 だが、誰も気にかけない。

 わかりやすい力じゃないからだ。


 でも、これでいい。

 姫宮を守れるからだ。


【強い瘴気を確認】

【呼吸ごとの取得経験値が増加しました1→30】


 瘴気が強いのか呼吸経験値変換も上昇していた。


 一呼吸ごとに、俺には膨大な経験値が入ってくる。


【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】



 毒沼竜が目覚めだした。

 俺は自分のレベルアップを確認する暇もない。


 毒霧が目に見えるほどとなり、さらに瘴気が強まる!


 俺は全力で瘴気を吸う。


 皆のために。

 姫宮のために。


『ゴウゥウウウウウウウウ』と竜が鳴く。


 生物を超えて、岩石の衝突音のような泣き声だ。


「殺せ!」


 毒沼竜の背中に斧や、剣、弓が殺到する。

 しかし結果は……。


「傷一つない、だと?」


 毒島が驚愕した。


 デバフがかかって弱体化しているのだから、当然の結果といえる。


 毒沼竜が怒りだした。


『ゴウウルルルルゥウウウウル!』とした轟音ともに洞窟内部で暴れ出す。


 さらに瘴気が強まる!

 俺のレベルも上がっていく!


 とめどないアラートが俺の中で駆け巡っていた。



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