前編

 それは数年前、暑い真夏の出来事だった。


 午後九時頃、私はいつも通り愛犬との散歩中。彼と共に薄暗い夜道を歩いていた。

 散歩を終え、その日は睡眠不足だったこともあり眠気をこらえながら、帰宅しようと少し早足で歩いていた。


 いつもの散歩コースである大通りからマンションの角を左折して住宅街へと入り、通行人がまばらな車が一台どうにか通れる程幅の狭い道路を数十メートルほど歩き、そこをさらに右折した自宅から数メートルほどの距離にある人気のない裏路地に差し掛かったとき、突然頭上から飛行機のエンジン音が聞こえたのだ。

 いつものことだな。そう思い、はじめは特に気に留めず聞き流していた。


 しかし、暫くするとそれは徐々に大きな音へと変化して行き、そして、その音は突然鳴り止む。

 すると次の瞬間、薄暗い空間が一瞬稲妻のような光に包まれ、何やら奇妙な雰囲気になってきた。


 飛行機にしては何処か様子がおかしい。

 そして、私は恐る恐る空を見上げる。


 するとそこには、右手に見える二階建ての民家の屋根のちょうど真上くらいの高さに、なんと巨大な円盤状の飛行物体UFOが浮かんでいるではないか。


 機体の表面には無数の青白いライトを点灯させ、反時計回りにくるくる・・・・と回転しながら空中に浮かぶそれはまさにSF映画さながらのものだった。

 UFOは高度はそのままゆっくりと直進し、やがて私たちの頭上で動きを止める。


 それはあまりにも突然で、且つ衝撃的な出来事だったため、思わず右手に握っていたトートバッグが手から滑り落ちてしまう。

 気付けば先程までの眠気など吹き飛んでしまっていた。

 

 ふと私は左手に握っていたリードの先に居る愛犬のほうへと目を遣る。

 すると、彼は私の左脚にピタリと密着し、尻尾を下げ震えていた。

 そして、私はしゃがみ込み、彼を抱き締める。

 

 私自身も逃げようにも恐怖心から身体がこわばり、身動きが取れず更には声を上げることもできずに怯えていると、機体の中央部から突然まばゆいばかりの白い光が発せられる。

 その光は私たちを包み込み、徐々に明るさを増して行き、遂には視界が真っ白になり何も見えなくなった。

 そして、私はあまりのまぶしさから咄嗟とっさに左手で両目を覆う。

 

 

 

 ────そう、見ての通り、私たちは宇宙人に拉致アブダクションされたのだ。

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