第六話『親と子』 破
舗装の荒れた山道で、
生い茂る木々が陽光を遮り、その
そこへ、丁度風が吹き込むように、遠くから
自らの傍らに停止する自動車に、
気を失った彼は、下車して近寄る人影に構わず夢を見続けている。
それは大切な
⦿⦿⦿
今や本人もよく覚えていない事実であるが、
物心付く前、幼稚園児の時に両親が離婚したのだ。
理由は、両親の過去にあった。
だが、実はこれが父親によるマッチポンプであったと判明し、夫婦関係は愛情の前提を失って
当時、幼馴染に思いを寄せていた父親は、中学へ進級して疎遠になったことに危機感を覚え、知り合いを通じて強引なやり方でアプローチをしたのだった。
母親は当時、自殺を考える程に追い詰められており、父親はそれを知らずに軽く考えてしまい、後に夫婦だけでなく息子にも禍根を残す言葉を言い放ってしまった。
『別に、よくある話だろ? 好きな子にちょっかい掛けるなんてさ。昔は色々あっても、今が円満ならそれでいいじゃないか。もう済んだ事だろう』
こうして夫に愛想を尽かした母は息子を引き取って離婚し、子の名前は
⦿
彼はずっと母親が自分に愛情を抱いていないと感じていた。
実際、円満だった頃の両親は「
「お母さんは、あの時見舞いに来てくれなかったよね」
母親の
「あの時は
「それは……ちゃんと仲直りしたよ」
「関係無いでしょ。
「何を……言っているの? もう四年も前のことだよ、済んだことだよ」
この言葉が母親の
「だったらお見舞いの話だって済んだことでしょうが! 言い訳まであの人と同じね! じゃあ十年以上前のいじめは
「お、お母さん?」
「いじめの加害者なんかに子供を渡す訳には行かないと思って引き受けたけど、もう無理だわ! 何から何まであの人とそっくりなんだもの! 顔も、名前も! 子供を愛するのが親なら、
母親の発狂は一時の錯乱ではなかった。
彼女はその後、
「もう
この時、彼女は
⦿
中学へ進級した
庭園は
「
庭で立ち止まっていると、
「いや、ごめん。でっかい家だなと思って」
「まあ、そうね」
気後れはしたが、実のところ予想は付いていた。
というのも、
この二年前、
それ以降、彼は小遣いを一円たりとも
額を
さらりと聞かされた破格の小遣いに、
そこで、代替案として
小遣いではなく、駄賃という訳だ。
「とりあえず今日は夕食の準備と片付けを手伝って頂戴。どれくらい料理出来るか、確かめるから」
「お、お手柔らかに頼みます」
家に上げられた
すると、不意に
その奥から、枯れ木の様に痩せ細った男が
「
「しかし、
おそらく、娘の言う通りに寝ていた方が良いのだろう。
しかし、男はか細い身体をのそのそと動かし、
「初めまして。
「こちらこそ初めまして。
家事を手伝うのは、
咳き込む
「御父様、大丈夫?」
「ああ、済まないね」
「悪いけれど、食器を片付けている間、父を
「あ、ああ」
おそらく
十二畳の和室に、
女子の家に上げてもらい、その父親とこの状況。
しかし
まじまじと
そんな
「あの
庭の
遠くを見る
それは
「
初対面となる幼馴染の親に対し、まるで娘の恋人かの様な口振りだが、
「ありがとう、と言いたいところだが、
現に、
それともその程度の
ふと、
軍服を着た若い男と少年が映っている。
若者は長身
「
写真の方を向いて
「ああ、そうだよ」
「では一緒に写っているのが、お父さん?」
「いいや、そっちは祖父の知り合いなんだ」
言われてみれば確かに、少年からは
桜色の髪がどことなく異様な少年だった。
「
戻ってきた
「ごめん」
確かに
「申し訳御座いませんでした」
「いやいや、
「御父様、余計な一言が多い。
それぞれの家にはそれぞれの事情がある。
しかし、
それよりも、自分には自分の出来ることをして
その
⦿
この頃、
すぐ隣では、出会った頃よりもよく育った幼馴染がエプロン姿で料理の支度をしている。
目線を下に
こんな状況で何も思わない
(
「
「ん? ああ、ごめんごめん」
声を掛けられて、
「集中しなさい、指切るわよ」
「はい……」
咎められ、口で生返事はしても、二人切りで家事をするという状況は
(
自分は彼女のことが好きなのだ、と。
初恋にして、生涯の恋であった。
⦿
準備も終わり、食卓に夕食が並んだ。
「……多くない?」
「別に、これくらい普通でしょう」
「要らないなら貰うわよ」
「それだけ盛っといてまだ食うのか……」
家族
「
「まあ簡単なものは家でも作ってるしね。もっと褒めてくれても良いんだよ?」
「そうなの? その割には危なっかしい所もあったけれど。
「あ、駄目出しはするのね」
「まあ良いじゃないか、助かったんだろう?」
「刃物や火を扱う以上、言う事は言わせていただきます」
「うーん、確かに目的を考えると
「あら、良い心掛けね。じゃあこれからレパートリーをガンガン増やしてもらおうかしら。レシピは色々あるし、スパルタで行くから覚悟しておきなさい」
「うへぇ……」
「
「御父様、また余計な一言」
特に、
「これ、
「家で採れた筍だよ、
「ああ、庭園に植えられていた……」
「当然、来年からは
そんなにも長く、自分はこの場に入れてもらえるのか――
血は
しかし、それも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます