第31話 アイリスのクローン
サーシャがジーンに尋ねる。
「あの、話は変わりますが、アイリスとレナの事なんですが……」
「ベータ2ね」
「完全に他のベータから浮いた存在になってしまっています」
アイリスとレナのベータ2は、ベータの中では浮いた存在だが、連合軍やX国軍との戦いでは無類の強さを発揮していた。最初にリリアムにやってきた二人を見た時にジーンはとても驚いた。
これまで、いくつかのベータの変異種を見てきたが、この二人の少女は圧倒的に異なっていた。ジーンはレナより年上のアイリスをフル活用することをまず考えた。レナに関しては将来、軍事的な切り札になると考え当面は温存することにした。
「困った問題ね。ベータと言えども道徳的に完全ではない。差別意識って人類、いや哺乳類の性質に染みついている原始的なものなのかもね」
「弱肉強食の世界では差別は重要な要素だったんでしょうか」
「生き残った種が強い種か…… たぶん、そうなんだろうね」
「でもベータ2って極めて数が少ないんですよね?」
「ええ、とても繁栄するタイプとは思えない。なぜこんな変異が起きるのか」
「私達にはわからない必然性があるのかもしれませんね」
「そうね。神様に聞かないと」
「で、何か対応されますか?」
「差別するなって締め付けるのもねえ、結局二人は孤立するだろうし……」
結論は出なかった。
◇ ◇ ◇
数日してからジーンがサーシャを呼んでこの件について語った。
「サーシャ、アイリスとレナの件を考えたわ。当面は私が直接ベータ1と彼女らの間の関係を最低限良好に築くように面倒を見ます。メンタルケアもね。それから、アイリスとレナと合意できれば、もっと別の形で独立する選択枝も提供する。孤立じゃなくて独立よ」
ジーンはサーシャに極秘に進めていたプロジェクトと最新の研究開発をベータ2に応用することについて説明した。
極秘のプロジェクトとは秘密の離島への完全隔離。リリアムに何か壊滅的な事があった時のバックアップになる居住区の開発だった。
また研究開発した技術の一つは『クローン人間』生成技術。ジーンは既にクローンの誕生と加速成長技術を確立していた。ドームに来た日に採集したアイリスの細胞を使ったクローンは既に誕生し成長中らしい……
もう一つは冷凍生命維持技術、いわゆる『コールドスリープ』だ。人間を半永久的に冬眠させる技術だ。どちらの技術も種の進化のいくつかのシナリオに応じて応用できるようにジーンが開発したものだ。
ジーンとしてはごく少数だとしてもベータ2の遺伝子は守りたいと考えていた。いつか人類に危機が来た時には、このような種が人類の救世主になりうると想定してのことだった。
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