第30話 ジーンとサーシャ
ベータの人口は増え続け、やがて1万人を超えた。その5割がリリアムで暮らしている。ベータはその高い知能を生かして資産を増やし、世界中から必要な物資を調達していた。さらに将来の人口維持に必要な、男性の勧誘も積極的に進め、今では千人以上のおとなしい遺伝的性質を持つ一般男性がリリアムに住んでいる。
リリアムを主導しているのは代表リーダーのジーンであり、ナンバー2のサーシャは外部での活動が多い。ジーンは内部統治、戦略立案が主な仕事だったが、そのずば抜けた頭脳で並行して科学的研究を進めていた。特に力を入れていたのは遺伝子の研究と生命維持装置の開発だった。ジーンとサーシャが話している。
「サーシャ、出生率が2.0として、ベータの人口を維持するにはやはりベータと同数の男性が必要だわ。一夫多妻制は嫌よね」
「もちろんです。勧誘はまだ続けますが、許容性質の男性は減ってきました。性格が荒っぽい男が多くて……」
サーシャは苦笑した。
「その許容性質の男は素直に来る?」
「いーえ。最初は怖気づくやつが多いですね。ハーレムだって言うのに」
「気持ちはわかるかも。従来の女性ならともかく、怒ると衝撃波を出すパートナーってどうかと」
そのジーンの言葉にサーシャはくすりと笑う。
「ジーン、ではあなたの場合はなおさら相手がいませんよ」
「はは、そうね」
ジーンも笑った。もう見せることも無いがジーンの衝撃波もなかなか強力である。
「基本的な事を聞いてもいいですか?」
「何? サーシャ」
「この男達とベータから生まれる子供の種別割合はどのくらいなんですか?」
「生まれるのが女の子ならベータ70%、男の子なら許容性質が50%かな」
「それでは『不適切』と言ったら不謹慎ですが、リリアムにそぐわない子供が多数できてしまうんではないでしょうか?」
サーシャの疑問にジーンは真剣な顔になって言った。
「このままならそうよ。私が遺伝子の研究をしているのは知っているでしょう?」
「ええ……」
「何世代もかけて許容できる性質の子孫の割合を増やすような緩和効果のある遺伝子操作ができるようになったわ」
「それはまた……。どうやるんですか?」
「妊娠中に薬剤を服用するだけでいいの」
「少し怖いですね」
「安全性は絶対的に確保してるわ」
「それなら安心です」
サーシャは続けてジーンに確認する。
「それでもしばらくは許容性質外の子ができますね。どうしますか?」
「そちらも誕生時に狂暴な性質が出ないように少し処置するから大丈夫よ」
「外科処置ですか?」
「ううん。皮下にゆっくり薬剤を入れるだけ。パッチを一週間ほど貼っておけば済む」
「ベータではない女児はどうされます?」
「本人達の幸せを優先して本人と家族の好きにさせようと思う。特に隔離する必要は無い。逆差別も嫌だしね。私の分析だとベータの出生確率はさらに上がり、いずれベータではない人は自然にいなくなるでしょう」
「わかりました」
サーシャはそう言うと、話題を変えた。
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