第16話 村の窮地

「いやああああ、お父さん、お母さん、いやあああああ!」


 ナジミの泣き叫ぶ声。同時に村人たちも集まって誰もがすすり泣いている。


「どうしてこんなことに……この森にレッドリザードがいるなんて今まで……くそう、ちくしょう!」

「うう……二人とも、ナジミちゃんがセクンドと結婚する日をすごく楽しみにしていたのに……こんなことって……」


 先ほどまで豪快に笑っていたヤオジ、フクロも、そしてシェスタも泣きじゃくっている。

 誰もが悲しみに暮れていた。


「ごめんよ、ナジミちゃん! 俺ら、自分が逃げるの精一杯で二人を……」

「あいつら、俺らが水路を直そうとしたところ、いきなり……」

「私たちもあと少しのところで、う、うう……二人みたいに……食べられ……うう」


 両膝を地面について泣きながら謝る村の者たち。

 ナジミの両親が喰い荒らされた時、その場にいた者たちだ。


「うそだよぉ、お父さんとお母さん、嘘、ひょっとしたら、逃げて、あ、お、お願い、ひょっとしたらまだお父さんとお母さん生きているかも、怪我して動けないだけで、だ、だから」


 泣きながら、気が触れたように村人たちに縋るナジミ。

 村人たちは苦悶に満ちた顔を浮かべる。

 まだ両親は生きているかもしれないと叫ぶが、それはありえないのである。

 何故なら、彼らはナジミの両親が食べられるところを目撃していたからだ。


「う、うう、お父さん、お母さん……やだぁ、いやだぁあ……あ、う、ああ……わ、わたし、どうしたら……」


 何の前触れもなく、唐突に両親を二人同時に失ったナジミ。

 そのあまりにも痛々しい姿に、ヤオジは自身も悲しみを抱きながらも、ナジミをグッと抱きしめた。


「ナジミ、これからのことは心配すんな! お前は俺らの娘でもあるんだからよ! 今日から俺たちの家に住めばいい。それに、きっとセクンドが……セクンドがこれからはお前を守ってくれる」

「あう、あ、おじさま……」

「だから大丈夫だ。お前は大丈夫だからよ」


 ヤオジの言葉にまた涙が溢れるナジミ。シェスタも泣きながらヤオジとナジミに抱き着いて身を寄せ合う。

 

「はぁ……なんつーか、急展開だぜ。セクンドの野郎に仕返しでもしてやろうと思ったんだけどよ」


 そんな様子を、輪の外で少し離れて眺めているデイモンは溜息を吐いた。


「しっかし、レッドリザードの群れねぇ……随分とあぶねー村だったんだなぁ、ここは……たしか、『危険度2』ぐらいのモンスターだろ?」

「はい。ちなみに、群れだと『危険度3』級でもあるとされています」

「危険度3ね……クラスホルダーのパーティーでも、低レベルなら下手したら全滅する数字だな」


 デイモンとストレイアが語る『危険度』は、文字通り長く魔族やモンスターと争い続けた人間たちが、その危険度を数値化して定めたものである。

 モンスターなら種族ごとに。魔王軍の有名な将などであれば個別に危険度を定められており、危険度を数値化された数は膨大である。

 だが、どれだけ膨大になろうとも共通しているのは、数字が増えれば増えるほど危険であり、危険度2以上からは人間におけるクラスホルダーでない限りは対抗できないというものである。

 つまり、群れになれば『危険度3』とも言えるレッドリザードともなれば、クラスホルダーもいなければ、まともに戦える者も居ないこんな小さな村などひとたまりもないのである。

 そして、それは村人たちにも分かっていることである。


「とにかく、皆! 悲しみむことは大事だが、俺たちは俺たちで今どうするかを考えなくちゃいけねえ。レッドリザードがこの山に居るってんなら、俺たちはもう入ることはできねえ。だが、このまま水路を使えなくなったら、俺らは生きていけねえ」

「分かってるよ……でも、ヤオジのおやっさん、俺らどうすりゃ……」

「俺が今すぐ馬を飛ばして、町行って領主さまに討伐隊を派遣してもらうしかねえ。なんだったら、セクンドとどうにか連絡を……」

「待ってくれよ、あの『メタボン領主』がそんなことしてくれるわけが……いつもいつも俺たちから税を搾り取って贅沢することしか考えねえ、あの豚領主が。それにセクンド君への手紙だってすぐには……」

「だが、どうにかお願いするしかねえ。いや、セクンドの名前を出せばどうにかなるかもしれねえ。超特急で届けてくれたりな。それに、あの領主には娘だっていたし、ナジミには悪いが、『勇者の責務』として口添えとかよ……最低なことかもしれねえが、俺らが生きるにはそうするしか……」


 この状況を自分たちだけではどうすることもできない。

 ヤオジが中心になってどうすべきかを述べる。


「メタボン領主? ……あ~、聞いたこと……そういや、娘を俺にと予約してたような……」


 そんな村人たちの様子をただ眺めているだけで特に割って入ろうとしない、デイモンとストレイア。

 すると……


「……マスター……」

「あ?」

「私の感知網にかかりました。二匹ほどこちらに来ました」


 ずっと黙っていたストレイアが静かに口を開く。

 そして、その視線を村の家畜小屋に向け……



――ヒイイイイイイン


「「「「ッッッ!!??」」」」


 

 馬小屋から建物が破壊される音と、馬の鳴き声が響き渡った。

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