第14話 現状整理
何時間も……ひょっとしたら小屋の中に丸一日居たかもしれない。だが、ようやく満腹になるほど女の身体を喰らったデイモンが外に出る。既に陽が落ち始めて、空がオレンジ色に染まっていた。
「なんだ、もうすぐ夜じゃねえかよ。じゃあ、晩飯食って、体でも洗って……寝る前にもう一度ヤルか? ぐわはははは」
「ッ!? え、あ、はい、ど、どうぞ、よろこん、いえ、御心のままに」
衣服を整え、そしてその首には首輪をカッチリと装着してデイモンと共に小屋から出るストレイア。その歩き方は明らかにぎこちない。
破瓜の痛みもそうだが、何時間も、そして十数回喰われ、しかもその一回一回が尋常ならざるデイモンの強靭な足腰から繰り出される衝撃を受けたのだ。
無表情を装うとしているが、ストレイアは生まれたての仔馬のようであった。
「ぐわははは……俺の人生狂わせたクソみたいな女だと思っていたが、体の相性だけはこれ以上ないほど抜群だ……初めてだから知らねえけど」
「……お気に召していただけたようで……」
「で――――」
抱いた体に満足したデイモンは笑みを浮かべる。
息も絶え絶えながらもストレイアは歩きながら気を落ち着かせようとする。
そんなストレイアに……
「お前はこれからどーすんだ?」
「……マスターのお望みの―――」
「つか、お前の目的は何なんだ? 何のために俺に近づいた?」
「…………」
不意打ちのような問いかけをした。
「おっしゃっている意味が……」
「勇者誕生を見落としていた……そんなもん、フツーに考えたら個人で謝るとか聖女一人が奴隷落ちするとかそんなもんで許されるようなもんじゃねえだろ? つか、お前のことを聖都や聖王やらは何て言ってんだ?」
「………それは……」
「それこそ、権威失墜間違いなしだろ? なあ」
その問いに、ストレイアは雰囲気を重くした。
ストレイアの一連の行動に関する不可解な点を指摘した。
だが、
「命令は何でも言うこと聞くテメエに『言え』と命令すりゃいいんだろうが……まぁ、もういいや」
「え?」
「俺が勇者に未練がありゃ、根掘り葉掘り聞くところだが……もう何もかも意味がねえからな……」
今更知ったところでデイモンにとってはもうどうでもいいと、投げやりになった。
そう、今更だった。人類、世界、帝国、愛のために戦うことはもうバカバカしくなり、真実を知ったところでどうでもよかった。
「……よろしいのでしょうか?」
「ああ。テメエが何を考えてようが、体の相性が抜群で気持ちいいウチは道具のように使ってやるよ。飽きりゃ捨てる。それまでだ」
「……承知しました」
だからこそ、ストレイアとはそうやって割り切るつもりで、デイモンももうそれ以上は追及しなかった。
「は~あ……それにしても……辺境の村とは聞いてたが、本当に何にもねえ村だな……」
外の空気を吸って息を整えて、デイモンは改めて周囲を見渡す。周囲は森と畑に囲まれ、家も数十件ほどの小さな民家しか見えない。
「メシ食う場所とか……つーか、宿屋ぐらい……無さそうだな」
「はい。どうやら普段から旅人も商人も訪れないような、住民も百人程度の小さな村です。宿泊施設や酒場のようなものも無いようです。ですので、小屋を借りて、食糧は分けていただく他なく……」
「ったく、田舎にもほどがあるぜ。ま、何も考えずに逃げて来たのは俺だが……」
「私の魔力と体力が続けば、もう少し大きな町へマスターをお連れすることができたのですが……申し訳ありません。しかし、私の魔力が戻りましたら空間転移魔法で―――」
もともと大都会の帝都出身であるデイモン。これほど何もない村に住んだことなど一度もない。
だが、何もなく、これからどうしようかと考えるも、今はこのどこまでも静かでのどかな空気に悪い気はせず、心は落ち着いていた。
「近くの町へはどれぐらいだ?」
「え、あ、馬で二日程度の距離に、この村を含めたこの地域一帯を治めている領主の町があります」
「馬で二日……まぁ、俺がその気になれば半日ぐらいでつくかもな……どっちにしろ、今日はメンドクセーから、やっぱもう一晩ここだな」
「承知しました。小屋の持ち主の方々にはそのように伝えます」
「いや、待て。施しを受ける気はねえ。だから何かしら―――」
今のところ、デイモンに何か行く場所や目的があるわけでもない。それどころか、今のデイモンには何もない。だから、何もない村とはいえ、別にすぐに移動する必要もなかった。
そんなとき……
「おぉ、よーやく小屋から出て来たか、兄ちゃんよぉ!」
「あらあら、本当ねぇ。ず~~~いぶんとお楽しみのようだったようだけど。うふふふ、私もまだまだ若いと思ってたけど、とても敵わないわ。ね? あなた」
「なな、何言ってんだよ、母ちゃん。俺だってまだまだよぉ……」
「はいはい、見栄を張らないの」
後ろから声をかけられた。
デイモンとストレイアが振り返ると、そこには村の住民と思われる一組の男女。
今まさに一日の農作業を終えた格好で土にまみれていて、だがその目はどこまでも純粋にキラキラとしている。
「あっ、どうも。マスター、こちらの方々は小屋を貸してくださり、食料も分けてくださった、この村のご夫婦です」
「ん? おお、そうか。そりゃどうも」
頭を下げるストレイアの言葉を聞いて、デイモンも釈する。
「メシと小屋に感謝する。代わりに何かの対価を支払う。だが、金はねーから、野良仕事でもなんでもいいから言ってくれ。やる」
すると目の前の夫婦は一切の裏を感じさせない笑顔で頷いた。
「ははははは、何ともしっかりした兄ちゃんだな! いいってことよ、気にすんな! 何もねえ村だからって情けまでねえ村だとは思われたくねえからよ。ま、兄ちゃんもそんな美人な奴隷を連れて、こんな村まで家出なのか夜逃げなのか知らねえが、ゆっくりしてけよ」
「うふふふ、でも、『アレ』している時の声はもう少し静かにしてほしいわぁ。もう、娘があなたたちのアレしているのを覗いて、顔を真っ赤にして大変だったんだから~」
そう言って、夫はデイモンの肩を叩き……
「俺ぁ、この村のヤオジってもんだ。よろしくな、兄ちゃん」
「私はフクロ。お兄さん、いくら奴隷だからって女の子には優しくね」
デイモンとストレイアを歓迎した。
その厚意は、帝都で手痛い民衆からの非難を受けたデイモンの心に染み、そしてそれとは別に、デイモンはヤオジの妻であるフクロを見て、ふと……
(この奥さん……誰かに似ている……)
と、思った。だが、それが誰なのかすぐに出てこず、少し考えていると……
「お父さんお母さんおかえり~! 私も丁度今、ナジミお姉ちゃんと――――」
一人の少女が元気よく手を振って現れ、そしてデイモンとストレイアを見た瞬間……
「ひゃわああああああああああああああああ!!??」
顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
「あれ? あ、あれ? お前、どこかで……」
その少女に、デイモンは見覚えがあった。
【デイモンの経験値】
●元・聖女ストレイア:21回戦
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