第13話 聖女から女へ

 何時間経ったかも分からない。

 互いに何度果てたか分からない。


 小さな小屋は生々しい匂いで充満していた。

 その匂いは、獣の喘ぎと吐息を発しながら一心不乱に行為に及ぶ一人の雄と雌。


 快楽に抗えず、デイモンは休む間もなく聖女を喰らった。

 何度喰らっても飽きることなく、満たされることもなくまた喰らう。

 時にはデイモンの命令で、聖女の方からデイモンに奉仕するよう告げられるも、聖女はその命令に一切の躊躇いなく従う。


 もはや蕩けるほど互いに喰らい合うデイモンと聖女。

 そのデイモンに喰い荒らされながら、聖女は心の中で独白する。


(天元勇者……世界の多大なる損失……その罪を償わなければと思っていた私の目の前に居るのは……傷つき迷える男の子……。神に選ばれた圧倒的な才能と強さ。それを否定する者には聖女であろうと帝国の騎士であろうと構わず反逆するほどの……だけれど、人としての心の弱さや悲しみを持った……)


 身体の奥底まで繋がり合ったからこそ、聖女はデイモンをただの『償う相手』として以外に、デイモン自身を感じるようになっていた。


(ごめんなさい。あなたの人生を、得られたはずの幸福を、あなたが積み上げてきた全てのものを私が奪ってしまい、本当にごめんなさい)


 改めて込み上げる罪の意識。


(多くの人に傷つけられたこの方は、もう人類や世界のために勇者として戦うこともないのかもしれません。だけれど、私だけはもうこの方を何があろうと否定してはいけません。この方の行い全てを肯定し、私はただその全てに従うだけ……たとえそれが人類の損失……滅びに繋がる行いであろうと、私は地獄であろうと付き従います)


 改めて言い聞かせる自分の贖罪。


(この方のために生きましょう。この方のために尽くしましょう。この方のために死にましょう。この方のために堕ちましょう。この方と共にいかなる底でも果てでも付き従いましょう)


 改めて決意する自分の人生。

 そして同時に……



「くは、は、はは、ぐわははは、もう何回目か分からねえ……」


(12回目……すごい、この御方はまだ……)


「お前も随分と良い声を出すようになったじゃねえかよ聖女。俺はな、経験無くて最初はヤリ方が手探りだったが、ようやくコツを掴んできたところでなァ! まだまだ終わらねえぜ!」


(嗚呼、なんと逞しい……この屈強な足腰に私は何度も昇天させられ、喰らわれ、淫らに喘ぎ、誰にも見せたことのない箇所すら侵略され尽くし……これが……男……いいえ、ただの男性ではない……天元――――あ、また私も果てて意識が―――でも、ダメです。私は、これは、償いで、だから、悦んではダメなのです……この御方に全てを捧げると言っても、溺れることだけは、ダメです、この御方がどれほどすごくても私はもっとしたいとか犯されたいとかメチャクチャにされたいなどと思ってはいけないのであって、この御方が僅かに見せた弱々しい泣き顔や、荒々しいのに私を喰らう中でたまに乳児のように甘える仕草や、『あの瞬間』に声が出てしまって、それがとても可愛らしいなどと思ってはダメなのです。私は償うのです)


 

 堕ちて溺れてしまいそうになる自分自身を必死に堪えていた。


(そう、私は生涯胸を締め付けられる想いを抱えて忘れず生きていくのです。胸がときめきとかダメなのです。この御方の人形として、食べられ、イジメられ、激しく乱暴にされて、されるがままになって、それを受け入れ……あ、また……キス……キスが……)


 もうとっくに堕ちて溺れてしまっていることに気づいてないほど必死であった。

 

「ぐわははは、あ~……サイッコーだぜ……何で俺はこんなサイッコーなことを我慢してたんだか……耐えて、禁欲して、無償で奉仕し、そして勇者に……けっ、もう何もかんもどうでもよくなってくる……」


 そして、デイモンもまた堕ちていた。

 快楽にハマってしまった。

 もう自分が人目や義理も気にする必要もないことで、理性の糸が完全に切れてしまったのも後押しした。


「ふぅ……それにしても少し腹減って来たな……」

「ッ、あ、う、っ……あ、先ほどのスープと、パンを……あ、でも、冷めてしまい……温めなおしてきまっ、あ、す、すみません、こ、腰が……」

「あ? 構わねえよ、冷めてても。腹には入りゃいい」

「……承知しました」

「ほら、よこせ……ん? これは無償の施しか?」

「いいえ。対価の範囲内です」

「メシ自体は?」

「村人に分けてもらいました」

「……じゃあ、施しか。後でその対価は払わねえとな……ただ、その前にまず、くれ」

「はい」


 ノンストップで喰らい合った時間がようやく僅かな小休止。

 立ち上がろうとした聖女だったが、既に足腰が立たないほど全身の力が抜けていた。

 そんな聖女を食事と共に抱き寄せるデイモン。

 それだけでデイモンの考えを察した聖女は、スープの野菜を口に含み、そのままデイモンの唇に重ねて、口移しで食べさせる。

 

「ん、ちゅっ、ちゅ」

「……冷めてるが、まあ、普通に食えるな……何だお前、料理もできたのか」

「はい。聖都の聖堂では、見習い時期にこのようなことは一通り……」

「ふーん……ま、可もなく不可もなくのレベルだな」

「精進します。生涯食べて頂くために」


 もはや、口移しのキス程度では狼狽えることすらなくなってしまった。

 それほどまでにデイモンも聖女も互いを知ってしまった。

 そして、思えば二人が落ち着いて会話をするのもこの瞬間が初めてだったりもした。



「そういや、聖女……いや、元聖女。テメエの名は?」


「はい……『ストレイア』と申します……マスター」



 それこそ、聖女の名前すらいまだに聞いてなかったことすら気づいてなかったほどに。



「そうか…………おい、休憩終わりだ。続きだ、ストレイア」


「はい、マスター」



 いずれにせよ二人はこの日、これまで互いを縛っていた肩書や世間の目など一切気にすることなく、男は初めて女を知り、女は初めて男を知り、そして初めて二人は人前で涙を見せた。

 そして……

















「……しゅ、しゅごい……あ、あの人たち、ま、まだ……『ナジミお姉ちゃん』……わ、私、何だか、身体が熱くなってドキドキが……」


「だ、ダメよ、『シェスタ』……の、覗き見なんて……ゴクリ……す、すごい……」



 そんな二人がいるこの村から、世界は大きく変わっていく。






【デイモンの経験値】

●元・聖女ストレイア:13回戦

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