第11話 償い
疲れ切って意識を失ったデイモンが目を覚ました。
見慣れない天井。小さな部屋。
傍には小さなランプが明かりを灯し、部屋のあちこちには農作業用のものと思われる道具や藁が転がっている。
「何だここは……」
自分がどこにいるか分からず首を傾げるデイモン。
すると、食欲をそそる香りと人の気配が近づいてくるのを感じた。
「目を覚まされたのですね」
「聖女ッ……」
扉を開けて部屋に入ってきたのは聖女。その手には、湯気立つスープとパンを盆に乗せていた。
「ここは、帝国の最南端にある小さな村……『ドカイナ村』……村の方に小屋をお借りしました」
「……ドカイナ……どこかで聞いたこと……」
「あなた様が気を失われて、一番近くにあったのがこの村でしたので……」
場所を言われてどこか聞いたことあるような気がしたデイモンだが、すぐにピンと来なかった。そもそも帝都から追放された際に一心不乱に逃げ出し、そこから先はただフラフラと何の行く当てもなく彷徨っていただけで、自分がどこにいたかもよく分かっていなかった。
「そろそろ目覚められると思い、村の方に食事を分けて頂きました。どうぞ、お召し上がりください」
聖女の言う通り、温かいスープの香りが空腹を意識させた。
思えばずっと飲まず食わずだったかもしれない。
空腹や渇きを忘れるほど、どん底にいたからだ。
だが、そう言われても、デイモンの手は素直に伸びない。
「俺ぁ無償で施しは受けねえ……ましてや、テメエなんぞからなんてな」
それどころか、聖女が目の前にいることで、再び奥底から怒りが―――
「施しなどではありません……まずは少しでもお体を。私は逃げません……償いは必ず」
そんなデイモンの心中を理解しながら、聖女はデイモンの傍らに寄り、スプーンですくったスープをデイモンに差し出す。
だが、それでもデイモンは受け入れない。
「……償い? どーすんだ?」
「まずは、此度の選別の儀式が私のミスであることを全土に公表し、あなた様が天元勇者という頂点のクラスホルダーであることを伝えます。それであなた様の汚名は―――」
「俺にすり寄って、平民だと分かった瞬間に掌返して偽物と騒いだ連中にまた好かれろってか……反吐が出る」
「……天元勇者は勇者を遥かに超えるクラスホルダー。たとえ帝国でなくとも、他国も含めてそのクラスホルダーは―――」
「そして……一番欲しかったものは、アッサリと俺を見捨てて奪われた。ずっと好きだった……勇者になったあかつきには……そう思っていた
そう言ってデイモンは何もかもがバカバカしくなったように呆れて笑った。
「全部なくなっちまったよ……俺……これまでの人生もこれからも全部……もう、何もかもバカバカしい……あの人のために、あいつらのために勇者になろうとした、英雄になろうとした日々……全部が……」
デイモンのその投げやりの言葉に、聖女は唇を噛みしめながら、持っていた盆を傍に会った小棚の上に置き、改めてデイモンに頭を下げる。
「あなた様の汚名を晴らした後、そこから私の真の償いが始まります。私ができることであれば、どのようなことでも、何でもおっしゃってください」
「……何でもだと?」
「はい、何でもです」
「けっ、軽々しく言いやがって。口だけのポンコツ聖女が―――」
「こればかりは、偽りは断じてありません」
償うためなら何でもする。
そう言いながら、聖女は懐からあるものを取り出した。
それは、妖しい紋様が刻まれた首輪。
「どうか、この身にいかなる罰をもお与えください。もはや私は聖女でなく、ただの息する人形。一思いに殺すことも、無限の苦痛を与え尽くして壊すことも、この肉体をいくらでも弄ぶことも、あなた様のあらゆる全ての要望も命令も受け入れ、肉体も心も魂も全てをあなた様に捧げ尽くして償いたく……どうか……マイ・マスター……」
それは、聖女の残りの人生を全てデイモンに捧げる奴隷になるという意思表明だった。
だが、それが余計にデイモンをイラつかせた。
「はっ! なーにが、償いだ! 何でもだ! 箱入りの聖女様が何をほざいてやがる! 苦痛? 弄ぶもよし? 偽りはない? バカにすんじゃねえ! なら、こういうことも受け入れるってか?」
「ッ!? あっ……」
次の瞬間、デイモンは聖女の手首を掴み、無理やり床に引き寄せた押し、そしてその聖なる衣を強引に剥いだ。
「この神に捧げし神聖なる体とやらを存分に犯しても文句ないってかァ? 無償でもらうわけじゃねえ……生涯をかけての対価ってんなら、こういうのも含まれてんだろぉ?」
衣を剥され、その下からは傷一つない無垢な柔肌。
純白の下着。
触れることも恐れ多いと感じてしまう気品溢れる女の身体。
それを思う存分蹂躙してやると乱暴な口調で圧をかけるデイモン。
すると、聖女は最初こそ驚いて身体を強張らせたが、すぐに両手を開いて……
「はい……どうぞ……御心のままに」
少し驚いただけ。
もちろん拒むことなどありえないと、聖女は両手を開いてデイモンを迎え入れようとする。
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