第7話 蹴り蹴り蹴り

「宿れ炎! 我が魔法剣で燃やし斬る! フレイムセイバーッ!」

「んな温い炎とナマクラ……たたっ切る……カミソリシュートツ!」


 選ばれた騎士たちが蹴られ、蹴り倒され、蹴り飛ばされる。

 魔法を纏った蹴り、魔法を直接蹴り飛ばす脚、そして時にはただの蹴りだけで騎士たちの武具すらも蹴り折り、蹴り砕くほどの力を見せる。


「つ、強い……」

「これが、魔法蹴撃士……デイモンッ!」


 皆が知っていた。デイモンが天賦の超人であるということを。

 倒れた騎士たちはそれを改めて身をもって思い知らされた。

 だからこそ……


「し、しかし、な、なぜこれほどの強さを持ちながら……こいつは平民なんだ?」

「ああ、仮に勇者ではなかったとしても、どのクラスも落選ということは……」

「だが、魔鏡は反応しなかったっていうし……でも、確かにおかしいぞ?」


 そう、改めてデイモンの強さを思い知らされたからこそ、これほどの強さでありながら落選というのは、騎士たちもやはりおかしいのではないかと思い始めた。

 そしてデイモンは改めて聖女に振り返る。


「どうだよ、聖女……なあ?」

「………………」

「これを見て、俺の力を見て、それでも俺をまだ平民だとほざくのか? なあ!」

「ッ!?」


 デイモンが鋭い上段の蹴りを放つ。

 そのケリは聖女の眼前で寸止めされた。


「ちょ、お、おい、デイモン、貴様!」

「いくらなんでも、聖女様には……お前、聖女様に何かあったら、もう……」


 聖都より派遣された聖女の身に何かあれば、それはデイモンただ一人の問題ではなく、この場に居る騎士たちも、そして帝国すらも責任問題となる。

 それほどのことだということは誰もが理解するところだが、今のデイモンはそれほどまでにキレていた。


「次は、そのツラを潰すぞ……」

「……野蛮な……しかし……だからこそかもしれません」

「あ?」


 デイモンの寸止めの蹴りを目の当たりにしても無表情を貫く聖女だが、その頬に僅かに汗が伝っていた。

 人形のような美女。だが、見た目の年齢はデイモンとそれほど変わらない。

 だからこそ、デイモンの本気の怒気と圧倒的な暴力に思わず本能が臆した。

 だが、臆しながらもあくまで「選別の結果は間違っていない」という答えは覆さない。



「私はあなたを知りません。しかし今あなたの並はずれた力と魔力は目の当たりにしました。現役の騎士、クラスホルダーたちが束になっても叶わない力……確かに傑物かもしれません。しかし……それでも魔鏡に間違いはないのです……『人間』であればどんな悪しき心を持ちしものでもそのクラスを選別するのです……そう、『人間』であれば」


「……あ? ……は? ……ん?」



 そのとき、デイモンは聖女が何を言っているのか一瞬理解できなかった。

 だが、頭の中で今一度、聖女が口にした言葉を頭の中で繰り返した瞬間……


「あ? は? いや、ちょ、待て……いやいや待て待て待て待て! お前、まさか!」


 選別の結果は誤りだと主張するデイモンに対し、聖女が現状を踏まえたうえで、デイモンがまったく予想していなかった結論を出し……



「あなたは、魔族。もしくはその血を引きし者という――――」


「ダメだコイツ……んなわけねえだろうが! マヂでぶっ殺す!」


「「「「ッッッ!!!???」」」」


 

 聖女の言葉に「そんなわけがないだろう」と、呆れと怒りがもはや限界に達したデイモン。

 だがしかし、聖女の言葉は絶大であり、そしてそれはこの場で這い蹲る騎士たちがデイモンがどのクラスにも選ばれなかった理由として大いに納得できるものであった。

 そして……



「小僧……神聖なる儀式の場で……何をしておるかァ!!!!!!」



 デイモンの雄叫びをかき消すかのような強烈なプレッシャーと声が響いた。

 振り返るデイモン。

 そこには、たったいま蹴散らした騎士たちとは、また一回りも二回りも桁違いのオーラを纏った騎士たちがそろい踏みし……



「テメエッ……帝国最強……ブシン大将軍と特級魔導騎士団……」



 それは、帝国最強にして、そして世界でも最強クラスの騎士たちの登場であった。

 そしてその先頭に立つのは……


「デイモン・ゴクア……選別の儀式の結果……すぐに宮殿にも届いた。今、宮殿ではその報告と、貴様とは別に勇者の誕生という報告に大いに混乱している……。納得できんようだが、とりあえず一度整理をする。貴様は大人しく――――」


 人並外れた巨躯。圧倒的な武と百戦錬磨のオーラをこれでもかと剥き出しにする、帝国最強の大将軍。

 その男がひと睨みし、一言発するだけで場の空気が緊迫する。

 その圧倒的なプレッシャーには、聖女も思わず冷や汗をかくほどである。

 だが……



「うるせえよ、大人しくできねえから実力で証明してんじゃねえかよ、カス筋肉野郎が!」


「ヌッ?」


「「「「ちょっっっ!?」」」」



 今のデイモンは、帝国最強の制止すらも届かない。

 

「そうだ……こんな中途半端な雑魚騎士共より、むしろあんたを蹴り倒せば、もうそれだけで全部証明できるじゃねえかよ!」


 それどころか、この選別の儀式の結果が誤りであると知らしめるための材料として……


「ぶちのめすッ!」

「青二才が!」


 しかし、いかにデイモンとはいえ、そこまで帝国最強は甘いものではなかった。


 

 何よりも多勢に無勢。



 デイモンの大暴れも、その一時間後にようやく収まり……












 ――投獄された。

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