第6話 シュート

「前言撤回する気がねえか……聖女。じゃあ、この聖堂に居る騎士全員……なんだったら、勇者に選ばれたセクンドもまとめてぶちのめせば納得すんのかァ、ゴラァ!」


 認めない。

 自分が落選など受け入れない。


「だって、絶対におかしい! 俺が落選なんておかしい! ありえない! 何度でも言う! 聖女だろうと、たとえ聖王だろうと!」

「愚かな……神の意志に背き、それを聖王様にまでとは……恥を知るべきと思います」

「テメエこそ、もうちっとよく俺を見ろ! 神じゃなく、道具じゃなく、その目で俺を見ろ!」

「何も変わりません」

「テ、メぇぇぇえええええ!!!」


 デイモンが叫んだ。


「違う違う違う! 俺が落選するわけがねえ! 俺は、だって、俺がようやく国のために、世のため人のために、惚れた女のために……リィーヤさんは今日まで待ってくれて……そして、俺に期待してくれている多くの人たちに応えるために……俺は今日まで生きてきた! 積み重ねてきた! 耐えてきた! 結果だって出してきた! それなのに俺がダメって……じゃあ、それは何の基準で見てんだよ! 皆の期待を裏切って……俺は……俺はッ!!」


 地響きするほどの叫びに、勇者誕生の歓喜に浮かれていた者たちもすぐに表情が変わった。


「なんだ、今のは!」

「こっちから聞こえたぞ? おい、何事……な!?」

「お前、何をしている! デイモン? そ、それに、みんな!」

「デイモン、お前がやったのか!?」


 デイモンの居た儀式の間に慌ただしく他の騎士たちがゾロゾロと駆け付ける。

 そして、デイモンが蹴り倒して部屋に転がる騎士たちを見て、顔を強張らせ、そして即座に剣を抜いた。

 そんな騎士たちに対し、デイモンは鋭い目つきで睨みつけ……



「黙れよ雑魚共。どう考えてもこの選別の儀式はおかしいってことを、このクソ聖女に分からせるんだからよぉ!」


「「「「ッッ!?」」」」


 

 もう止まらなかった。


「何を言っているんだ、お前は! 永世中立聖都より派遣された聖女様に……」

「いや、それ以前にこの惨状……言い訳は聞かんぞ、このクソガキめ!」

「新たなる勇者誕生の記念すべき日を穢すこのガキめ!」

「ついに本性を現しやがったな! 俺は前からこの生意気なガキが気にくわなかったんだ!」


 次々と儀式の間に押し寄せる帝国の騎士たち。

 地上の世界において、帝国は人類の盟主と呼ばれるほどの巨大なる国。

 その帝国において帝都に駐留する騎士たちは、まさに帝国全土より激しい競争を経て選ばれた優秀なる騎士たち。


「黙れ雑魚共……ケリコロスゾ?」


 誰もが、才能溢れるクラスホルダーで、更には多くの実戦や厳しい鍛錬を積み重ねてきた――――


「滾れ! ファイヤーシュートッ!」


 その騎士たちを蹴り一つで蹴り飛ばした。


「ぐがああ、ほ、炎のが、ぐあ、ああああ!?」

「ほ、炎を纏った蹴り?!」

「こ、このガキ、もう我慢ならん、殺すッ!」

「おい、いいのか? 一応こいつは帝国にとって……」

「だが、落選だって聞いたぞ? ならば全て御破算だろ!」

「宮殿からも応援を要請しろ! いいか、勇者誕生の日に問題を起こすわけにはいかん!」

「なあ、勇者となったセクンドも……」

「ばか! 今この場で勇者に何かあったらそれこそどうするつもりだ! ここは俺たちが、そして『ブシン大将軍』にも伝令を!」

「聖女様、お下がりください!」


 各々の剣を、槍を、杖を構える騎士たち。



「「「「我ら帝国騎士が正義の名において悪漢を成敗してくれるッ!!」」」」



 もはやそれは「おいた」をした悪ガキを取り押さえるなどと言うレベルではない。

 国をあだ名す危険人物を始末しようという目で、誰もが本気だった。


「あ゛? それがどーしたよ……カス共がァ! ガトリングファイヤーシュート!」


 一方で、もう止まる気のないデイモンは、魔法で炎の玉を作り出し、それを勢いよく蹴り飛ばす。

 濃密濃厚に凝縮された炎の塊。それを強靭な足腰から蹴り飛ばし、通常の魔法よりも遥かに速度と威力を上乗せする。

 その技を、デイモンは間髪入れずに連発する。


「速いッ!?」

「くっ、気を付けろ! このガキのオリジナルの戦法は、大会でも証明したようにッ、ぐはっ!?」

「しかも連射ッ!?」

「近づけな……がはっ!?」

「たかがファイヤーボールで、一つ一つの威力が!?」

「蹴りでスピードも破壊力も、ぐはっ!?」


 十人、二十人と次々と駆け付ける騎士たちだが、その誰もがデイモンに近づくことすらできない。


「何やってんだ、魔導騎士、前衛に! 障壁を展開しろ!」

「分かっている! こんなガキのいい加減な魔法など、水の障壁で――」


 騎士たちは次々と炎に包まれて倒れていき……


「サンダーシュート」

「ちょ、異なる属性まで―――」


 戦士も、魔法剣士も、魔法使いもどのクラスも関係なく騎士たちを蹴散らしていった。


「勝てるのに……負けないのに……現役のクラスホルダーすら蹴散らせるのに……何故俺がダメなんだよ、聖女!」







――あとがき――

本日は2話投稿。次は20時5分に投稿します。

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