第5話 初恋

「えへへ、デイモン先輩~、遊びに行くなら~、私と遊びましょうよ~そこの宿屋で~♥」

「ちょっと、デイっちは私と遊ぶのぉ! ね~、遊ぼってば~♥」


 帝都の大通り。デイモンは左右に女生徒たちを連れて街を颯爽と歩いていた。


「おい、オメーらぁ、歩きづれーんだよぉ! 腕に乳当てるのは構わねえが、歩幅は合わせろ! それに、これから大事な用があるんだから、おめーらにもちゃんとエロエロなことも子種もくれてやるから大人しくしてろっ、しっし」


 デイモンの隣で腕を谷間に挟むようにしてピトリとくっついて歩くのは、学校の後輩女子。そしてもう一人は同じようにデイモンのもう片方の腕を谷間に挟んでピトリとくっついて対抗心を見せる同級生女子。

 二人も周囲の視線を気にせずデイモンにすり寄って、関係づくりをしようと積極的にアピールする娘たちである。

 そして、デイモンに群がるのは二人だけではない。


「おお、デイモン君、ウチに寄ってくれよ! いい肉が入ったんだ!」

「デイモン君、ウチのメシをまた食いに来てくれよ!」

「デイモンさん!」

「デイモン君、うちの娘はどうかね?」

「デイモン君、おねーさんを孕ませて♥」


 通りを歩くだけで皆の注目を集め、誰からも声をかけられ、挨拶をされる。

 しかし、その群がる声にデイモンは軽く手を上げて応えるだけで立ち止まることはない。

 デイモンが放課後に行く場所は決まっているからだ。

 そこは、賑やかな声が外まで響き、繁盛している酒場。

 本来、学生で酒も禁じられているデイモンが行くような場所ではないが、一応は飲食店ということで、夕食に来たという……建前で……


「あら、いらっしゃ~い、デイモン君!」

「ここここ、こんばななあ、こんばんは、リィーヤさぁん! きょきょ、今日もお美しいィ!」


 激しく取り乱すデイモンを迎え入れるのは、酒場の看板娘。

 デイモンより2つ年上。美しく長い紫髪を頭の後ろに束ね、肉付きのよい豊満な胸を大きく揺らせ、その妖艶な肉体と笑顔で多くの男たちを魅了する、デイモンの憧れの年上お姉さん。

 そして、デイモンの初恋でもあった。


「今日、模擬合戦だったんでしょぉ? 頑張ったのかなぁ?」

「い、いえ、頑張るなんてとんでもない。自分は天才ですので努力など不要! 群がる凡人共のセコイ作戦など、俺のチームで蹴散らしてやりましたよぉ!」

「んふふふ、素敵ィ~♥」

「はうぅ」


 いつもの指定席のようにカウンターに座るデイモン。すると、先ほどまで配膳の仕事をしていたリィーヤは仕事をやめ、そのままデイモンにピタリとくっつくように椅子を寄せて、デイモンの腕にくっついて、自分の谷間に腕を挟むようにギュっとする。

 このときばかりは、同級生の女子や後輩女子たちも羨ましそうにしながら我慢する。

 その光景を多くの男たちもまた羨ましそうに眺めるが、誰も文句は言わない。

 デイモンの心地よい時間を邪魔して、嫌われたり怒られたくないからである。


「いらっしゃい、デイモン君。今日もいつものだね?」

「おう、店長」

「うん。そ、それとだね、その……もし、君さえよければ、奥の特別室で、その、リイーヤとジックリでもいいんだよ?」

「ぐわははは、そ、それは、あれだ。選別の儀式が終わってからだ。いつも言ってるっすから!」

 

 酒場の主人でリイーヤの父親がニコニコしながら現れ、娘とデイモンのその様子を「いつものこと」と機嫌よく話しかける。

 そう、デイモンが来た時だけは、どれほど酒場が混雑していようとも、リィーヤはデイモン専属で付きっ切りになるのである。


「ねぇ、デイモン君、お父さんも言ってるんだけど……別に今からでもね……選別の儀式が終わると、デイモン君はむしろ体が明かないような気がするし……い、今のうちに、ね? 一回ぐらい奥の部屋で、ゆ~っくり食事もいいんじゃないかな?」


 リィーヤは上目遣いで色っぽく女の魅力を漂わせてデイモンを誘惑しようとする。奥の部屋で食事。

 奥の部屋と言っても、そこはただの個室。テーブル、そして『ベッド』があるだけである。

 ようするに、酒場の主人もリィーヤもデイモンをその部屋に連れて行きたいのは、『そういうこと』なのである。


「くぅ、もう少しだけ待ってくれリィーヤさん。俺様とて早くリィーヤさんと愛を育みたい。しかし、一応勇者になる前の学生である俺は、校則でイチャイチャ禁じられている。何か問題を起こして選別の儀式を先送りにされても嫌だし、リィーヤさんも嫌だろ!」

「そ、そうだけど……ん~、変なところで真面目だよね、デイモン君。うふふふ、ちょっと大人になってるってことかな? それともむしろヘタレかな? このこの♪」


 学生であるうちは校則で不純異性交遊は認められていない……が、年頃の男子生徒や女子生徒の全員がそれを守っているかと言われたらそうでもない。隠れてコッソリというのも別に珍しくもなく、教師もまたそれで一発退学などの重い罰を与えたりはしない。

 ただ、デイモンは勇者になるためには、可能な限り問題は起こさないように心掛けていた。


「学校に入る前は喧嘩ばかりの悪ガキだったのに……本当に大きく、そして強くなって……そしてもうすぐ、運命の日が来るんだね、デイモン君」

「え、ええ、全部リィーヤさんが支えてくれたからですよ!」

「お~、嬉しいこと言ってくれるね~、天才くん。お世辞でも嬉しいよ。でも、勇者になったら、私なんて平民はもう見向きもされないんじゃないかなって、焦っちゃってね……」

「そ、そんなことないっす! これから先、どんな姫も女神も現れようと、リィーヤさんこそ俺の最高の女神姫っす!」


 今は将来有望なデイモンを特別待遇で帝都全土が特別視するが、もともと貴族出身でもない戦災孤児だったデイモンにとって、成り上がるためには今の時点ではまだ問題を起こしたくないという思いがあったのと、童貞を捨てるなら勇者となって堂々とというこだわりもあったので、リィーヤや学校の女生徒たちからの誘いは断っていた。

 だが、 


「だから、俺が勇者になったらヤリまくってください! そ、そう、おお、オッパイも、お、お尻も、あ、余すことなくリィーヤさんを最初に全部いただきます!」

「あは、えっち~♥ そっか~、私~、とうとうデイモンくんに食べられちゃうんだね♪」

 

 勇者になりさえすれば、もう何も我慢しない。デイモンは鼻息荒くしてそう言った。


「それじゃぁ~、今は……チラッ」

「ッ!?」


 すると、リィーヤはエプロンの下の短めのスカートを他の客に見えないように少したくし上げる。

 むっちりとした白いふとももと、ミント色のレースの下着がデイモンの視界に入る。


「あのね、いつも私ね、デイモン君がいつその気になってもいいようにね……勝負してるんだよ?」

「りりりり、リィーヤさん!」

「勇者になったら、全部見せてあげるね♪」

「ほわあ、なな、なんてことを! くぅ、勇者となるこの俺様が、いかなり金銀財宝よりも価値あるリィーヤさんのパパパ、パンティを無償で……ダメっすよ、リィーヤさん! 俺様は無償で何でもやるけど、無償で何かを受け取ったらダメなんすよ!」

「え~? じゃあ、先渡し?」

「だめっす! うおおおおお、店長! 雑用手伝うっす! いくらでも! それでチャラにできないっすけど、俺に僅かでも対価を支払う機会をォ!


 デイモンは頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にして狼狽える。そんなデイモンをリイーヤは可愛い弟でも見るように愛おしそうに撫でる。

 そんな二人に我慢できなくなった学校の女生徒たちは……


「う~デイモン先輩~、そんな年増のパンティーよりィ、私のキュートなハート模様をあしらったパンティーの方がいいと思いまーす」

「デイっち! 私、いつも高級店で買ってるんだよ? このレースの施されたセクシーなのはどう?」


 張り合うようにデイモンの前でスカートをたくし上げる。当然他の客には見えないように、デイモンだけに見えるように、女生徒たちは制服のスカートをペロンと自らまくってデイモンに甘い声をかける。

 それを見てデイモンは……



「くぅ~~、慌てんなぁ、お前ら! 勇者になり、リィーヤさんと朝までしたあとは、お前らもちゃんといただくぜぇ!」


「「きゃ~~~♥」」


「だけどその前に……オラァ! 酒場の飲んだくれ共ォ! 店の仕事だろうと現場の重労働だろうと掃除だろうと何でも俺様に言ってこい! 無償奉仕タイムだぁ!」


「「「「「オオオオオッッ!!!!」」」」」



 興奮抑えきれずにそう叫ぶほど、有頂天になった。












 それなのに……


「ふざけるなふざけるなふざけるな! 俺が落選? 俺が平民? 納得できるかァ!」


 運命の日。

 選別の儀式の日。


 デイモンの生涯設計は根本から崩れ去った。


 聖女より落選を告げられ、一方で自分より弱いと思っていたセクンドが勇者に選ばれた。

 その現実を一切納得できないデイモンは完全にキレた。

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