第3話 爽やかな青春時代

 それは、ほんの数日前までの出来事である。


 かつて、その青年は同年代たち若者たちの中心であり、代表でもあった。


「ぐわははははははは、よくやったぜぇ、下僕共ぉ! 今回の模擬合戦、俺様たちのクラスの全勝だぁ! おめーら、愛してるぜぇ! 才能ない下僕がよくがんばったじゃねーかぁ!」


 傲慢で自尊心高く、人を平気で見下すような発言をする。


「くそぉ~、またデイモンに負けたか……今日は僕の作戦がうまくいくと思ったんだけどな」

「ぐわはははは、百年はえーぜ、セクンド! いや、千年経っても勝てねーぜ! なーぜーなーら、この俺こそ人類史上最高にして勇者確定の超天才デイモン様だからだ~! まぁ、おめーも凡人にしては~頑張ったけどな~、ぐわははははは!」

「まったく……はいはい、僕の負けだよ。でも、実は少し危なかったんじゃないか?」

「ぬっ、……ま、まあ、ちょび~っとだけな。ま、まあ、お前も俺様に敵わないまでも勇者を目指してるわけだし、少しは歯ごたえねーとなぁ」


 だが、争った相手はデイモンに対して負の感情どころか、どこかスッキリしたような表情で健闘を讃え合っていた。


「デイモン先輩~、素敵でした~!」

「きゃー、デイっちてば今日もカッコいー!」

「はぁ~、決めた、私もデイモンくんの女になる! 勇者になったデイモンくんに孕まされよう!」

「何言ってんのよ、デイモンくんの子種は予約待ちなのよ?」

「そうそう、国中の貴族やお姫様までっていう噂よ?」


 そして、戦いを終えたデイモンには観戦していた他の女生徒たちが一斉に群がり、発情した目で黄色い歓声を上げる。


「やはりデイモンたちが勝ったかのう、教頭」

「はい、学園長。セクンドたちも惜しかったようですが」


 そんな若者たちを温かい眼差しで眺める大人たちがいた。

 そこは、帝国魔法騎士養成学校の訓練演習場。

 チーム対抗の模擬合戦を終えたところである。


「ええい、群がるな雌猫共ぉ! この俺様の子種が欲しい~? ぐわははは、そうだろそうだろう! もちろんくれてやる! それが勇者の責務! 無償でいくらでも分けてやる! 無償の活動こそが勇者のあるべき姿! だ~が、俺には入学前から最初の予約者が決まっていてなぁ……だが、安心しろ! その人とイチャイチャした後なら、勇者の権限で妻も愛人も何人でも合法で持てるようになったら~、全員イチャイチャしてやるぜぇ! 大きいオッパイも小さいオッパイもデカい尻も小さい尻も、全部俺のモノなのだぁ、ぐわはははははは!」


 帝国魔法騎士養成学校は、裕福な貴族の子や選ばれた才能ある子供のみが在籍することが許される由緒正しき学校である。

 本来、ほとんどの生徒が育ちの良い家系の出身で、礼儀作法などは身に着けているのだが、元々戦災孤児でまともな常識を身につけぬまま才能のみで学校に入ることができたデイモンは、品性が欠けていた。

 しかし、入学当初は色々とあったが、今ではそのことでデイモンを窘める者はいない。

 それどころか……


「それにしても、デイモンはあれほどお下劣なのに、相変わらず人気があるのう」

「そのようですね。実際、口だけではなく飛びぬけた才能。養成学校歴代最強とも呼び声高い、将来はクラスホルダー確定どころか勇者になるのではと呼ばれているだけありますからね。その才能と将来性に人が集まるのでしょう」

「ほほほ、確かに多くの女子たちからすればそうじゃのう……彼の将来性ゆえにすり寄ろうとする……だが……」


 学園の教師たちの長として、これまで数多くの英雄を輩出してきた学園長は、デイモンたちを眺めながら微笑む。


「なー、ブデ! あいつら全員お前をノーマークだったからよぉ、お前が伏兵で特攻したときのセクンドの顔、マジ傑作だったよな!」

「うん、僕もスカッとしたんだな! デイモン君の作戦通りなんだな! 今日ので僕の個人成績上がったんだな! 作戦で僕を使ってくれたお礼に学食で―――」

「いらんいらん! 勇者は民衆にもダチにも無償、プライスレスだ! つーか、むしろお前が勝負決めたんだから、皆がお前に奢りじゃねーのか? 貸し一だろ?」

「おーい、デイモン。それなら俺の活躍も貸し一か?」

「おう、ポッノ! お前の探索能力はやっぱ最後の決め手だったな! ナイスアシストだぜ! 言う通り、貸し一だ!」

「でも、最後はおいしいところはデイモンが持ってったよねー。私も頑張ったんだけどな~、チラチラ」

「ぐわははは、そう言うなセイフレ! 俺が勇者になったかつきには……お前も無償で愛人にしてやるぜ~!」


 デイモンの周りには人が集まり、多くの笑いが絶えなかった。

 


「よーし、お前らはもう教室に帰っていいぞ! 俺は訓練場の後片付けをしていく! そう、無償の奉仕こそ勇者の責務よぉ! んで、好感度と内申点が上がってこれもきっと選別の儀で加算されるのだぁ!」


「むむ、それは聞き捨てならないな。みんな、僕たちも片づけるぞ! デイモンの内申点をこれ以上上げさせるな!」


「「「「「オオオオオオオッッ!!!!」」」」」


「あー、バカ野郎! 凡人の貴様らは弱っちーくせに、無償で何かをしようとするんじゃねえ! 無償は強者である俺様がやることで……あー、片付けんなー!」



 仲間の誰にも分け隔てなく接し、男子も女子も身分も壁も関係なく接していた。



「彼の言葉に遠慮はない。だからこそ裏表がない。打算も平然と口にする。それは言ってみれば、誰に対しても自分を曝け出しているとも言える。だからこそ、他の生徒たちも彼を神童だの未来の勇者などというものを気にせず、ありのままの態度で接することができるのだろう」


「学園長……」


「並外れた身体能力や魔力だけではない。人を惹きつける力。それこそまさに勇者にふさわしき傑物の証じゃ。やはり、彼こそ……この帝国において二十年ぶりに誕生する勇者となるであろう! いや、仮に勇者でなかったとしても、どのクラスになったとしても歴史に名を残す英雄となるはずじゃ!」



 数多くの生徒を見て来たからこそ、自信をもって学園長はデイモンを称賛する。デイモンは別格であると。



「確かに。それにセクンドもデイモンの陰には隠れているものの、彼も別格。座学においてはデイモンを超えていますし、その他の力もまた歴代最高クラス。ひょっとしたら、デイモンとセクンドの二人……全世界史上初、同年でダブル勇者の誕生になるかもしれません!」


「おお、そうじゃのう。あの二人を中心に、あの子たちが次代の帝国を率い、そしてひょっとしたら……彼らの代が……魔界の魔族たちとの長き戦乱の世を終わらせてくれるかもしれん!」



 そして、未来が明るいことに胸躍らせている。




 その未来が、やがて暗黒に変わることを知らずに。

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