第2話 平民~勇者
「ざけんなゴラァ!」
鍛え抜かれた騎士たち10人がかりで取り押さえられていたデイモンだが、騎士たちを背負ったままデイモンは立ち上がった。
「な、な、に?」
「ちょ、う、うそだろ? た、立った?」
「なんという足腰ッ!」
騎士たちは驚愕する。
この人数。更に武具も含めた自分たちの重量がどれほどのものか。
それら全てを背負ってデイモンは立ち上がった。
そして……
「ウガルアアアアアアッ!」
「「「「「ッッ!!??」」」」」
勢いよく身体を捩り、騎士たちは全員デイモンに振り払われて宙に舞う。
驚き、そして身動き取れない宙へ、天井ギリギリまで打ち上げられた騎士たちはそのまま落下し……
「騎士? こんな雑魚共でも戦士やら何やらのクラスホルダーなのに……俺は落選で平民? おかしーだろうがッ!」
それに合わせて、デイモンは右足をゆらりと上げて――――
「リフティングッ!!」
落下してくる騎士たちを落とすことなく素早い足さばきで全員再び蹴り上げた。
蹴り上げられた騎士たちは全員天井に全身を強打し、受け身も取れずに床に落下。
「がはっ、こ、このガキ……」
「なんという、ことを……し、しかし……」
「つ、強い……」
「こ、これが、『天賦の超人・
這い蹲る騎士たち全員を睨んで見下し、そしてデイモンは再び荒ぶる。
「分かったか! 帝国全土より選りすぐられた精鋭のクラスホルダーでもある帝国騎士ですらこのザマだぞ! こいつらだけじゃねえ! 学校でも、大会でも、誰一人として俺に勝てる奴はいなかった! 誰一人だ! そんな俺が平民だと? 笑わせるんじゃねえ! 前言覆さねえなら、聖女だろうと関係ねぇ! 蹴り殺すぞ!」
本気の怒り。本気の殺意。それら全てを剥き出しにして吼えるデイモン。
「私の意志ではありません。神の意志が告げているのです」
そんなデイモンに対して、聖女は変わらず乱れることなく淡々と言葉を紡いだ。
まるで興味のない愚かな人間を見下すような、感情を感じさせない冷たい目でデイモンにそう告げたのだった。
そしてさらに……
「大変だアアあ! 南の儀式の間で、『勇者』のクラスが誕生したぞぉ!」
「「「「ッッッ!!!???」」」」
部屋の外で、大歓声と驚愕の声が響き渡る。
「帝国騎士養成学校の『セクンド』が勇者になったぞ!」
「マジか! 勇者誕生! 帝国では20年ぶりの勇者誕生だ!」
「万歳! 勇者誕生万歳ッ!」
ショックを受けるデイモンとは別の場所で歓喜の声が外から聞こえてくる。
そして自分は落選し、別の者が勇者として選ばれたこと、そして何よりもその人物がデイモンの友人であったこと。
そのとき、デイモンは友人が勇者になったことを祝福するよりも、
「ま、待てよ! セクンドだと? な、なんで、なんであいつが勇者になって、俺は落選なんだ! 俺は模擬戦であいつに負けたことなんて一度もないぞ! 最近の模擬戦だって俺が勝った! なのに、あいつが勇者で俺は平民? どうなってんだよ、聖女ッ! やっぱりインチキだ! 何かの間違いだ、そうに決まっている!」
なぜ自分が落選し、自分より弱いものが勇者になっているのかということだけだった。
だが、そんなデイモンに、聖女は変わらずただ淡々と……
「これが現実です。聖なる選別に過ちなどありません。現実を受け入れることです。何よりも、これ以上の神聖なる選別の儀を穢すことは許しません」
と――――――
言っていたはずの聖女が数日後……
「申し訳ありません! 何とお詫びをしたらよいか! 謝罪程度で許していただけるわけがないのは重々承知しておりますが、ただ、本当に申し訳ありません!」
何が起ころうと淡々とし、人形のように目を丸くしているだけの無表情無感情に見えていた聖女が、ただの少女のように激しく動揺し、涙目で、デイモンに土下座していた。
「私も知らなかったのですが、どうやら選別の儀に使用する魔鏡は、あまりにもずば抜けた、計測不能な才の持ち主には魔鏡がエラーを起こして機能しないと……で、ですから、あなたの、い、いえ、あなた様の本来のクラスは、20年に一人と言われる勇者を遥かにしのぐ、1000年に一人の逸材……で、伝説の、歴史上でもただ一人と言われている、『天元勇者』のクラスホルダーであることが分かったのです!」
そして、それはデイモンが全てを失った後の出来事であった。
「どうか、この身にいかなる罰をもお与えください。もはや私は聖女でなく、ただの息する人形。一思いに殺すことも、無限の苦痛を与え尽くして壊すことも、この肉体をいくらでも弄ぶことも、あなた様のあらゆる全ての要望も命令も受け入れ、肉体も心も魂も全てをあなた様に捧げ尽くして償いたく……どうか……マイ・マスター……」
聖女の土下座を目の前に、呆然としていたデイモンは改めて数日前までのことを思い返す。
壊れた未来……
無くした居場所……
奪われた恋を……
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