第1話 落選
「バカな……バカな! もう一度ちゃんと調べろ! 俺が『勇者』に選ばれないわけがねぇ! いや、勇者どころか『クラスホルダー』ですらない……落選で、『平民』だと!?」
魔界より現れし魔族の侵攻から領土を守るための長き争いを続ける世において、人類の多くが戦場に身を投じ、力あるものが尊ばれるようになり、数多くの英雄が誕生した。
人類において、その力を得て英雄となるための道は一つではなかった。
腕力あるものは『戦士』へ。
魔法の才能あるものは『魔法使い』へ。
その二つの素養ある者は『魔法戦士』へ。
戦士も魔法使いも、数多くあるその道は『クラスホルダー』と呼ばれ、どのクラスに自分が属するかは、誰も最初は分からない。
そして、その数多くあるクラスにおいて、神に選ばれた才能を持つ者のみが属することが許されるクラスが一つだけある。
それが、人類の数あるクラスの全ての頂点と呼ばれる唯一無二の最高クラス。
それが、『勇者』と呼ばれるクラスであった。
一方でそれらのどのクラスにも所属する才能や資格なしの『落選』と判定される者たちもまた多数存在する。その者たちは『平民』と呼ばれた道を歩むことを余儀なくされる。
それらを選別する『選別の儀式』は全て、人類のどの国にも加担することなく、時には国同士の間に入って調停をしたり、立合人となったりする、『永世中立聖都』より派遣された『聖女たち』の立会いの下、一年に一度、一生に一度、15歳を越えた人間たちを対象に行われるの儀式よって決定する。
その選別において下された結果は絶対なものとして、世界全土に登録される。
「俺は帝国魔法騎士養成学校最強! 魔力も、武力も、いや頭はワリーかもしれねえけど、今年の帝都魔剣武闘大会も圧倒的な強さで優勝した! 現役の帝国のエリート騎士たちにだって勝ったんだぞ! その俺が何で勇者に選ばれねぇんだよ! それどころか、戦士も、魔法使いも、魔法剣士も、その他のクラス全て判定外の落選なんだよ! 素行も悪いことしてねーぞ! エロい事を排除した禁欲生活! 何よりも、休日は無償で清掃活動や手伝いとか好感度も積んで―――」
それはある意味で、自分の人生の行く末全てが決まることを意味する。それゆえ、その結果に歓喜するもの、絶望するもの、同時に不服の声を荒げるものたちが必ず存在した。
「あなたのこれまでの経歴を私は知りません。ゆえに、何の先入観もなく、ただ事実を私は述べているのです」
そして本日行われた選別の儀式。
場所は、大陸の盟主たる大帝国の帝都に存在する巨大な大聖堂。
東西南北に四つの儀式の間を設けて、聖都より派遣された四人の聖女によって未来を担う若者たちの選別を一人ずつ行っている。
その内一つの儀式の間で事件は起こった。
「この選別の儀において使用される『魔鏡』は、映し出された者の潜在能力をも見抜いたうえで、その人物のクラスを選別します。そしてあなたは、勇者どころか、その他のクラスにおいても資格なしの落選、『平民』という結果が全てです」
長く美しい白銀の髪。白き聖なる衣を纏い、そして老若男女問わずに目を奪われる穢れ無き美しさと、感情を感じさせない人形のように無表情な聖女が淡々と告げる。
聖女の選別を不服だと身を乗り出し、聖女に食って掛かるのは、今回の選別の儀式においてその将来を王族貴族を含めて帝国全土の者たちから嘱望されて神童と呼ばれた青年。
「おい、大変だぞ! 北の儀式の間で、あのデイモンが落選判定だってよ!」
「おいおい、デイモンが落選だと? 勇者どころか、クラスホルダーですらないだと?!」
「ばかな、ありえないだろ! だって、あのデイモンだぞ!」
「戦闘能力なら、養成学校どころか、我ら騎士団にだって負けない、あのデイモンだぞ! クラスホルダー確実と言われた、あのデイモンが落選? しかも平民?」
「し、しかし、聖女の選別で『魔境』が一切反応しなかったってことはやっぱり……」
そして、聖女の護衛を兼ねて選別の儀に立ち会っていた、帝国騎士たち全てが激しく動揺した。
それほどまでに、神童と呼ばれた青年、『デイモン・ゴクア』が勇者になれず、それどころかクラスホルダーですらないということは、国を巻き込むほどの大事件なのである。
「デタラメだ! 百歩譲って俺が勇者の資格なしだったとしても、クラスホルダーですらないってのはありえねーだろうが! 俺はクラスホルダーにも負けたことねーんだぞ? そうでなければ、聖女! テメエがなんか間違ってんだよぉ! それか鏡が壊れてんだよ! ちゃんとしろよ、ちゃんと見ろよ、このインチキ聖女が!」
そして誰よりも自信があり、自分より優れている者など存在しないとすら己惚れもあった青年デイモンは、我慢できずに聖女に掴みかかる。
輝く金色の髪。細身に見えて鍛えこまれ、同時に天性のバネのある肉体。そして内に秘めるのは比肩するものなきほどの大魔力。幼いころより『神童』と呼ばれ、その将来を誰もが『勇者候補最右翼』、『クラスホルダー確実』と評するほどの才能。
それが平民という、誰もが予想もしなかった判定。
デイモンが異議を申し立てるのは当然のことであり、聖女の聖なる純白の衣を乱暴に掴み、激しく罵倒する。それこそ今にも殴りそうな勢いだ。
「待て、デイモン! 聖女様に何をする!」
「聖都より派遣されし聖女様の身に何かがあったら、連合国すべてを敵に回すことになるんだぞ!」
しかし、それだけはいくらなんでもダメだと、儀式の場にいた帝都の騎士たちが10人がかり一斉になってデイモンを取り押さえる。
「うそだうそだうそだうそだぁ! 俺が落選なわけがねえ! 俺は勇者になる男だ! 俺は戦場に出て、大英雄となって歴史に名を刻む男になるはずだ! うそだうそだうそだ!」
床に押さえつけられても構わず声を荒げるデイモン。
しかし、そんなデイモンに対して聖女は……
「あなたにその器も才もありません。大人しく、ただの平民としての平凡な人生を歩むのです」
「ッ!?」
次の瞬間、デイモンの怒りは頂点に。
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