勇者落選野郎は大悪王へ

アニッキーブラッザー

第0話 悪魔と聖女

 燃え盛る戦場にて『金色の悪』が笑う。


「片足あげて、パンツを見せろ! 乳尻太もも晒して並べ! 正義の姫騎士! 魔王軍の女魔将軍! 優しくしてほしけりゃ、大人しく抱かせろ!」


 そこには、人間と魔族の壁などない。

 白い肌の美しい人間の姫騎士と、褐色の肌の逞しき魔王軍の女魔将軍が、両手を縛られた状態で、犬が用を足すように片足あげた状態で拘束という屈辱的なポーズをさせられている。



「「くっ、殺せ!」」


「種族違うのにド定番すぎるぞお前ら! 人類と魔王軍戦争してんのに、中身同じかコラ! パンツ丸見えのくせによ~」



 歯ぎしりし、屈辱に耐えきれずに「殺せ」と叫ぶ二人の女に、男は悪の歪んだ笑みを浮かべてる。



「お前はそれほどの力と才能を持ちながら、何故それを正しいことに使わないのだ!  その力があれば、正義の名のもとにどれだけの無辜の民を救えたことか!」


「おのれぇ、人間! この行いに何の大義がある! 何の誇りがある! 暴力と欲望のままに女を穢す外道め! 貴様には戦士としての、男としての矜持もないのか!」



 二人の女の種族は違う。

 それどころか、本来なら互いに争い、殺し合い、戦争中の種族同士である。

 だが、その二人が同じ悪に敗れ、囚われ、同じ殺意の籠った目で、同じ悪を睨みつけて罵詈雑言を飛ばす。


「ダブルティーバック」

「「ひゃあぁ!? き、貴様ぁあああ!!」」


 そんな女騎士と女魔将軍の叫びを悪は真面目に聞かない。

 中腰になり、目の前にあるプリンと揺れる白い尻と白い下着、ムッチリした褐色の尻と黒い下着、『ソレ』に触れて食い込ませて、あえてティーバックにしてふざける。

 

「おのれぇ、変態! 最低最悪のクズ! この、エッチ! 大悪王め!」

「許さん! 殺してやる! 殺してやるぞ貴様! この、スケベ! 悪魔め!」

 

 二人そろって顔を真っ赤にしながらさらに鋭い目で悪を睨む。

 常人であれば腰を抜かして気を失うほどのプレッシャーを放つ。

 だが、悪の笑みは消えない。



「ぐわはははは、正義ィ? 大義ィ? 誇りィ?  矜持ィ? 勇者になれなかった俺に、勇者っぽいことを求めてんじゃねえよぉ! 悪で上等、悪が悪いことして何が悪い! お尻ぺんぺーん!」 


「「や、めろぉおお、触るなぁあ、たたくなぁぁあ!」」



 それどころか開き直った。


「なあ、勇者が率いし正義の使徒様。そして誇り高き魔王軍の将軍様よぉ。お前ら人類と魔族の小競り合いの所為で、俺のナワバリが荒らされて迷惑被ってんだ……下僕共も傷を負ってる……テメエらも痛みを分かち合わねえとよぉ! それが代償だ! やめろ? 触るな? 迷惑系正義マンたちを無償で許すほど俺は寛大じゃねえ! お仕置きタイムだ! お尻ペーン!」


 二つの尻をぺしぺし叩いて、女たちは涙目で悶える。

 しかし、そんな叫びも悲鳴も男を止めることはない。


「さて……二人同時にいただきますだな!」

「ぐっ、や、やめろぉ、初めて、初めてなんだ!」

「やめろぉ、お、お嫁にいけなくなる!」


 いやらしい笑みから、二人の女の下着に両手を伸ばそうとする。

 だが、その時だった。


「マスター、お楽しみ前に失礼いたします」

「あん?」


 その場に一人の美しい女が現れた。

 感情の読み取れない無表情。流れる白銀の髪を靡かせて、悪の傍に立つ。


「ぐっ……あなたは……いや、貴様は『裏切りの聖女』! 」

「ばかな……聖女がこの男の傍に……」


 現れた女に、囚われの二人が激しく困惑した表情を浮かべる。

 だが、女は二人を無視し、悪に寄り添う。


「西から勇者直轄の部隊……東から魔王軍の一個大隊……近づいています……」

「ほぉ~」


 その報を聞いて悪は耳を澄ませる。確かに、離れた場所からこちらに近づいてくる地響きを感じる。


「おーおー、ほんとだ。しかし、何が直轄部隊だ。何が一個大隊だ。勇者と魔王のカス部下共がゾロゾロ現れて、この俺を……俺たちをどうにかできると思ってんのか?」

「準備はできております、マスター」


 たとえ相手が誰でも臆することも、屈することもない。


「ふざけるな! 金色の悪! 裏切りの聖女! 我らの正義、そして勇者様を甘く見るな!」

「己惚れおって……魔王様の恐ろしさを知らんとは……後悔するがよい!」


 仲間たちが来てくれた。

 自分たちの信じた剣が、主が、悪を成敗するために現れる。

 そのことが二人の女の心を震わせた。

 だが、



「構わねえ! 来るなら来やがれ! 勇者だろうと魔王だろうと、人類も魔族も世界丸ごと相手をしてやるよ!」


「どこまでもお供します、マスター」



 それ以上に、悪は滾っていた。


「ん~、とは言うものの……」

「マスター?」

「連中が到着するまでもうちょい時間かかりそうだな」

「…………」


 滾ったからこそ、余計に興奮している。

 そんな悪の目の前には美しい女体が尻と胸を出して並んでいて……


「……先にお仕置きしちゃおう」

「承知しました」

「「ちょまっ、まっ、ま――――――ッッ!!!??」」


 悪は欲望のまま手を出した。

 

――♥♥♥♥♥♥


 








「しっかし、勇者と魔王に挟まれるか。こんなの歴史上俺だけか? もっとも、お前からすれば俺は殺された方がいいんじゃねえのか? 聖女様?」


「御冗談を……私は現世も来世も永劫あなた様の所有物です……それが『あの日』あなた様から全てを奪った私の贖罪です」



 事を終えて一息つく悪と聖女。

 足元にはだらしない顔で痙攣する雌肉が二つ転がっている異常な状況下。そんな場所で二人はこれが当たり前のように気にせず、寄り添い身を寄せ合う。


「死んでも満足か?」

「マスターのためならば。私の罪は……それほどまでに重いのです」


 聖女のその言葉を聞き、悪は遠くを見つめ……


「ぐわはははは……あの日以降……ヤリたいようにヤッて生きてたら……えらいとこまで来ちまったな……」

「はい」


 これまでを思い返す。

 








――あとがき――

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