戦国時代の自動操縦

戦国時代。戦のために近くの村の働き手の男たちが兵として徴用され、残された村には女性と子供、老人しかいなくなってしまうということがよくありました。


その村も近くで大きな戦があり、男たちは兵として徴用されてしまいました。戦は激しく、徴用された者のほとんどが帰ってきませんでした。


村には田畑はあっても耕せる者がおらず、このままでは年貢を納めるどころか残った村人が冬を超える分の食料すら確保することができません。


もう別の村に引っ越すしかないかと諦めかけていたある日、高齢の陰陽師が数人の弟子とともに村を訪れました。


彼らは戦の終わった合戦場から都に帰るところでした。事情を聞いた老陰陽師は村に同情しました。彼は多くの農民兵が無理やり合戦場に連れてこられ、敵に討ち取られる姿をその目で見ていたのです。


「事情は分かりました。なんとかしてみましょう。」


そう言うと、村人たちに「夜には戻る」と言って村を出ていきました。


夜が更けて、村人たちがもう帰ってこないのではないかと疑い始めた頃…


ザッザッザッ…


何やらたくさんの足音のようなものが聞こえてきました。まるで軍隊が規則正しく行進しているかのような、そんな音です。


「ひっ」


やがてその足音の正体が村の入口に姿を表すと、村人たちは恐怖で悲鳴を上げました。


そこには軍隊が、それも体に槍が刺さったままであったり、首が半分ちぎれたようなボロボロの姿の兵数十体で構成された、死者の軍隊が行進していたのです。


その先頭に老陰陽師の姿が見えなければ間違いなく逃げ出していたでしょう。


「お、陰陽師様…これはいったい?!」


「合戦場で無念の死を遂げた死者たちに仮初の魂を入れて連れてきました。彼らは死してなおこの村の役に立ちたいという念を持った者たちです。」


「あ、あんた!」


村の女性が死者の一体に駆け寄ります。それは戦場に行ったまま帰ってこなかった彼女の夫でした。他の村人も見知った顔を見つけ、駆け寄りました。死者たちは意志を表示したり話したりすることはできませんでしたが、動いている姿をもう一度見ることができたことに村人たちは涙を流して喜びました。


次の日から死者たちは畑を耕したり、家畜の世話をしたり、ぎごちない動きながらも生前と同じように働き始めました。


感動の再会から一晩が明けて落ち着いた村人たちは、自分の家族や友人を死してなお働かせることに罪悪感を覚え、微妙な表情になっていましたが、自分たちが生きていくための方法は他に方法も思いつきません。仕方ないと割り切って自分たちも一緒に働きました。


そうして村は以前と同じ、いや休息も必要とせず四六時中働く死者たちのおかげでそれ以上の食料を収穫し、冬を越すことができました。


やがて春が訪れ、無事に冬を越すことができた村人たちの表情も明るくなってきた中、老陰陽師の体は少しずつ弱り、寝込むことが多くなりました。


多くの死者を使役し続けることは老体にとって大きな負担になっていたのです。


数日後、弟子たちに「あとはお前たちの力で村を支えてやってくれ」と言い残し、陰陽師は息を引き取りました。それと同時に陰陽師が動かしていた死者たちは力を失い、その場で崩れて動かなくなりました。


弟子たちは師匠の遺志を引き継ぎ、すぐに死者たちを動かそうとしました。しかしいくら頑張っても動かせるのは1体が限界でした。誰も師匠のような強い力を持っていなかったのです。


「師匠…申し訳ありません!!」


弟子たちは長い時間話し合い、ある苦渋の決断を下しました。


ついさっき安らかな眠りについた老陰陽師の体を囲み、印を結び祈りを捧げます。すると老陰陽師の体が一瞬光り輝き、その光が収まったかと思うと目をひらいてムクリと起き上がりました。


起き上がった老陰陽師の死体はぎごちなく印を結び、祈りました。すると今度は先程崩れ落ちた死者たちが元の姿に戻って何事もなかったかのように動き出しました。


弟子たちは死者となってもなお大きな力を秘めた老陰陽師の死体を操作し、その死体に死者の軍団を操縦させることにしたのです。心なしか師匠の顔が大変不本意な表情をしているように見えますが、背に腹は変えられません。このような方法でなければ村を救えないのですから。


この自動操縦システムはとてもうまく働きました。弟子たちは交代しながら師匠の体を操り、師匠の体は死者たちを操り、村のために働きます。村は少しずつ豊かになっていきました。


成仏する間もなく魂を死した体に縛り付けられ、弟子に操作されながら老陰陽師は思います。


「わしの発案とはいえ、いつまでこき使われることになるのかのう…。」


その魂の嘆きは誰にも拾われることなく、村の子どもたちが大人になるまでずっとこき使われることになるのでした。

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