3分で溶けるクスリ 【ショートショート集】
ピロスケ
新しい家族
都内に住む香田家の一家三名が自宅で意識を失って倒れているのが見つかり、病院に運ばれた。
幸い三名ともすぐに意識を取り戻したものの、倒れた時の記憶が曖昧で何が起こったのかがさっぱり見えてこない。
夫の大介はリビングのソファからずり落ちた状態で見つかった。
外傷はなし。
直前の記憶によるとチワワのメルを膝に乗せてテレビを見ていたとのこと。
妻の聡美はキッチンとリビングの間で仰向けに倒れていた。
後頭部に倒れた時のものと思われる打撲傷あり。
キッチンでメルのおやつをしていたらリビングの方から大きな音が聞こえて、様子を見に行こうとしたところで記憶が途切れている。
息子の悠はリビングに上半身が入った状態でうつ伏せで倒れていた。
全身に軽い打撲傷あり。リビング横の階段から転げ落ちたと思われる。
メルと遊ぼうと一階に下りようとしていたことまでは覚えている。
「みなさんメルちゃんを随分かわいがっておられたようですね」
チワワのメルは一週間ほど前に迎えたところで、三名ともその愛らしさにメロメロになってかまい倒していたらしい。
新しい環境にまだ緊張しているのかちょっと元気がなかったので早く帰ってやりたいんです、とソワソワした様子で話していた。
聴取をしていると診察した医師から帰宅許可の連絡が来た。
倒れた原因は分からないものの、体調に問題はなさそうなので帰宅してもらっても良いとのこと。
砂羽馬は三名を自宅まで送り、一度当時の状況を再現してもらうことにした。
大介はソファに座り、聡美はキッチンに立ち、悠は二階に上がる。
チワワのメルは大介から少し離れたところで丸くなってぷるぷる震えている。
三名にはしばらく当時と同じように過ごしてもらうように伝え、砂羽馬は再現の邪魔にならないようにリビングの端に立って観察を始めた。
最初は緊張していた三名も少しずつリラックスし、自然な振る舞いになってくる。
キッチンの聡美は鼻歌を歌いながらメルのおやつを作っている。
大介はメルを抱き上げて膝に乗せて撫で始めた。
「メルもそろそろうちに慣れてきたかな?
ご飯もあまり食べないし、トイレにも全然行かないから心配してたんだ。
あの時もこうやってお腹を撫でていて…んん?」
大介が何かを思い出したかのように怪訝な表情になり、鼻をひくつかせた。
その時。
お腹を刺激されたメルが一瞬動きを止めた後、少しお尻を持ち上げてブルリと震えた。
プッスススー
香田家は初めての飼い犬に何を与えるのが良いかが分からず、様々なものをエサとして与えていた。
そして新しい家族との生活に緊張しっぱなしで長期の便秘になっていたメル。
その熟成された毒ガスが尻から噴射され、メルを中心に広がる!
そのガスはまず至近距離にいた大介に直撃した。
大介が「ガァッ」と声を上げてのけぞり、白目をむいてソファからずり落ちる。
その数秒後、ガスはリビングから出て階段の上にいた悠に届いた。
「ギィッ」という声とともに階段をズドドドと落ちる音がして、リビングに転がり込んできた。
その音を聞いて何事かとキッチンから慌てて出てきた聡美がガスの影響範囲に入り、「グゥッ」と白目をむいて後ろ向きに倒れ、頭をしたたかに床に打ち付けた。
そうして出来上がった状況はまさに今日の朝警察が発見したのと同じ状況であった。
「そうか、これが真相か!」
リビングの端でポンと手を打ってひとしきり納得した後、砂羽馬も「ゲェッ」と泡を吹いてひっくり返った。
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