『浄化』しかできない無能だと馬鹿にされていた俺が会社をクビなったらヤンデレな不死王がダンジョンごと引っ越してきた ~「ダンジョンも私も貴方のものです♡」と言われても困ります~

addict

第1話

「もう、お前いらんわ。クビだクビ」


「え?」


俺こと、並木隆司なみきたかしは突然、幼馴染であり、会社の同僚である山田勉やまだつとむにそう言われた。ダンジョンにチームで潜っていて仕事が終わった時の出来事だった。メンバーの視線が俺と勉に集中した。


「え、っとなんで?」


「なんでってわかるだろ?お前が『浄化』しか使えない無能だからだよ」


人間は15になると、スキルと言われる力を授かる。スキルは完全にランダムで運次第では強力なスキルを貰える。


ダンジョンが蔓延る日本ではダンジョン攻略をして新たな資源の獲得をすることが国を挙げて奨励されている。そして、ダンジョンには人間を襲うモンスターがたくさんいるので、攻撃系のスキルが重宝されている。


そして、俺のスキル、『浄化』はモンスターの死骸が悪霊にならないようにしたり、悪いものを祓うだけの無能スキルだ。縁起物程度のスキルでなんの役にも立たないと馬鹿にされているのは同僚からは感じていた。けれど、


「分かってるよ…だからこそ誰よりも早く出社して装備のメンテナンスやクリーニングをして、みんなが嫌がる剥ぎ取りやモンスターの死骸の駆除を俺一人でやってきた。それでも足りないなら他にも雑用を押し付けてくれ」


頼むと頭を下げる。十五歳でスキルを授かり会社に入社して以来人生の半分をダンジョンで過ごしてきた。この不景気に加えて、ダンジョンで清掃員くらいしかやってこなかった俺に転職できる場所などあろうはずがない。けれど、


「お前みたいな給料泥棒をこれ以上居させても金の無駄だ。もっと優秀な人材を雇った方が仕事も捗る」


「そんな…」


周りを見回しても、眼を逸らされる。これは俺がいない間に口裏を合わせていたということが伝わってきた。それでも簡単にあきらめるわけにはいかない。


「頼む!本当になんでもするから、クビだけはやめてくれ!」


「しつけぇ!」


「ぐっ」


引き下がるが、勉は興味がないのか俺を吹き飛ばした。『身体能力UP』を手に入れた勉は会社でもトップの成績を誇る。能力の詳細は一般の成人男性の10倍の力を使えるようになるというものだ。


みやびにさ、子供ができたんだよ」


「え?」


雅というのは俺と勉の幼馴染で勉の婚約者だ。俺の初恋だったが、二人が付き合っていると知って枕を濡らした。そんな二人は結婚して、雅は寿退社をした。


「雅と子供を養っていくために、俺はもっと頑張らなければならない。それなのに、お前みたいな足手纏いを置いておきたくないんだわ」


「っ、でも!」


「ああ~昔からしつけぇな。俺も雅もお前のそんなところが大嫌いだったんだよ。さっさと消えてくれ。もう俺たちに関わるな」


大嫌いだったという言葉が俺の心に刺さった。中学までは三人でよく遊び、お互いに助けあっていた俺たちだったが、スキルを得たことで俺たちの関係は大きく変わった。俺が『浄化』で、勉が『身体強化』、そして、雅が『回復』と俺以外の二人はダンジョン探索に適したものだった。


うちの会社に入社した当初は『浄化』の俺を慰めてくれていた二人も、周りにちやほやされるようになると、俺を見下すようになった。それでも昔の二人を知っている俺は信じたかったが、もう元に戻ることはないらしい。


「分かった…」


「OK。俺も鬼じゃない。最後の雑用はやらしてやるよ」


勉の言葉に表だって笑わないものの、メンバーは冷やかすような瞳で俺を見下し、ダンジョンから出て行った。俺は一人、ポツンと残ることになった。


「そろそろ『不死王』を討伐しにいきたいな」


「山田さんならいけますよ!」


勉を中心に同僚たちがわいわいと談笑している姿がなぜか目に焼き付いてしまった。


━━━


「はぁ…」


同僚が倒したモンスターの死骸を掃除する。血生臭さが鼻をつく。しかし、モンスターの死骸を綺麗にして『浄化』しないと、モンスターから新たなモンスターや悪霊が生まれてしまう。特に悪霊はだるい。


ダンジョン内に伝染病を流行らせるわ、五感で感知できないから、魔法を使える人間を派遣しなければならない。一応、『浄化』で倒すことはできるけど、周りからは何も見えないから頭の狂った人間とみられてしまう。


そんな感じで、『浄化』は悪霊や悪霊が発生させる伝染病や呪いを流行らせないために大切だ。


『浄化』の俺の仕事は皆が毎日ダンジョンに潜れるように日常を守ることだ。ただ、いつも通りを守るだけの人間の成果は分かりづらい。


後は俺のことを馬鹿にする幼馴染連中のせいで俺のことを無能だと思う人が増えていったんだと思う。いじりだと思って、我慢していたけど、正面から嫌いだと言われてしまってはもう少し言い返せばよかったと思う。


「まぁもうどうでもいいか。よし終わり!」


「グルルルル…」


「え?」


仕事が終わって一休みといこうとしたら、後ろから犬の鳴き声が聞こえた。振り返るとそこにいたのはフェンリルだった。体長は三メートルほどで黄金の毛並みに鋭い牙で死を運ぶ存在として探索者から恐れられており、深層に行くための階段の門番を務めている。


時折、浅層に降りてきて、遭遇した社員の中には殉職したものもいる。そんな伝説上のモンスターと対面しては運がなかったと諦めるべきだろう。



普通なら・・・・



「ワンワン!」


「うわ!」


俺の身体を遥かに超える犬が俺に跨って、顔を舐めてきた。甘えん坊なのはいいが、俺の顔がよだれまみれになってしまう。


「こらファティ・・・・、やめろって!」


「ワフぅ」


へっへと息をしながら俺を見下ろすファティ。ファティとは入社して以来の友達で子犬の時から知っている。もちろん会社には伝えていない。


(ダンジョンの中ボスと友達なんて言ったって笑われるだけだけど)


いつの間にか身長は抜かれてしまったが、それでも俺のことは友達だと思ってくれているのか可愛く甘えてくる。


「おお~よしよし」


「くう~ん」


(可愛い…家に連れ帰りてぇ…)


もちろんそんなことしたらダンジョン法に引っかかる。ダンジョン内にいるモンスターを地上に持ち帰ることは許可がない限り禁じられている。


「それより、ファティ。ご主人様はどうした?今日は一人か?」


「私はここにいますよ?」


「うお!?」


「ふふ、こんばんは、隆司さま」


「後ろに立たないでくれ。心臓に悪いよ、メイベル・・・・


「ごめんなさい。ファティに気を取られているようだったので、つい」


悪戯が成功して嬉しいのか美女が微笑んでいた。ロングの銀髪を三つ編みで編み込んでいて、人懐っこそうな表情は男が見たら誰でも惚れてしまいそうなほどの美しさがあった。


黒を基調とした修道服を着ていて、首からは十字架のネックレスをかけているのだが、体型が強調される服装なので、視線がどうしてもそこにいってしまう。


十代で失恋した俺にとっては、刺激の強すぎるお姉さんだった。三十になるまで毎日のように会い続けているが未だに全く慣れない。


「ワンワン!」


「ファティったら」


ファティはメイベルの腕に甘えていた。


(俺もいい子いい子してもらいたい…)


「ふふ、そんなにこれが欲しいんですね。ちょっと待ってください。よいしょっと」


バキっ!ブシャッ!


「え?」


メイベルが自分の右腕を切り落とした。切断面からは血がだらだらと出ていて、メイベルどころか俺の顔にまで血が付いていた。


「そ~れ!」


「ワン!」


メイベルは自分の腕を投げ飛ばした。さながら犬とよくやる『とってこい』だと思うんだが、絵柄がグロすぎた。


「ふふ、よくできました」


「わふぅ」


自分の血まみれの腕を咥えているファティを左腕で撫でている。飼い犬と飼い主の微笑ましいはずの絵がとんでもないことになってる。


俺は若干頬をピクつかせながら、その様子を観ていた。


「毎回思うんだけど、メイベルは痛くないの?」


「はい。馴れてしまえば、気持ちいいものですよ?」


隆司さまもやってみますかという視線を送ってきているが丁重にお断りさせていただく。


「そうですか…それなら「ワン!」」


「ひっ!?」


ブシャっとメイベルの首から上をファティが食べてしまった。思わず悲鳴をあげてしまったが、


「こらこら、首は食べちゃダメって言いましたよね?」


すぐにメイベルの首が生えてきた。それと同時にメイベルの右腕が生えていた。


「…流石『不死王』。何度見ても心臓に悪いよ…」


そして、ダンジョンの主だ。いつから生きているか分からないが、不老不死の存在で圧倒的な力を持つことから『不死王』と俺たちは呼んでいた。メイベルは元々、北欧で『聖女』をやっていたが、いつからか死なない自分を追ってきた人間たちに嫌気が差してこんな東の孤島でダンジョンを作ったとか。


ファティはそんなメイベルが作ったダンジョンの中ボスなので使い魔的な存在だ。


ファティとメイベルに出会ったのは本当に偶然だ。俺がいつも通りサービス残業浄化していたときに興味深そうに俺を見ていた。


モンスターの死骸がたまり悪霊が増えることはダンジョンの主のメイベルにとって病気と同じようなものらしい。社員がテキトーに放り散らかしたモンスターが悪霊となることが多かったので、困っていたそうだ。


それがある日、悪霊がとんとでなくなった。言わずもがな、俺が入社したせいだ。メイベル達は『浄化』してくれる人間がいることが気になってずっと監視していたらしい。そして、俺に害がないと分かるとファティもメイベルも残業中に会いに来てくれるようになったというわけだ。


(残念ながら、そんな日々も終わりだけど…)


「ごめん、会社クビになった」


「え?」


「明日から『不死王ダンジョン』に潜れない。メイベルもファティも元気にやってくれ」


「え?」


「それじゃあ「ちょっと待ってください!」」


メイベルが必死の形相で俺を止めた。なるべく簡素にスマートに終わらせたかったが、メイベルは俺の腕を強く掴んできた。ファティは『?』っという感じで俺を眺めている。


「突然のことで頭が追い付かないんです。一体何があったのですか?」


「俺のスキルが使えないから、クビだってさっき言われたんだ。ダンジョンで魔物を倒せない人間には会社で居場所がないんだ。むしろ、十五年もよく居させてくれたよ」


自虐的に言うと、メイベルは信じられないという表情で俺を見ていた。


「まぁそんなわけなんで、俺は明日から無職だ。長い間お世話になりました」


思えば、人生の半分をこの一人と一匹と過ごしてきたんだ。そう思うと色々、感慨がこみあげてくるが、涙は流さない。ファティが空気を読まずに俺の顔を舐めてくるがこれも最後だと思うとよけいに悲しくなった。


「…分かりました。でしたら、これを持って行ってください」


「サファイアの水晶…?随分綺麗だね」


それよりも胸の間から何かを取り出す仕草はやめてほしい。エロ過ぎるんよ。


「これを私だと思って、肌身離さず・・・・・持っていてください・・・・・・・・・


「わ、分かった」


念を押されて無理やり押し付けられてしまった。メイベルの気迫がいつもよりも違いすぎて後ずさりしてしまう。


「隆司さま、急用ができてしまったので、私たちはダンジョンの最奥に戻ります」


「そ、そうか。それじゃさようなら」


「ええ、また・・会いましょう。ファティ行きますよ?」


「ワン!」


ファティの背にメイベルが乗ると、ダンジョンの中へと潜っていってしまった。


「…俺も行くか」


最後に再び挨拶して俺はこのダンジョンを後にした。


━━━


ダンジョンの最奥にて、魔法陣が展開され、その中心にメイベルがいた。


「ふふ、私のを蔑ろにしたカス共には罰を与えましょう」


「ワン!」


ファティがメイベルから少し離れたところでその様子を観ていた。


元々人のダンジョンを荒らすだけ荒らす人間たちにはうんざりしていた。これも良い機会だし、渡したいものも渡せた。


「ああ、ついに悲願がかないます。待っていてくださいね。隆司さま?」


『聖女』と呼ばれた『不死王』の表情はまさに病んでる人間のそれだった。


━━━

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