牧草地の来襲者

あれから数ヶ月がたった。


私は相変わらず、食っちゃ寝プラス、遊びを繰り返していた。

子供の成長は早いもので、たどたどしかった足取りも、今では難なく母と並べるようになった。


そして、身体のところどころに母と同じ、ウロコが現れた。


ミアが「ブチメープルちゃんね。」と言って以来、私のあだ名はブチになってしまった。




「ブチちゃん、あんまり森に近づいちゃダメよ。」

ミアが放牧地に出ていく私に話しかけた。

ここ一週間毎日言っている。


それに最近、ボスの様子も変わった。


あの秘密基地にはほぼ毎日通い、お昼寝場所に重宝していた。しかし、ある時からボスは私の通学を阻止するようになった。基地に行こうとすると、すごい剣幕で私を睨みつけ、前に立ちはだかるのだ。軽くぶっ飛ばされる事もあった。


ミアといい、ボスといい、一体何があるのだろう。

言いつけは守るタイプなので、大人しくしておこう。



ー・ー・ー


母と並んでシロツメクサを食べていた時。


(あれ?どうしたんだろう。)


一頭の子牛が群れを離れていくのが見えた。

あの私を見つめていた子だ。タレ目が特徴的で、私はタレちゃんと呼んでいる。


タレちゃんも私と同じく、たった数ヶ月で母牛と体高が変わらなくなった。身体が細く弱々しいのが心配されていた。



横目で追っていたが、気づかれてしまった。

タレちゃんは、ビクッと一歩後ずさったと思うと、走り出した。


(待って!)「ヒィーン!」


いなないたって無駄だ。

肉が少なく、骨ばった四肢で逃げていく。

嫌われるようなことをしたか?

もともと臆病な性格もあるだろう。


って、タレちゃんが向かった先って…。


〈〈私の秘密基地!〉〉


秘密が秘密でなくなってしまうのは嫌だが、それは問題じゃない。

基地があるのは…森のそばなのだ。


ボスに見つかればただでは済まされない。

いや、それにどんな危険があるかもわからない。


何にせよ今森に近づくのは危ない。止めないと。


私は後を追い、走り出した。


走りながら牧草地を見渡したがボスの姿が見えない。

いつもいる丘にもいなかった。


更に加速するとタレちゃんの背中が見えてきた。

かなり走って疲れたのか脚が遅くなっている。

追いつける。


と思った矢先、タレちゃんが脚をとめた。

 

耳を左右に動かしている。警戒している証拠だ。

やがて耳は前方の森に標準を合わせた。


何かいる。


私はその隙にタレちゃんとの距離を詰める。

タレちゃんが近づく私に気づいて振り向いた。その時。


〈〈アウゥゥー〉〉

〈アワォー〉〈ワォー〉


森の奥から遠吠えが聞こえたと思うと、低本が揺れ、魔物が姿を現した。


間一髪、タレちゃんは敵の爪を交わし私の後ろに逃げ込んだ。


魔物はオオカミらしきフォルムをしていて、全身が銀の鎧で覆われている。身体は私達より一回り小さいが溢れ出る魔力らしきオーラから、圧倒的な強さを感じる。ボスに匹敵するレベルだ。

到底私達には敵わない。


しかも、タレちゃんが注意を逸らした瞬間に襲い掛かろうとした。背後の茂みにも同様の気配を感じる。

挟み撃ちにしようとしたのだ。というか、今されている。


彼らには知性がある。

私達を確実に仕留める気だ。


ボスが警戒していたのはコイツらか。

襲われないように守ってくれついたのだ。

なのに。

私がもう少しはやくタレちゃんに追いついていれば。


いいや。

それよりも今いち早く逃げなければ、二頭とも狩られる。

どうするか。


オオカミはわかる範囲で前後の二匹。

前の一頭が徐々に距離を詰めている。

後ろは草むらに潜伏しているがいつ飛び出してくるかわからない。


タレちゃんは脚がすくんで動けない。

私がどうにかするしか。でもどうすれば…。



(あっ、あれは。)

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