爆走する仔馬
「爆走というスキルは…」
医者は苦い顔をした。
パパは混乱しつつ、真っ直ぐ医者を見つめている。
「このスキルは…例が少なく、一概には言えませんが…、魔力消費量が多く、直線でしか発揮されません。その名のように“爆走”するので、調節が難しいと言われています。しかも、身体への負担が他のスキルと比べ、かなり大きいです。その分、故障がしやすいと思われます。」
「つまり、競走馬には向かないと…。」
ため息が溢れる。
「いいえ、希望はあります。身体が丈夫であれば問題ありません。マリアナの血を受け継いでいますから、他のウマよりは強靭な身体にはなるはずです。もとより、このスキルは使い方次第では十分他の競走馬に引けをとりません。」
ドクターはそう言ったが、私もパパもこれからの道が決して簡単ではない事を理解した。
コスパの悪い、レアスキルをどう走りに利用するか。これがまず最初の大きな課題になりそうだ。
「ところで、もうメープルは魔力を身体に流ましたか。」
何だそれは?
「あっ。」
えっ?
「忘れてた。」
ちょっとパパぁ〜?
「気づいて良かったです。」
「ありがとうございます、先生。
スキルどころか、魔力も使えなくなるところでした。あははっ。」
あははっっじゃないんですよパパぁ!
私の馬生が掛かってるのに!
「ではここでやっていきますか?」
「ああ、やっちゃってください。」
軽いな。本当に大丈夫なのか。
医者は立ち上がって、棚から筒のようなものを持ってきた。
(チクッ。)
ハンコ注射みたいに先っぽに針が5本ついていた。それは躊躇なく私の胸に刺された。
「ヒィエエッー!」
ウマに生まれてから今までで一番大きな声をだあげた。
(グサッ。)のレベルだ。
痛い、痛すぎる。
例えるなら、足がつった時のあの激痛といったところだろうか。
なのに、なかなか抜こうともしない。
いつまで続くんだこれ。
(ホワッ)
すると、突然刺された胸の辺りから白い光がこぼれはじめた。
何だろうこの光は……どこかで見たような。
(ググッ)
医者は力を加え、針がさらに深く刺さる。
「ヒェエエッ……!?」
死を覚悟した。けれど、何かがおかしい。
痛くない……?
確かに刺さっている。
しかしさっきの激痛が嘘のように、ピリッともしない。
困惑しているうちに、白い光は枝分かれしながら、全身を覆い始めた。
「おお、すごい魔力量だ。」
「人間に匹敵しそうなくらいです。」
二人は興味深いように見つめてくる。
この光が魔力なのか。
光は尻尾の先に到達すると、徐々に消えていった。
「はい。終わりですね。
次回は一カ月後なので、はい。」
「はい、ありがとうございました。」
針を抜いた瞬間は程々に痛かった。
ミア、機嫌直してくれてるかな。
手綱を引かれ、またトボトボ歩きはじめた。
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