第75話 トーナメント開始
昼休みが終わり、午後からは予選を勝ち上がった八クラスで行われるトーナメントだ。
蓮達のクラスは男女フットサル、テニスがトーナメント進出を決めている。
全種目の半分で予選を勝ち上がったと考えるとこの時点で中々の好成績だ。
そして午後一番で、女子フットサルの試合がある。蓮達が昼休み終わりにすぐ屋上を去ったのはそのためだ。
グラウンドのコート近くに着くと、予選のときよりも集まっている生徒が多く、男子生徒も多くいた。予選で負けて試合がなくなる生徒が多数出てくるので当然のことではある。
蓮と柊平を見つけてメンバー五人で集まっていたところから杏里が駆け寄ってきた。後ろから美桜もついてきている。
「もう!二人ともずっとどこに行ってたの?」
「?屋上だけど……」
蓮がなんでそんなことを聞くんだ?と不思議に思いながらも素直に答える。杏里のこの剣幕は何?、という疑問をのせて美桜に視線をやるが、美桜は困ったように小さく苦笑を浮かべるだけだった。
「屋上なんかにずっといたの!?」
「どうしたんだ?いきなり」
柊平が尋ねた。
「だって昼休みにみんなで写真撮ろうと思ってたのに二人ともどっか行っちゃったまま全然教室に戻ってこないんだもん」
どうやらそういうことらしい。
杏里達は昼休みになると教室に戻ってメンバー五人でお昼ご飯を食べた。
それから皆で写真を撮っていたのだが、杏里としては蓮達とも撮りたかったのだ。早めに昼休みに入ったのだし、待っていればそのうち教室に戻ってくると思っていたら、結局終わりまで戻ってこなかったため、蓮達と写真を撮ることは叶わなかった。つまりは今こうして二人に言っているのは八つ当たりに近いものだ。
「なんだ、そんなことか……」
杏里の言葉を聞いた柊平は呆れたようなため息を吐く。
「そんな言い方しなくてもいいでしょ?スマホにメッセージ送っても既読すらつかないし」
「ああ、悪い悪い。スマホは教室に置きっぱだったわ」
「悪かったな、杏里。それじゃあ終わった後にでも撮ろう。な?」
「約束だからね!」
蓮がとりなすように言うと杏里の機嫌はすぐに戻った。
「二人とも調子は良さそうだな」
気を取り直して蓮が杏里と美桜に言う。
「もちろん!絶好調だよ!」
「私も気合は十分だよ」
「そっか。午前中よりギャラリーが多いけど、気にせず頑張って」
「だな。まあ最後まで応援してるから頑張れよ」
蓮と柊平から激励されて杏里と美桜はメンバーのもとに戻っていった。
そして試合が始まった。
皆開始早々から勝ちに向かって一生懸命プレーしている。そんな姿を見れば必然、応援しているクラスメイト達にも熱が入る。
そんな中、蓮達の耳に男子達のウザい会話が聞こえてきた。
「なあ、華賀ってさ。わかっちゃいたけどなんか凄すぎじゃね?」
「お前も思った?成長期ってやつか?あんな地味子なのにちょっとあれは反則だよな」
「何、お前ら。華賀なんかがいいの?」
「いや、いいとかじゃなくてだな。あの揺れはやばいだろ」
「そうそう。それに顔も別に悪い訳じゃないし、見てる分にはなかなか」
「お前言い方がおやじくさいぞ?俺はあの五人なら高頭が一番だと思うけどな。ちょっとバカっぽくて軽そうじゃね?」
「お前こそ性欲丸出しじゃねえか。けどまあ言いたいことはわかる」
「だろ?」
チラリとそちらを見てみると、四月当初、蓮に美桜のあれこれを聞いてもいないことまで教えてくれたクラスメイトの男子達だった。
コート内では杏里も美桜も頑張っていい試合をしているというのに、応援でもなんでもない男子達の会話に蓮と柊平、二人のイライラが募る。
今すぐにでもふざけた話をしているその口を塞いでやりたい。
特に蓮は自分でも不思議なほど腹が立っていた。所詮は勝手に言ってるだけの話だ。彼女達をどうこうしようというものではない。そもそも仮にそういう話だとしても自分が怒る理由はない。ないはずなのだ。友達だから?だから怒りが湧くのだろうか?なんだか友達という理由だけでは違和感がある。それならいったい?自分の抱いた感情に蓮は戸惑う。
どうして彼女が性的な目で見られていることがこんなにも不快なのか。これではまるで……。そうして蓮は以前自分自身で否定した答えに再びたどり着いてしまう。
すぐ近くにいる蓮と柊平がそんなことを思っているなんて想像だにしていない男子達は試合なんてそっちのけでくだらない話を続ける。
とうとう我慢の限界だとばかりに蓮の体に力が入る。そして件の男子達にやめろと言おうとした、ところで柊平が蓮の肩を掴んだ。
「っ、柊平?」
「やめとけ、蓮」
柊平は真剣な表情で、その手にも力が入っている。
「どうして」
「言ったってしょうがないだろ。あいつらも内輪のノリで喋ってるだけだろうしな」
「……お前は腹が立たないのか?」
柊平の言い様に蓮の声が低くなる。
「変なこと聞くやつだな。…立ってるに決まってんだろ」
「なら―――」
「でもこんなことで揉めて本人達の耳に入ることになる方が俺は嫌だ。絶対傷つくからな」
「っ!?……はぁ。確かにそうだな。柊平の言う通りだ」
柊平の言うことはもっともだ。蓮が体から力を抜くと柊平も肩を放した。
「……それに、今の俺達にはあいつらを責める権利なんてないだろ……」
小さな声だったが、蓮の耳には確かに届いた。
「柊平?」
「いや、何でもない。ほら、杏里も華賀も頑張ってるんだし、応援してやろうぜ?」
それから気持ちを切り替えて蓮と柊平も声を上げて応援した。
試合は熱戦だった。互いに一生懸命で、すごく健闘していたと思う。
だが、結果は二対三で杏里達が負けた。
試合が終わった後、杏里達五人は清々しい笑顔だった。皆で互いの健闘を称え合っている。応援していた生徒達も拍手を送っていた。
「あ~負けちゃったぁ」
「諦めないでみんなで最後まで頑張ったんだけど負けちゃった」
蓮達のもとに来た杏里も美桜も負けた悔しさはあるのだろうが、笑顔だった。
「惜しかったな。でもいい試合だった。二人とも本当にお疲れさま」
「お疲れ。本当最後まですごい熱戦だったな」
だから蓮と柊平も笑みを浮かべる。
「ごめんね、折角応援してくれたのに。ありがと」
「応援ちゃんと聞こえてた。そのおかげで最後まで頑張れたよ。ありがとう」
二人ともはにかむような笑みでお礼を言った。
四人でしばらく話していたら蓮達の試合の時間が近づいてきた。
「次は蓮と柊平の番だね!頑張って!」
蓮は返事をするだけだったが、柊平は違った。
「おう。杏里、俺がゴールするとこちゃんと見てろよ?」
「なあに柊平。らしくもなくやる気満々じゃん」
「まあな」
「ふふっ、わかった!しっかり見てるからね!」
美桜も二人に声をかける。
「蓮くん、日下君頑張って」
「ああ。見ててくれ。予選よりもっとできそうな気がするから」
「うん。楽しみにしてるね」
そうして試合が始まった。
開始早々、柊平が宣言通りゴールを決め、幸先のいいスタートを切った。応援のテンションが一気に上がる。だが、これまでの試合を見ていた皆が一番驚かされたのは昇かもしれない。昇はこれまでの試合が嘘のようにボールを追いかけ我武者羅に走っていた。
昇は悔しかったのだ。屋上で知った事実。あろうことか蓮に心配されていたことが。それが原動力となり歯を食いしばって必死にプレーした。
だが、如何せん元々それほど上手い訳ではない昇だ。悲しいことに連携もできていない我武者羅な動きは空回りしてしまっていた。
それが外から見ているとよくわかる。そして案の定というべきか、そこから相手に得点を奪われてしまった。必然、再び応援に来ているクラスメイト達から昇を非難するような言葉が漏れ始める。
それでも昇は諦めることなく、そして止まることなく走り続けた。
そこからは互いに決定機はあれど得点が奪えないまま、時間だけが過ぎていった。
―――――あとがき――――――
こんばんは。柚希乃集です。
読者の皆様、いつも応援くださりありがとうございます!
更新が遅くなり申し訳ありませんm(__)m諸事情により今までよりもちょっと更新ペースがゆっくり目になってしまいそうです。楽しみにしてくださっている読者様、本当に申し訳ありませんm(__)m
これからも頑張って書いていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます