第8話 悪役令嬢は駆け引きをする

「おまえが情報ギルドの合言葉を知っている嬢ちゃんか」


デュランは栗色の髪にヘーゼル色の瞳をしている。

もちろん、文句無しの美形だ。


攻略対象、美形、絶対。


頭の中にそんな標語が浮かんでくる。

顔面偏差値高いなぁ。


そんな呑気なことを考えているなどおくびにも出さず、私は首を傾げた。


「情報ギルドはどんな相手でも合言葉を知っていれば客になれると聞いていましたが、違いましたかしら?」

「いいや、違わない」

「それなら良かったわ」


ギルド長の部屋は一見普通の応接室だ。

デュランに勧められて私はソファに腰を下ろす。

彼が立ったままなのは、何かあった時に対処するためだろうか。

ダグラスは座った私の背後に立つ。


「で、お嬢ちゃんは何の情報が知りたい?」

「そうですね、取り引きがしたいです」

「は?」


まだ少女と言えるであろう見た目の子どもから取り引きを持ちかけられればそういう反応になるのもしかたない。


「ですから、取り引きがしたいのです。私はあなたが欲しい情報を持っている。その情報の代わりにお願いしたいことがあるので、取り引きを希望しますわ」


私の言葉を子どもの戯言とでも思ったのか。

頭を抱えたデュランが小さくうめいた。


「あー…なんだ。冒険したい年頃かもしれないが、ここは遊びで来るところじゃない」

「あら、嫌ですわ。そんなことわかっております。見た目だけで判断されますと後悔しますわよ」


手に持っていた扇を広げて私は口元を隠した。

そして小さくこう言う。


「妹さん、今どこにいらっしゃるかご存知?」


その一言にデュランの雰囲気が一変した。

先ほどまでは背伸びをしたがるお嬢さんをどうやって穏便に帰そうか考えている感じだったのが、一気にその視線が鋭さを帯びる。


「この世界、おふざけはご法度だがわかって言っているのか?」

「もちろんですわ」


私はにこりと微笑んで、あくまでこちらには余裕があるのだと見せつけた。

駆け引きは最初が肝心。

主導権はこちらが握らなければならない。


「わかった。まずは話を聞こう」

一つ息をついて気持ちを落ち着かせると、デュランは今度は私の向かいのソファに腰かけた。

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