差し出口
「似ているか?」
エスターが囁いた。
延べられた寝具の上生きているのが不思議なほどに青白い顔の若者は意識が戻ることもない。
こちらへ-―-とひそやかに廊下へと促し、襖障子を後ろ手に閉ざした。
もとの部屋に戻り、
「あなたが意識を失っている顔は存じませんが」
ふむ。細い顎に手入れの行き届いた手をあてて、考え込む。
「お前に助けられたとき私は意識を失ってはいないものなぁ」
そう言われてレヴィの頬が震えた。
「いかにも育ちの良さそうな少年が供もつれずにふらふらと歩いていらっしゃるからですよ」
その呆れたような口調はかつての彼の愚行を思い出させる。
「今もそこは変わりないようですが」
それにハハとばつが悪そうに軽く笑い、
「色々学んだし鍛えたからね」
お前も付き合ってくれたろう。
楽しそうに付け加えた。
「それにしても、私に似ているーーーか」
「似ておいでですよ。顔の輪郭など少し前のあなたのようですし。鼻や眉の形が特に」
ただあなたより線は細いようですが。それに。
「それに?」
「いえ。なんでもありません」
「言い止(さ)すのかい?」
己の迂闊さに臍を噛む思いをしながら、
「これは医師から聞いたのですが、全身に新旧さまざまな傷があるとのことで」
肋こそ浮いてはいなかったものの痩せぎすのからだは青白く、それでいながら不思議な色香を漂わせているようにも見えた。尤も。それは全身に刻まれた傷痕に忌避感がなければのことではあった。
長く虐待を受けていたのだろうと、痛ましそうな表情を隠しもしなかった医師を思い出す。
医師は当然わかってはいたのだろうーーーとレヴィは思う。あれらの傷痕の意味するところがただの虐待などではなく、性的な色合いを帯びているものなのだと。
「虐待か」
「おそらくは」
「憐れな。どうにかできないものかな」
「よく知りもしないというのに差し出口はどうかと思うのだが」
だからこそレヴィはそう口にしたのだった。
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