第6話 この人を泣かせちゃダメだ!!

 リタがティオと森で遊んでいる時、アスタルト邸ではなにやら騒々しい様子であった…。


「なんだ、何があったんだ?」

「はい、実は王国騎士団が護送していた巨獣が暴走して、脱走したらしいのです!」

「なんだって!!??」


 使用人から騒ぎの原因を聞いたサイガとユーリは当然驚いたが、さらに驚くべき事を耳にした。


「さらに、巨獣はこちらに向かっていると報告が…」

「なんだと!?」


 巨獣が自宅に向かっているとの報告を聞き、更に焦った2人であったが、この後もまさに不幸の連続かの如くとんでもない事態が起きるのだった。

 それは、突然の巨大な雄叫びと共に思い知らされた。


「おい、なんか聞こえなかったか…」

「方角は、あっちか…え…あそこって…」


 2人は唖然とした。雄叫びが聞こえたのは、なんとリタが良くいく森の方角からであった。

 先ほどリタからティオをつれて森に行くと言う事を聞いていた事もあり、2人はパニックに至った。


「お、おい兄貴!!どうすんだよ!!り…リタが!!!」

「どどどどどどど…どうしよう!!!リタが…リタが…」


 もちろんパニックになっていたのは、2人だけではなく、両親や姉であるサティも大いに焦っていた。自分の娘、妹に危険が迫っているから当然と言えば当然かもしれない。


「いやあああああああああああ!!!リタがあああああああああああああああああああああ!!!」

「リタああああああああああああああああああああ!!


 ーー場所は戻り、森の中

 巨獣の襲撃によって森が徐々に崩壊している中、リタはティオの手を取ってそのまま逃げた。さらに空いた方の片手には仲が良いリス達も抱えていた為に、走っている時のバランスが微妙出会った。


「ここは危ないから、早く屋敷に戻ろう!屋敷の中に入れば安全だから!!」

「戻るったって…森が…!!」


 樹木は倒れ、草花はぐしゃぐしゃとなり、既に森は原型を留めていない程に荒れ果て状態となっていた。


「「わぁ!!」」


 逃げてる2人であったが、前には前には大きな樹が倒れてきてしまい、2人(とリス達)の逃げ場はなくなってしまった。


「どうしよう…!」


 周りは既に巨獣による被害にあふれもはらどこを見ても逃げる隙は無かった…。

 逃げ場を失ったリタ達、もはや彼女達は絶望の淵に立たされていた。

 

「もうだめ…」

「リタさん…」

「ごめんね…ティオ…私があなたをここに連れてきちゃったから…、こんな事に巻き込んじゃって…全部私の所為だわ…」


 リタは泣きじゃくりながらティオに謝罪した…。その泣き顔は、ティオからしたら先程まで自分やリス達に対して見せた可愛らしくも優しい笑顔とはかなりかけ離れていたもので、その姿はティオにとっても辛く苦しいものであった。


「リタさん、泣かないで…僕が行きたいって思ったから…リタさんは悪くないよ…」

「ティオ…」


 励ましの言葉に何とか落ち着いたリタであったが次の瞬間…


 ザシュッ!


「え…」


 斬撃のような何かを斬る音が聞こえ、その方角を向くとさらに衝撃の光景が見えた。


「え…そんな…なんで…!?」


 2人の目の前には腕に大量の出血が出る程の傷を負った大きめのリスがいた。しかも不幸な事にそのリスは今リタが抱えているリス達のお母さんであった…。


 我が子を守ろうとしての事だったのか、その母親リスは瀕死の状態だった…。


 それを見たリタ…。更なる怒りと悲しみが盛り上がってしまっていた…。


「どうして…どうしてなの…どうしてこんな事をするの!!あなたはどうしてこんなひどい事をするの!!この子達はまだこんなに小さいから、お母さんがいなきゃダメなのよ!!お母さんが死んじゃったら、この子達は生きていけないのよ!!」


 リタは怒りを込めた必死の想いで巨獣に訴える。しかし、彼女の想いは巨獣に響くはずもなかった…。

 それどころか、巨獣はそんな事はお構い無しというかのようにリタに襲い掛かろうと大きな牙を揃えた巨大な口を突き出す…。


「グワアアアアアアア!!」


「リタさああああああああああん!!!」


 巨獣の猛攻に叫ぶティオ、そして「死ぬ!?」そう思ったリタであったが…


「え?」


 なんと、巨獣の動きが止まっているのが見えた…いや、止まっているのではなく、止めていたのだった…


「え!?ティオ!?なんで!?」


 巨獣を止めていたのはなんと、であった。小さな体に内気だが明るい一面を持つそんな彼が、まごうことなくリタの目の前で巨獣の口を抑えて動きを止めていたのだった…。


「リタさんを、泣かせるなんて…」

「ティオ…あなた…一体…!?」


 ティオが巨獣を止めている事を当然驚きを隠せていないリタであったが、ティオは更に巨獣を押し退けるように、叫んだ。


「この人を…リタさんを…泣かせちゃ…ダメだあああああああああああああああ!!!」


 まるで怒りを力に換えているかのごとくティオは巨獣を圧倒していた…。

 更に、追撃のようになんと、


「グワアアアアアアアアアア!!」


 そして、そんなティオの実力に成す術を無くし巨獣はその場で倒れたのだった。だが、死んではいない為2人はリス達と母親リスを連れて逃げようとした。しかし…


 まるで、力を使い果たしたかのようにティオには、疲労が目立ち始め、なんと彼はその場で倒れてしまった。


「ティオ…ティオ!ティオ!!」


 ティオを心配するリタ。そんな中、騒動により多くの使用人や家族達が、駆け寄ってくるのだった。


「リタ様!」

「リタ!」


 巨獣は兵士と捕獲の為に来た騎士団により再び護送され、リタはサイガ、ユーリ、サティに心配の声を寄せられるのだった。


「リタ!大丈夫!?」

「このバカ!!こんなに心配させやがってよ!!心臓止まって俺が、死ぬと思ったよ!!」

「リタあああああああああああああああ!!!怖かったでしょ!?怪我はない!?どお姉ちゃんが手当てを!!」

「私は大丈夫!それよりこの子達と…ティオを!!」

「え?ティオ?」


 リタは早速駆け寄ってきた兄姉達にリスの家族とティオの介抱の手伝いを申してそのまま屋敷へ戻った。

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