第69話 トラブル発生女
放課後に生徒会の仕事を終えた俺は、夕食後に図書室に来ていた。
今は横のイリスのノートを見ながら、彼女の勉強に付き合っている。
「そこ、間違えてるぞ。」
「え?違うんですの?」
俺は自分のメモ帳に、間違っている箇所を写して、彼女に見せる。
「ここが違う。さっきの魔法陣を見返してみ。それでもわからなかったら答えを教える。」
いきなり答えは教えない。それでは自分の頭で式を組み立てる力がつかない。
彼女が最終的に学びたい魔法は何か知らないが、これだけ真面目にやっている。なら地力はつけておいて損はない。
魔法は上に行くほど詠唱は長く、魔法陣は複雑になっていく。そこで必要なのは式の意味を理解する力だ。
全部暗記で覚えていると上に行くほどキツくなる。
「ふあ…あぁ、ごめんなさい。少し休憩してもいいかしら…」
眠いのか疲れているのか、イリスが珍しく集中できていない。
「いいぞ。今日はこの辺にしておくか?」
「いえ、もう少しやりたいですわ。早く強くならないといけませんし。」
そう言いながらもイリスの頭は舟を漕いでいる。
「そうか。なら、頑張らないとな。でも、今日は寮まで送るから、また明後日一緒に勉強しような。」
俺はイリスのノートを閉じると、彼女の荷物を持って席を立つ。寮の入口で待っているはずのメイドさんのところまで送ればいいだろう。
校舎の中にはメイドや執事は入ることができない。昔、大量の付き人を連れてきた貴族がいたらしく、学習の妨げになるということで一律禁止になったらしい。
「わかったわよ…ふあぁぁ…ルーカス、私に好きに触れていいから、ちょっと肩を貸しなさい…」
イリスは立ち上がりながら俺の胸に飛び込んでくる。肩に顎を乗せると、そのまま寝入りかけていた。
「おいイリス、まだ寝るなよ。帰ってちゃんと風呂入って着替えてからな。」
俺は半分寝ているイリスの肩を抱えて、体を揺する。こんなところで寝られたら俺が帰れなくなってしまう。
王女をほったらかしにして帰る馬鹿がどこにいるというのか。
「無理よ。眠いわ…あなたが全部やっておいて…」
イリスはそれだけ言うと俺を向かい合うように抱きしめて、全体重を預けてくる。
「イリス、おい、寝るなー?」
俺が肩を揺らすと一時的にイリスが目を覚ます。だが、明らかに目が半開きで頭が回っていないことがわかった。
「あれ、ルーカス…?もう、やっとその気になったのね…ああ、でも、中はダメよ。子供できちゃう、から…」
俺はその一言でイリスを突き飛ばしたくなる。だが、イリスは朝、昨日は茶会で忙しかったとボヤいていた。
彼女も疲れているのだ。
俺は肩に二つの鞄を掛け、イリスを抱きとめて歩き出す。ゆっくりと図書室をあとにする。
「ん…」
歩く度にイリスの体が不定期に前後左右に揺れる。俺の右手は彼女を歩かせるために、腰のあたりを必死に押さえている。
「ルーカス…違うわ、もっと下よ…」
「ちょっと黙って歩いて。」
俺はムカつきながらゆっくりと階段を降りる、一回飛行魔法で浮かせて運ぶことも考えたが、さすがにそれは無礼というレベルではない。こんな奴でも王女だ。それくらいの気遣いはしなくてはいけない。
「もう、後で文句言うなよ…」
俺はイリスの足を掴むと、左手で彼女の肩を支えて、お姫様抱っこをする。さっきより格段に歩きやすくなった。代わりにイリスの体が密着している。これで誰かに見られたら変な想像をされそうだ。幸いもう校舎に残っている生徒はいないだろう。
俺は月明りに照らされた玄関から、イリスを抱えて帰ることにした。
俺は校舎を後にして、女子寮の方に歩いていく。
女子寮には全体的に明るい色の木材が使われており、一目で男子寮と区別できるようになっている。
自分から近づくのはこれが初めてだが、中も同じ作りになっているんだろうか。
「あれ…?」
入口に居るだろうと思っていたメイドがいない。
「すまん。開けてくれ。」
入口の扉をノックする。しばらく待ってみたが、反応がない。もしかしなくても、中に入らなければいけないのだろうか。外にメイドがいないということはこいつを少なくとも部屋の前までは運ばなければいけないということだ。
俺は考え込んだ
「失礼します。」
俺は女子寮の扉を開けて中を見てみる。
「え?」
そこには寝巻き姿の女子生徒達がエントランスでたむろしていた。
そして、その場にいた全員の視線がこっちに向く。
俺は静かに扉を閉めると、そっと逃げようとする。
「侵入者!捕らえなさい!」
そう言って女子生徒たちから様々な拘束魔法が飛んでくる。
「はあ、だから嫌だったんだよ…」
イリスを抱えたままの俺は逃げることができず、その場であえなく捕まってしまった。
「で、あんた女子寮の周りで何してたの?」
捕まった俺はエントランスで詰問されていた。
「だから、誤解だ。俺はこいつを送り届けに来ただけだって。」
俺の横で寝かされているイリスを顎を動かして指定する。
女子生徒たちは俺をゴミを見る目で見下ろしてくる。
「どうだか。そのイリス様も眠らせて、もてあそんだ後かもしれないじゃない。男なんて性欲しかない穢らわしい生き物なのだし。」
中央にいる女子生徒が開口一番俺を罵倒してくる。
「まあ、男が性欲で動いてるのは否定しないけど。」
ダニエルとかそうだったし。
俺がそう言うと、その女子はこっちを睨んでくる。
「ほらみなさい!あなただって私たちを犯しに来たに決まってますわ!私たちを傷物にして、もてあそぶつもりだったんでしょう!」
「そうよ!こんな奴、死刑でいいわ!」
「前に下着がなくなった件もあんたがやったんでしょ!」
えらい言われようだ。
ボコボコに罵倒された挙げ句、変な濡れ衣まで着せられてしまった。
でも、傍から見れば、実際疑わしいのは事実だ。
俺はどうしたものかと思って目を閉じる。
「はぁ…もうどうにでもなれー。」
考えた結果何も答えが出ることはなく、俺は現実逃避することしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます