俺の夢の結末
小土 カエリ
限りなくゼロからの再出発
第1話 プロローグ 終わりの始まり
ああ、どうして。こんな結果になってしまったのだろうか。
「おいおい、どうしたんだおっさんよぉ?まだおねんねするには早すぎるだろうが!はっはっはっ!」
これが力を求めて生きてきた俺への罰なのだろうか。
「ああ、そんなこと言ったら、フフッ!そんなこと言ったら可哀そうでしょ!」
世界に挑み続けて、そしてたどり着いた頂の景色がこんなものだなんて。
「そういうお前も笑っちまってるじゃねぇか!」
────俺は、俺は認めない。
「なあ、アリサ。俺のこと、愛してるか?」
俺はそう問いかけずにはいられなかった。その答えが俺を奈落の底に叩き落すと知っているのに。
「あんたのことなんてもう愛してるわけないでしょ。あんたなんかよりも彼の方が何倍もいいもの!」
そうか。なら幸せにな。
口にしたいはずの言葉は喉を通ることを許さず、俺自身の中を黒い絶望で満たしていく。
だというのに────。
「祖はここにあり、そして過去、未来を重ね、我は願う────。」
俺が人生をかけて研究していたとある魔法の詠唱は、流れるように口にすることができた。
我ながら笑ってしまう。こんな状況なのに体に染みついた魔法の詠唱だけは、このドス黒い感情をもってしても止めることはできないようだ。
────俺は認めない。
だが、これが世界に対する反逆だというのなら、俺はその罪を甘んじて受け入れよう。
「円環の理を破り、神の定めし摂理を覆し、常世全て、幽世全ての存在を敵に回すとことになろうとも我は願う────。」
────俺は認めない。
その先に終わりなき旅が待っていることを俺は理解している。だが、もう止まることはできない。
「ちょっとあんた何してるのよ…?まさか私たちを巻き込んで自殺するつもりじゃないでしょうね!?」
「ふざけんな!こんなおっさんの自殺に付き合ってられるか!おいどけよクソババア!」
「痛い!ちょっとクソババアって誰のこと言ってるのよ!!」
ああ、なんて酷い姿だろうか。俺が本気で愛した人はこんなにも醜かったんだな。
「我が存在の全てをかけて挑むは、世界なり────。」
────俺は認めない。
「安心してくれ。これはただの自殺の魔法だ。当然効果範囲は俺一人だけ。お前たち二人を巻き込むことはない。」
安心させようとしているのは本当だ。この魔法で二人が死ぬことはない。
「え、そ、そうか…脅かしやがって。死ぬならさっさと死ねよ。さっきからもう目障りなんだよ。」
「あんた何私のこと無視してるのよ!さっきのクソババアってどういうことよ!私のこと愛してるんじゃないの!」
俺の周囲を魔法陣の光が包んでいく。俺がこの人生で使う最後の魔法だ。
「だが、我が魂が世界と永遠に添い遂げることも、ここに同じく誓おう────。」
気付いたときにはもう既に大粒の涙が流れていた。ある程度歳のいった男の最後にしては無様なことこの上ない。
────俺は認めない。
「おお、神よ我が挑戦をご照覧あれ────。」
声もひどく震えているのだろう。
────俺は認めない。
「我こそ生命の究極────。」
────俺は認めない。
「神の座に手をかけしものである────。」
────俺は認めない。
────あ、これだけは言っておかないと。
「アリサ・クエルトラム。」
「な、何よ?」
「愛してたよ。」
「え…?」
「────我が生はここより始まるものなり!輪廻転生!!」
────俺は認めない。
────愛が、こんなにも残酷なものだなんて、認めてなるものか。
────俺はこの先も疑い続けるのだろう。
────真実の愛にたどり着くために。その過程でいくつもの終わりをむかえることになるだろう。
────さあ、行こう。文字通り次の人生へ。
────地獄の先へ────。
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