第27話 レベルアップ
ゾクリ……。突然俺の左手に冷たいものが触れる。何だと見れば、シャドーが俺の手に取り付いていた。
「うわっ! キモチワルッ!」
手についたシャドーはそのままブルブルと震えながら俺の手から少しづつ肘の方へとよじ登るように取り込む範囲を広げていく。触れられた場所からどんどんと体温が吸収されていく感じだ。ゾクゾクとする嫌悪感と共に、左手から力が抜けていくような感じまでする。
反射的に振り払おうと手を振るが全く振りほどける気がしない。半透明のなんとなく人の上半身だけのような形態がズルズルと俺の腕を登ってくる。
エグい。
「やべえって、急げ!」
「もうちょっと!」
後ろでは、スーが必死に指輪に蟲を補充している。
「なんか、熱を奪われてる! やべえのこれ?」
「シュウサクなら大丈夫」
「何の根拠っ!」
コイツ……。まさか人ごとだとでも思ってるんじゃないのか?
右手の警棒で、刮ぐようにするが、警棒はシャドーの体をスッとすり抜ける。超都合良いじゃねえか、くっそ。
そうこう言っているうちにもう一匹のシャドーが俺に取り付こうとする。あんなのがもう一匹憑かれたらまじでヤバい。
「来るなって!」
俺は必死でシャドーに向かって警棒を振るう。
バチッ!
その俺の振りで、警棒に仕込まれた帯電蟲の機能が動いたようだ。そして、その電撃に触れたシャドーが弾けるように後ろに下がった。
「お?」
「どうしたの?」
「コイツ。電気は効くぞ!」
「電気?」
これは行ける。
俺は、腕に取り付いたシャドーに向かって警棒を振る。自分の身体のすぐギリギリの位置を電撃を纏った警棒振るためちょっと気は遅れるが、振りが遅ければ電撃は発生しない。
「こなくそ!」
気合でなんとか電気の発生する速度に達することが出来たようだ。バチッという音と共に腕に取り付いていたシャドーが弾ける。
俺にも若干はビリッとしたが、うまく行った。
「よしっ!」
先程のシャドーに引き続き、どんどん森の中からシャドーが出てくる。電撃で弾かれたシャドーも、少し離れた後にすぐに再び俺に向かって飛来する。どうやらこの警棒の電撃ではコイツラに致命的なダメージを与えることは出来ないようだ。
しかし、取り付いてくるシャドーを弾くことが出来るなら……。なんとかなる。
バチッ。バチッ。
近づくたびに警棒を振るいシャドーを弾いていく。まるでモグラ叩きでもやってる気分だが、ようやくスーの蟲の補充が終わった。
「どいてっ!」
「言い方!」
スーの言葉に文句を言いながらも、蟲の射線を開ける。すぐに火の玉が俺の脇スレスレを通り、シャドーに命中する。更に間を開けずに二発。蟲は狙いを誤ること無くシャドーを燃やしていく。
「またお願い!」
「おうよ」
指輪に仕込んだ蟲は三発打てば、また補充が必要になる。俺は再びスーの前に出る。シャドーはあと数匹だ。これならもう問題ない。最初はどうなることかビビったが、この程度ならいくらでも行けるだろう。
実際、程なくしてシャドーの群れは全て始末する。俺が倒したシャドーは一匹も居なかったが、俺が居なければこの群れは同仕様もなかったはずだ。
俺は爽やかな笑みを浮かべ、スーを振り返る。
「よし、これで大丈夫そうだな」
「そうね、まさかこんなところでシャドー……うっぷ」
「おっぷっ」
まただ。あのブッシュタイガーを倒したときほどの酷い状態には成らないが、少しえずく。スーも吐くまでは至らないが、同じように気持ち悪さを感じているようだ。
お互いに少し落ち着くのを待ってからスーに話しかける。
今度はちゃんと確証を得ておきたい。
「はぁ。はぁ……。なあ、この気持ち悪いの。これが来るとちょっと強くならないか?」
「そりゃあそうでしょ。え? シュウサクの世界はそういうの無いの?」
「いやまあ、似たようなのはあるけどな。こんな吐き気まで起きるってのはあまり聞かねえよ」
「ふうん。でも、こんな強いのは初めだけよ。まだまだ階段を登らないうちに強いモンスターとか沢山のモンスターを倒すと何段か抜かして階段を登ることがあるの、そうすると一気に体に負荷が来てこうなるのよ」
「階段を登る?」
「そうよ。私達はこの現象をそう言うわね。神様が悪いモンスターを倒した人々にご褒美をくれるって言われているわ」
「神様のご褒美か……。やはりメルヘンだな」
異世界の話だ。しかもこの世界はミラクルメイドウズとかいう獣人だけのメルヘンな名前の世界だしな。神様もいるんだろう。
ちなみに、普通はちょっと立ち眩み程度の感覚があるだけのようだ。今回のシャドーは物理攻撃が効かないという面倒くささはあるものの、実際の強さはブッシュタイガーよりだいぶ落ちる。それでも大量に出てくれば、経験値もいっぱいもらえたって感じか。
「これでシュウサクももう少し強くなると良いんだけど」
「上からだなあ」
「それはそうでしょ? シュウサクが強くならないと、冒険者としての私の実績が伸びないもの」
「ん? まあ。そうだな。それは任せておけ」
たしかにそうか。スーは蟲を使えるには使えるが、基本的に戦うのは俺だ。それが召喚師のあり方なのだろう。
スーは話しながらもレジャーシートの様な小さな皮の布を地面に敷き、カバンにくくり付けてあった毛布のようなものを広げる。
「魔法とか使えるように成らないかしら」
「そんな感覚はねえな。でもまあ、指輪は早く買ってくれよ。二人が蟲を飛ばせればさっきのももっと楽に終わってたんじゃねえか?」
「分かってるわよ。確かにシュウサクだけの話じゃないわね。でもそれには早く冒険者に成らないといけないの。ちゃんと協力してね」
「ああ、分かってるって」
「じゃ、私は寝るから。夜番の方よろしくね」
「ああ……」
言うやいなや、手にした毛布のようなものを体に巻き付けるように羽織ると、樹により掛かるようにもたれ、目を瞑る。
俺は魔物を退けた充実感の中、そんなスーをぼーっと眺める。
俺の強さか……。地球じゃそんな物は必要ないが、男ってやつはいつだって自分の強さを求めてしまうものさ。
……ん?
……あれ?
「おーい……」
「zzz……」
なんだよおい……。俺を帰すんじゃなかったのか?
結局寝れねえの? 今夜も。
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