第26話 襲撃 Ⅰ
「そうか。カインをやったか……。復讐したんだな……。」
「はい。」
あの後、帰ってきてグロールさんにも報告をした。
「だが、お前の復讐は終わってない。そうだろ?」
「はい。まだまだ俺を虐めていた奴等は居ます。父の仇も討ててませんし、やることは山積みです。」
グロールさんは静かに頷いた。
「そうだな。その通りだ。」
「……そういえば、約束通り、父の昔話を聞かせて下さい。」
この人にはこれが一番聞きたいのだ。
レインさんにも聞いておきたかったが、戻ったらいつの間にか何処かへ行っていた。
「ん?そうだな……どこから話した物か……。」
「シャイン隊長!急報です!」
すると、本部のテントが騒がしくなる。
斥候と思われる人物が本部のテントへ駆けていく。
「何だって!?」
すると、本部のテントからシャインが出てくる。
そして、村の見える高台まで駆けていく。
「くそっ!状況の確認を!急げ!」
「はい!」
シャインは何かを確認すると急ぎ支持を飛ばしていた。
「これは……。何と言うことだ……。」
「どうしたんですか?」
そうか、この人はスキルで状況を見ることが出来るのか。
もう見たのだろう。
「村が……焼き討ちにあっている。」
「助けて!」
「し、死にたくない!」
村に辿り着くと、そこは火の手がまわり、もはや逃げ場もほとんど無い地獄のような有り様だった。
そこら中から悲鳴が聞こえてくる。
「何があったんですか!?」
「……恐らく、陽炎部隊の仕業だ。カインがいなくなったことを良いことに村の住民を全て殺すことに決めたんだ。」
「なんてそんな急に……。」
レインの疑問も最もだ。
あちらにいた時はそのような様子は一つも無かった。
シャイン達、蜃気楼の面々もほぼ全員が駆けつけていた。
「恐らく、君にスキルが渡るのを阻止するためだ。」
「俺……ですか。」
シャインは頷く。
「元々魔王軍は今後脅威になりうるスキルの排除を目論んでいたし、君という脅威にスキルが渡るのを恐れていた。カインがいなくなった今、村人を殺し尽くすのは……間違っては居ない。」
「……くそっ!」
「アルフレッド君!?」
思わず駆け出してしまうが、レインに呼び止められる。
「どうするつもりですか!?」
「村の連中を始末するのは俺です!俺以外の奴が皆殺しにしては意味が無い!俺が殺したいから殺すんてす!」
もう一度駆け出そうとする。
すると、レインに腕を掴まれる。
「落ち着いてください!ここに来る前のグロールさんの言葉を思い出して下さい!」
「……復讐をするのは良いが、人としての道を踏み外すな……ですか。」
レインは頷く。
グロールにはここに来る前に一言言われていた。
「そうです。アルフレッド君。あなたは本当は優しい人です。小さな子どもや赤ん坊はあなたを虐めましたか?あなたを虐めていない人もこの村には必ず居るはずです。」
「……でも。」
レインは俺の腕を強く握る。
「それに、全員が全員、あなたに殺されなければならない程虐めましたか?見て見ぬふりをした人まで殺す必要は無いんじゃ無いですか?」
「……そいつ等が見て見ぬふりをしたから俺は虐められてきたんだ!何も知らない奴が偉そうに!……すいません……。」
つい言葉を荒くしてしまった。
そんなつもりは無かったのに。
「……良いですか?私も人をたくさん殺してきました。そのたびに、自分に正当性を持たせるために理由付けをしました。それでも、殺せなかった人もいた。」
「……。」
燃え盛る村の中、レインの話を静かに聞く。
俺はいつの間にかレインの顔をまっすぐ見ることが出来ずにいた。
「殺しを楽しんではいけません。あなたは本来そんな人じゃない。そんな生活を続けていては、いずれ壊れてしまいます。殺さなくても良い人は、殺さなくても良いんです。全員殺す必要は無いんじゃ無いですか?」
「分かりました……それでも。」
俺はレインの顔を見て話す。
確かに、俺は段々と殺しを楽しんでいたのかもしれない。
段々と強くなる自分を。
段々と誰も敵わなくなってくる自分を楽しんでいた。
彼女はそれに気付いていたのか。
……彼女のここまで真剣な眼差しは見たことが無い。
「それでも……自分を制しきれなくなったら……。」
「その時は、私が止めます。私はいつでも、あなたの味方です。いつでも側にいて、いつでもあなたを助けます。」
成る程。
この人には、敵わないな。
どれだけ強くなろうともこの人には、頭が上がらない。
「……さぁ、アルフレッド君。どうしますか?」
「……俺を虐めていた奴等は助けません。」
村を見る。
もう手遅れかもしれないと思えるほど、火が回っている。
「でも、いちいち選別していたら助けられる者も助けられません。まとめて全員助けて、殺すかどうかは後で決めます。手伝って……くれますか?」
「勿論です!」
「よし!全員、村人を救助しろ!全員だ!全ての村人を救え!」
シャインの号令が鳴り響く。
レインは、彼女は俺にとって特別な人になりつつあるのかもしれない。
何があっても彼女を死なせない。
彼女も俺を死なせまいと励んでくれている。
ならば、全身全霊でそれに応えよう。
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