時間を超える待ち合わせ

ピロスケ

時間を超える待ち合わせ

「兄さん、急に呼び出して何ごとだい?」


「きたか。

お前が開発したコールドスリープ装置はずいぶん注目されているらしいじゃないか」


「おかげさまで問い合わせが殺到して忙しくしているよ。

兄さんも意地を張らずに開発に加わってくれたら良いのに」


「ふん、なぜ私がお前の下で働かなくてはならない。

先に成果を出したからと言って調子に乗りすぎだ。

これを見るがいい!」


兄が仕切りのカーテンを引くと、小型車のような乗り物が現れる。


「私が開発したタイムマシンだ!」


「な、なにぃ!!」


「未来にしか飛べないが、瞬時に時間を超えることができる。

コールドスリープとどちらが優れているかは言うまでもあるまい」


「そ、そんなことはない!そもそもまだ誰も経験したことがないのだ。

どちらが優れているかなんて、試してみないと分からないだろう!」


「ならば試してみようじゃないか。

お互いタイムマシンとコールドスリープを使い、10年後のこの時間に待ち合わせよう。

自分で経験すれば結論が出るだろうよ」


「望むところだ!」


そうして兄はタイムマシンで未来に飛び、弟はコールドスリープ装置で眠りについた。




10年後。


約束の広場にタイムマシンが現れ、扉が開いて兄が降り立つ。


兄の時間感覚では弟と別れてまだ数分足らず。

しかし広場の周りの景色は大きく変わっており、確かに時間が経過したことを示している。


この兄弟対決のことが広まっていたのか、広場は多くの人に囲まれていた。

その人だかりの中心に先に到着した弟が立っている。


「ちょっと見ない間に老けたな。コールドスリープは失敗か?」


「いや、コールドスリープ装置は完璧だった。

5年前に父が倒れてね…母がコールドスリープを解除して知らせてくれたんだ。その後父は亡くなってしまったが、最期に話せてよかったと思ってるよ」


「そうか…それは…残念だった」


タイムマシンで飛ばした時間の出来事はもう経験できない。

科学者としての師でもあった父が亡くなったと聞き、兄は少し後悔した。


「その後もクーデターが起こったりして大変でね、コールドスリープを再開できる状況でもなく歳を重ねてしまったよ」


「大変だったのだな…まあその点ではタイムマシンの方がリスクは小さいと言えるわけだ」


「そうだね、たしかにタイムマシンがコールドスリープよりも優れている点はある。

なのでそのタイムマシンはいただくよ」


そういって弟が合図すると、周りから兵士が進み出て兄を取り押さえた。


「な、なにをする!!

お前に私の発明を奪う権利などないだろう!」




「権利ならあるよ。私はこの国の大統領だからね」


コールドスリープで使った技術を軍事利用する方法に気づいた弟はその技術を使ってクーデターを起こし、最終的に大統領となった。

そして何も知らない兄がタイムマシンに乗って到着するを待ち構えていたのである。


目覚めてから兄との待ち合わせの日まで、

弟には悪巧みする時間がたっぷりあったのだ。

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